国立感染症研究所

風疹の現状と今後の風疹対策について(2003年5月)

 

 

国立感染症研究所 感染症情報センター
平成15年5月 


目 次
報告書 まとめ
1.風疹について
  1) 風疹とは
  2) 先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)とは
  3) 病原診断
  4) 治療・予防
  5) 感染症法における取り扱い
    (1) 風疹
    (2) 先天性風疹症候群
  6) 学校保健法における取り扱い
  7) 感染症発生動向調査に基づく我が国の風疹患者数
  8) 年齢別風疹抗体保有率
  9) 風疹感受性者の推計
2. 風しんワクチンについて
  1) わが国における風疹ワクチン接種の経緯
  2) 風しんワクチン接種率
3. ワクチン株と現在流行している野生株の比較
4.地域における風疹ワクチンキャンペーン
5.世界における風疹対策の現状
  1) 風疹および先天性風疹症候群(CRS)の予防の強化、 2001~2002年-ブラジル
    (WHO、 WER、 77、 No.21、 169、 2002より)
  2) 英国におけるMMRワクチン論争の最新状況
    (Eurosurveillance Weekly、 No.4、 2001より)
  3) 風疹・先天性風疹症候群(CRS)の状況、1997~1999-米国およびメキシコ
    (CDC、 MMWR、 49、 No.46、 1048-1059、 2000より)
  4) ギリシャにおける風疹の流行
    (BMJ 319: 1462-1467, 1999より)
  5) 開発途上国における風疹と先天性風疹症候群(CRS)のコントロール
    (Bulletin WHO、 75(1)、 55、 1997、Bulletin WHO、 75(1)、 69、 1997より)


 報告書資料集(図1-8)
   図1 風疹患者報告数の推移、1982~2002年(感染症発生動向調査)
   図2 風疹患者の年齢分布、1999~2002年(感染症発生動向調査)
   図3 年別都道府県別風疹患者発生状況、1999年~2002年
   図4 性別年齢群別風疹抗体保有状況、2001年(感染症流行予測調査)
   図5 0-39歳 推計風疹感受性人口(2001年度感染症流行予測調査より)
   図6 14-22歳 推計風疹感受性人口(2001年度感染症流行予測調査より)
   図7 風しんワクチン定期接種の経緯
   図8 中学生に対する風しんワクチン実施率(1977~2001年)(厚生労働省)
   図9 風しんワクチンMMRワクチン接種率、2001年度
   図10 日本における風疹関連人工流産数と定点あたり風疹患者報告数の推移

 


報告書 まとめ

 1994年の予防接種法改正により、1995年4月から中学生のみならず生後12~90か月までの小児にも風疹ワクチンが定期接種として実施されるようになった。これにより現在風疹の全国的な流行は抑制されているが、ワクチン接種率が不十分であると、感受性者はそのまま蓄積し、近い将来わが国でも1999年にギリシャで認められたような全国規模の風疹流行(BMJ 319:1462-1467, 1999) が危惧される。特に2001年度感染症流行予測調査で抗体保有率が低かった15歳女性は、2003年には17歳となる。1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女全員に対する風疹ワクチンが予防接種法に基づいて行われていることはよく知られておらず、 接種率は低い。小規模な地域流行でも先天性風疹症候群 (congenital rubella syndrome:CRS) 患児が出生していることを考えると、本年9月30日までの6か月間で、より多くの対象者が風疹ワクチンを接種できるような関係者の積極的な取り組みが必要である。また定期接種対象者以外でも風疹未罹患かつ風疹ワクチン未接種の女性は妊娠の2カ月以上前に任意接種としてワクチンを受けておくことが望まれる。


1. 風疹について
1) 風疹とは
 風疹は、感染から14~21日(平均16~18日)の潜伏期間の後、突然の全身性の斑状丘疹状の発疹(多くの場合、発疹は紅く、小さく、皮膚面よりやや隆起して全身に出現する。麻疹より淡く一般に融合せず、3日程度で通常消失する。通常色素沈着や落屑はみられないが、発疹が強度の場合にはこれらを伴うこともある。)、発熱(発熱は風疹患者の約半数にみられる程度であり、微熱程度でおわることも多い)、耳介後部、後頭下部、頸部のリンパ節腫脹(リンパ節は発疹の出現する数日前より腫れはじめ、3~6週間位持続する)を特徴とするウイルス感染症であり、通常は数日で治癒する予後良好な疾患である。カタル症状を伴うが、これも麻疹に比して軽症である。3徴候のいずれかを欠くものについての臨床診断は困難である。溶血性レンサ球菌による発疹、典型的ではない場合の伝染性紅斑などとの鑑別が必要になり、確定診断のために検査室診断を要することが少なくない。稀な合併症として血小板減少性紫斑病、脳炎などがあり、不顕性感染率は15%程度と報告されている。

 基本的には予後良好な疾患であり、血小板減少性紫斑病(1/3,000~5,000人)、急性脳炎(1/4,000~6,000人)などの合併症をみることもあるが、これらの予後もほとんど良好である。成人では、手指のこわばりや痛みを訴えることも多く、関節炎を伴うこともある(5~30%)が、そのほとんどは一過性である。

 原因ウイルスである風疹ウイルスは、Togavirus科Rubivirus属に属する直径60~70nmの一本鎖RNAウイルスで、エンベロープを有する。血清学的には亜型のない単一のウイルスである。上気道粘膜より排泄されるウイルスが飛沫を介して伝播されるが、その伝染力は麻疹、水痘よりは弱い。ウイルスの排泄期間は発疹出現の前後約1週間とされているが、解熱すると排泄されるウイルス量は激減し、急速に感染力は消失する。

 しかし、妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎盤を介して胎児に感染し、出生児に先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)を発生することがある。

2) 先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)とは。
 CRSの症状は妊娠中の感染時期により重症度、症状の発現時期が異なるが、3徴候は感音性難聴、先天性白内障または緑内障、先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)である。先天異常以外に新生児期に出現する症状としては、低出生体重、血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、間質性肺炎、髄膜脳炎などが挙げられる。また、幼児期以後に発症するものとしては、進行性風疹全脳炎、糖尿病などがある。 

CRSに対するウイルス特異的な治療法はなく、個人防衛として女性は妊娠する前にワクチンによって風疹に対する免疫を獲得すること、社会防衛としては風疹ワクチンの接種率を上げることによって風疹の流行そのものを抑制し、妊婦が風疹ウイルスに曝露されないようにすることが重要である。風疹が流行するとCRS患児の発生を恐れて人工妊娠中絶が増加することも既に報告されている。

3)病原診断
 ウイルスの分離が基本であるが通常は行われず、保険適応がない。血清診断は保険適応になっており、最も一般的に用いられている。赤血球凝集抑制反応(HI)、中和法(NT)、補体結合法(CF)、酵素抗体法(ELISA)などの方法があり、以前にはHI法が主流であった。その場合、急性期と回復期の抗体価で4倍以上の上昇により診断する。最近ではELISAが使われるようになり、急性期で特異的IgM抗体が検出されれば、単一血清での診断も可能である。CF法は感染後比較的早期に陰性化するので、抗体保有の有無をみるための検査としては不向きである。

4)治療・予防
 特異的治療法はなく、対症的に行う。発熱、関節炎などに対しては解熱鎮痛剤を用いる。
 予防として弱毒生ワクチンが実用化され、広く使われている。先進工業国ではMMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹混合)ワクチンとして使用している国が多い。

5)感染症法における取り扱い
(1)風疹:風疹は4類感染症定点報告疾患であり、その報告は全国約3,000の小児科定点より毎週なされている。報告のための基準は以下の通りである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準のすべてを満たすもの
   1. 突然の全身性の斑状丘疹状の発疹(maculopapular rash)の出現
   2. 37.5℃以上の体温 
   3. リンパ節腫脹
 ○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

(2)先天性風疹症候群:先天性風疹症候群は4類感染症全数報告疾患であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る。報告のための基準は以下の通りである。

先天性風疹症候群は4 類感染症全数把握疾患であり、診断した医師は7 日以内に最寄りの保健所に届け出る。報告のための基準は以下の通りである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の1 )と2 )の基準を両方とも満たすもの
 1 )臨床症状による基準
「A から2 項目以上」または「A から1 つと、B から2 つ以上」若しくは「A の(2) または(3) と、B (1)」
  A. (1) 先天性白内障、または緑内障
    (2) 先天性心疾患(動脈管開存、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)
    (3) 感音性難聴
  B. (1) 網膜症
   (2) 骨端発育障害(X 線診断によるもの)
   (3) 低出生児体重
   (4) 血小板減少性紫斑病(新生児期のもの)
   (5) 肝脾腫
 2 )病原体診断等による基準
  以下のいずれかの一つを満たし、出生後の風疹感染を除外できるもの
   1. 風疹ウイルスの分離陽性、またはウイルス遺伝子の検出
    例:RT-PCR 法など
   2. 血清中に風疹特異的IgM 抗体の存在
   3. 血清中の風疹HI 価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続。
    (出生児の風疹HI 価が、月あたり1/2 の低下率で低下していない。)

6)学校保健法における取り扱い
 風疹は第二種の伝染病に定められており、登校基準としては、紅斑性の発疹が消失するまで出席停止とする。なお、まれに色素沈着を残すことがあるが、その段階で出席停止とする必要はない。

7) 感染症発生動向調査に基づく我が国の風疹患者数


図1. 風疹患者報告数の推移、1982~2002年

図2. 風疹患者の年齢分布、1999~2002年

図3. 年別都道府県別風疹患者発生状況、1999年~2002年

 厚生労働省感染症発生動向調査に基づく定点報告による風疹患者発生数をみると、風疹の全国的大流行は1982、1987,1992年に認められ、ほぼ5年ごとに繰り返されてきたが、1997年の流行規模は小さく、特に1999年以降は年間2,561人から3,123人、定点あたり0.85人から1.05人と大きく減少している(図1)。年齢別患者報告数は図2に示す通り1歳児がやや多いが、0歳から9歳までほぼ均等に分布し4歳以下で約50%を占めている。

 一方、CRSは4類感染症全数報告疾患であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることになっている。CRSの発生数は、1999年第14~52週累積報告数0人、2000年第1~52週累積報告数1人(大阪府)、2001年第1~52週累積報告数1人(宮崎県)、2002年第1~52週累積報告数1人(岡山県)である。図3に都道府県別風疹患者発生状況を示す。全国的な流行は認められていないが、毎年地域的な流行が発生している。2001年にCRSの発症が認められた宮崎県では2000年に、2002年に発症が認められた岡山県では同年、患者数が比較的多く報告されていること、小学校における風疹集団発生の報告が注目される。

8) 年齢別風疹抗体保有率
 2001年度の厚生労働省感染症流行予測調査によると、風疹HI抗体価8以上の陽性率は18歳以上の女性では平均94.2%と高値であったが、男性の平均陽性率は79.5%と低かった。CRSの発症は妊娠中の初感染によるものがほとんどであるが、低い抗体価の妊婦においては妊娠中の再感染でも発症する。再感染直前の正確な値は不明だが、前HI価最高64という報告もあり、注意を要する。また1997年度調査で認められた11歳女性の抗体保有率の谷間は、2001年度調査ではそのまま15歳になり、54.2%と他の年齢に比して著しく低かった(図4)。2003年現在、この年齢群は既に17歳である。一方、低年齢層では風疹ワクチンの定期接種が男女に実施されるようになり、抗体保有率に男女差が認められなくなってきている。

図4. 性別年齢群別風疹抗体保有状況、2001年

図5. 0-39歳 推計風疹感受性人口

図6. 14-22歳 推計風疹感受性人口


9)風疹感受性者の推計
 2001年度感染症流行予測調査より得られた抗体保有率と、 2000年の国勢調査から推計された2001年10月1日現在人口から風疹感受性人口を推計したところ、 図5に示すように、 0~39歳までの女性における風疹感受性人口は推計 350万人以上であり、 このうち20代、 30代女性の風疹感受性人口は推計70万人以上であった。男性は女性より極めて多く、 20代、 30代の男性の風疹感受性人口は推計450万人以上であった。2001年度時点の経過措置対照群である14~22歳までを年ごとに示すと(図6)、 14、 15歳の感受性者が多く、 15歳女性の感受性者は特に多い。このまま低いワクチン接種率が維持されることは問題である。

2.風しんワクチンについて

1) わが国における風疹ワクチン接種の経緯


 風疹ワクチンは、 わが国では1976年から接種が開始され、 1977年8月から女子中学生に対する定期接種が始まった。1989年4月からは生後12~72カ月児への麻疹ワクチン定期接種時に麻しん・おたふくかぜ・風しん混合(measles mumps rubella, MMR)ワクチンを選択してもよいことになった。しかし、 MMRワクチンはおたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発により1993年4月に中止となった。

図7. 風しんワクチン定期接種の経緯

その後、 1994年の予防接種法改正に伴い1995年4月からは風疹の流行そのものをおさえるために、 生後12~90カ月未満の男女(標準として生後12カ月以上36カ月以下)に風疹ワクチンが接種されることとなった。また以前に風疹ワクチンあるいはMMRワクチンを受けたことがない者に対する経過措置として、 (1)1995年度に小学校1~2年生でかつ生後90カ月未満の者、 (2)1996~1999年度に小学校1年生、 (3)2003年9月30日までの間は、 1979年4月2日~1987年10月1日に生まれた12歳以上16歳未満の男女(標準中学生)、 が接種の対象となり、 接種方法は、 これまでの集団接種から個別接種に変更された。ところが、 風疹ワクチン経過措置分(3)の接種率が極めて低く、 このままこの年代の小児が成人し、 妊娠時に風疹の流行がおこると先天性風疹症候群(CRS)多発の可能性があることが危惧されていた。2001年11月7日、 予防接種法一部改正により、 2003年9月30日までの暫定措置として1979年4月2日~1987年10月1日までに生まれた男女(2003年3月1日時点、 15歳5カ月~23歳10カ月)全員が経過措置の対象となった(図7)。しかし、 この経過措置の一部改正は広く知られていないため、 十分な広報活動、 対象者への接種勧奨をすることが重要である。

2)風しんワクチン接種率


 厚生労働省が市町村からの報告を受けて算定している風疹ワクチン実施率は、 標準的な接種年齢期間の総人口を総務庁統計局推計人口(各年10月1日現在)から求め、 これを12カ月相当人口に推計した数(各年度に新規に予防接種対象者に該当した人口)を対象人口とするのに対し、 実施人口は各年度における対象者全体の中の予防接種を受けた人員であるため、 実施率は100%を超える場合がある。1995年度~2000年度の経過措置分については、 各年度の経過措置対象者の総人口を総務庁統計局推計人口(各年10月1日現在)から求め、 これを12カ月相当人口に推計した数を対象人口とし、 実施人口は、 各年度における対象者全体の中の予防接種を受けた人員である。また、 2001年度については、 11月7日に予防接種法が一部改正になり対象者数が変更になったため、 対象人口の計算式が変更になった。経過措置対象者の総人口を総務庁統計局推計人口(各年10月1日)から求め、 これから1995~2000年度の被接種者数を引いた数を12カ月相当人口に推計した数である。この計算式で求められた予防接種実施率は、 定期分(生後12~90カ月未満)は高率であるのに対して、 経過措置分の実施率は1994年の予防接種法改正以降急激に減少し、 2001年度は38.6%と最も低い(図8)

図8. 中学生に対する風しんワクチン実施率(1977~2001年)

図9. 風しんワクチンMMRワクチン接種率、2001年度

図10. 日本における風疹関連人工流産数と定点あたり風疹患者報告数の推移

 2001年度感染症流行予測調査から得られたワクチン接種率は、 女性64.8%、 男性59.4%であった。男女合わせた接種率は、 1~4歳群63.3%、 5~9歳群83.3%、 10~14歳群79.5%、 15~19歳群69.0%、 20~24歳群57.6%、 25~29歳群55.1%、 30~34歳群69.0%、 35~39歳群59.7%、 40歳以上群24.2%で、 経過措置対象群の接種率は低かった。年齢別の接種率は図9に示す通りであり、中学生、高校生の接種率が低く早急な対策が必要である。

 また、 厚生科学研究医薬安全総合研究事業・安全なワクチン確保とその接種方法に関する総合的研究・平成13年度研究報告書(平成14年3月)「大阪府下における予防接種の実施成績に関する研究(村上徹二ら)」によると、 2001年度大阪府の風疹ワクチン接種率は定期分79.6%、 経過措置分23.2%で中学生の接種率は低値であったと報告されている。

 風疹が流行すると人工妊娠中絶が増えるという結果も出ており、早急なワクチン接種率の増加が望まれる(図10)

3.ワクチン株と現在流行している野生株の比較
 現在わが国で使用されている風疹ワクチンは今から約35年前の1960年代に分離された4株が使用されている。中島らは、風疹ウイルスの膜表面に存在し、中和と赤血球凝集能に関わる膜タンパクE1について全塩基配列を決定し、ワクチン株と現在流行している野生株とを比較した。塩基配列、アミノ酸配列共にそれぞれ95.7-98.0,98.1-99.2%と高い相同性を有し、ワクチン株と現在の流行株の間にはほとんど変化が見られていない。

4. 地域における風疹ワクチンキャンペーン
 1979年4月2日から1987年10月1日生まれの男女全員に対する風疹ワクチンは予防接種法に基づいた公費負担による接種であり、今年9月30日までの暫定措置である。この措置を広報し啓発するために、自治体によっては様々なとりくみが計画されている。

 岡山県での取り組みを例として挙げる。1997年接種者数の著減に気づいたため、 啓発活動を開始した。市保健課や教育委員会を通じて、 広報誌による再度のお知らせや学校から保護者への連絡を実施し、 地方新聞などでも啓発に努めた。また学校での啓発が重要と考えて、 養護教諭や保護者を対象にした講演会を実施した。しかし、 接種率は満足な増加を得ることができなかった。保護者だけでなく、 自分の意志を持つ中学生には直接啓発することも重要と考え、 県健康対策課や教育委員会と協力して独自に作成した啓発用ビデオを岡山県内の中学校に送付した。視聴前後のアンケート調査では、 ビデオ視聴した感受性者の11.5%しか接種を受けなかった。Conjoint analysisによる検討では、 流行は接種率を18%増加させるが、 強い勧奨では12%、 ポリオのような集団接種で10%、 休日夜間接種でも3%しか増加しないと報告された。我々の他の経験でも勧奨だけでは約10%しか増加しなかった。また勧奨などの啓発は一過性であるため、 動機づけできるようなシステムが必要と思われる。そのひとつとして、 高校や大学も含めて入学時に感受性者を調査し、 予防接種証明書の提出を求めればいいであろうと考えた。しかし、 中止となる本年9月末日までは啓発活動しかなく、 私どもは高校、 大学、 各種専門学校、 医療機関に風疹啓発ポスターを送付し、 成人式では啓発プリントを配付し、 予防接種の市民公開講座も計画している。幼児に対する取り組みとしては、地域小児科医会が中心に医師会や教育委員会、 保健所などと協力し、 麻疹とともに風疹の啓発活動を実施している。明確な目標を設定し、 接種戦略として、 啓発活動、 調査、 勧奨、 動機づけ、 評価の5本柱を立てた。一過性の活動とならないように幼稚園や小学校、 中学校への入学時の調査後、 感受性者にはワクチン接種を勧奨し、 動機づけする方法として接種証明書を提出するように求めた。その結果、 接種率と既往率の合計が麻疹は90%以上を達成し、 風疹は幼稚園で87%、 小学校で79%となった。しかし、 中学校では57%と低かった。幼児の風疹ワクチン接種は、 MRやMMRワクチンが使用されると、 麻疹ワクチン接種率レベルまで増加するので、 早い導入が望まれる。

 以上のことより、予防接種の接種勧奨のみでは接種率の増加は困難で、強い動機付けが必要とされている。9月30日までに積極的な取り組みが望まれる。

5. 世界における風疹対策の現状

1) 風疹および先天性風疹症候群(CRS)の予防の強化、 2001~2002年-ブラジル
  (WHO, WER, 77, No.21,169, 2002より)
 1992年からブラジルの27州でMMR(麻疹・風疹・流行性耳下腺炎)ワクチンあるいはMR(麻疹・風疹)ワクチンが導入され、 1992~2000年の間にMMRワクチンは1~11歳の約95%に接種された。それに伴い、 風疹の年齢別報告数は思春期後半~成人群に次第にシフトしてきた。1998~2000年に20~29歳を中心とした風疹の流行が起こったためにワクチン接種が推進され、 Paranaでは1998年に15~39歳の女性の86%に、 Rio Grande do Norteでは2000年に12~49歳の女性の72%にワクチンが施行された。ワクチン導入にさきがけた調査によると、 15歳以下の小児の3%にCRS による難聴が認められたとの報告があり、 さらに、 CRS報告数も1999年の38例から2000年の78例へと増加傾向にある。

 そのため、 風疹およびCRSを予防するためにMRを用いた予防接種計画を施行した。第1期は13の州で、 妊娠可能年齢(12~39歳)の女性1,500万人を対象に2001年11月に実施され、 95%の接種率であった。第2期は2002年6月15日~7月5日の間に、 11の州で妊娠可能年齢(12~39歳)の女性1,200万人を対象に行われる予定である。

2) 英国におけるMMRワクチン論争の最新状況
  (Eurosurveillance Weekly、 No.4、 2001より)
 麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(MMR)ワクチンと自閉症、炎症性腸疾患との関連についての論文が1998年に発表された。それ以降、英国における2歳児の接種率は1995年には92%であったのが、1998年末には低下して88%となった。その後の広範な疫学研究の結果、上記関連を示す証拠は得られていない。過去2週間英国のマスコミは、1998年のランセット論文の著者のうちの2名によって最近書かれた総説に動かされて、再びMMRにターゲットを絞っている。その総説に引用された論文は偏っており、重要なフィンランドの論文を取り上げていない。さらに、初期研究の再分析にも問題があり、基本的な間違いがある。MMRの英国への導入の16年前には米国が、数年前には欧州の数カ国がMMRの導入を行っており、膨大なサーベイランスデータが利用できるにもかかわらず全く取り上げていない。市民の関心を受けて英国政府は今週、 MMRの安全性を再確認するキャンペーンを展開した。時を同じくして、フィンランドからMMRの安全性に関する論文が発表された。同論文によると、MMRワクチン接種を受けた180万人の小児が14年間にわたる追跡調査を受け、接種関連の自閉症や炎症性腸疾患は一人も認められていなかった。

 MMRワクチンは35カ国以上で2億5千万ドース以上が使用され、高い安全性が知られている。上記総説論文の筆頭著者は、MMRより安全な方法として単味ワクチンの接種を勧めているが、被接種者個人の利益にも公共の利益にも反する方法である。まず、単味ワクチンの複数接種法ではワクチン未接種期間が数カ月長くなり、集団免疫効果が危うくなる。近年のオランダやアイルランドにおける麻疹や、ギリシャにおける風疹の経験から、適正レベル以下の集団免疫によって、麻疹感染や死亡、先天性風疹症候群が再興することが知られるようになった。今や、単味ワクチンよりもMMRワクチンにおける安全性の証拠が蓄積されており、単味ワクチンを推奨するべきでない。フランスでは麻疹単味ワクチンが認可されているが、それはMMR接種年齢以下の小児に対するワクチン接種のためである。麻疹単味ワクチン接種児は全体の0.5%以下であり、その割合は低下しつつある。

 日本は世界で唯一麻疹、風疹、おたふくかぜの単味ワクチンを使用しているが、それは1993年におたふくかぜワクチン占部株の使用を中止してから、認可を受けたMMRワクチンがないためである。日本では麻疹・風疹の流行が続いており、1992~97年の間に79人の麻疹死亡例が報告されている。

3) 風疹・先天性風疹症候群(CRS)の状況、1997~1999-米国およびメキシコ
  (CDC, MMWR, 49, No.46, 1048-1059, 2000より)
 米国の風疹・CRS:風疹ワクチンは1969年に認可を受けた。1979年からはMMR が採用され、風疹ワクチン接種率はほとんど麻疹ワクチン接種率に近い。1997年、98年、99年の確定報告患者数はそれぞれ172、353、267例(年間人口10万あたり0.5人未満)であった。ほとんどの患者はヒスパニック系であった。ヒスパニック系の症例が占める割合は、1991年の19%から99年には78%へ上昇している。1998~99年は80%が非米国生まれであった。輸入状況が判明した661症例のうち54例(8.2%)が外地感染による例であった。感染地は、メキシコ、中米および南米、スペイン語系カリブ海沿岸諸国、日本およびロシアであった。1997~99年のCRS確定症例24例のうち、20例がヒスパニック系の母親から生まれた症例であった。14例の母親が非米国生まれであり、10例の母親が米国外で感染を受けた輸入例であった。

 メキシコの風疹・CRS:メキシコの風疹の報告は、1978年以降臨床診断に基づいていたが、1993年からは実験室診断となった。また、風疹感染のあった妊婦の追跡調査も行われた。1998年には1歳および6歳児のMMR2回接種として、ワクチンが小児の定期接種に組み込まれた。1978年~99年まで、風疹の報告は3~5年ごとにピークが見られた。1990年には最多の患者数(65,591人・人口10万あたり79) が報告されたが、1999年には21,173例となった(68%減少)。1997~99年の報告症例のうち37,346例 (34%)が15~44歳であった。1997~99年の集団発生で感染した266人の妊婦の調査で、50例のCRS確定症例が確認された。

4) ギリシャにおける風疹の流行
(BMJ 319: 1462-1467, 1999より)
 1993年にギリシアで風疹流行後に先天性風疹症候群の多発が認められた。このことから後方視的検討が実施された。ギリシアでは1975年ごろからMMRワクチンが1歳の男女に接種され始めた。1980年代の接種率は50%以下であり、妊婦の風疹感受性者が多くなり、過去の流行年よりも若年成人の風疹発症率が高くなった。これに引き続き先天性風疹症候群の流行が認められ25人が血清学的にも確認された(10万出生児に対して24.6人)。これは1950年以降ギリシャで認められた最も大きい流行である。

5) 開発途上国における風疹と先天性風疹症候群(CRS)のコントロール
(Bulletin WHO、 75(1)、 55、 1997、Bulletin WHO、 75(1)、 69、 1997より) 
 CRSの発生状況:開発途上国におけるCRSの発生状況は、CRSサーベイランス、風疹患者サーベイランス、年齢別血清疫学と妊娠可能年齢女性の血清疫学などにより、次のように算定されている。風疹流行期における1,000出生あたりのCRSの発生頻度は、少なくとも、イスラエルで 1.7、ジャマイカで 1.7、オマーンで 0.7、パナマで 2.2、シンガポールで 1.5、スリランカで 0.9、トリニダードトバゴで 0.6であった。これらの頻度は、ワクチン導入以前の先進工業国の数値と同程度であった。CRSはすべてのWHO 地域から報告がある。

 風疹の流行周期:4~7年ごとにあり、この周期もワクチン導入以前の先進工業国の状況と同じであった。開発途上国における平均感染年齢には、2~3歳から8歳までの幅があった。45の開発途上国における 100人以上の妊娠可能年齢女性の血清疫学によると、抗体陰性10%未満13カ国、10~24%20カ国、25%以上12カ国であった。開発途上国における風疹とCRSのサーベイランス方法の改良が課題である。

 風疹の予防接種:1995~96年の調査によれば、世界の78カ国(全体の1/3以上)で、風疹ワクチンは国家政策として導入されている。導入状況は国家経済状況と密接な関係がある。すなわち、国連の国家分類による先進工業国の92%、経済中位国の36%、開発途上国の28%で風疹ワクチンが使用されている。CRS発生は以下のような戦略で予防されると思われる。1)選択的予防接種:女性および/または女生徒の直接防衛。2)子供への予防接種:少年男女に予防接種を行い、風疹ウイルスの伝播を低下させて間接的に防衛。3)複合的予防接種:1)、2)の併用。複合的予防接種が47カ国(60%)で最も一般的であり、選択的予防接種が7カ国(9%)、子供への予防接種のみが24カ国(31%)である。どの方式をとるにせよ、妊娠可能年齢女性への予防接種を必ず含むことが本質的であることが経験から分った。子供への予防接種のみでは、CRS発生の増加の危険性を一時的に止めているに過ぎない。風疹ワクチンを導入した国は多いが、ワクチンの効果に対する報告はほとんど無い。風疹ワクチンを使用している国では、風疹とCRSのサーベイランスの確立と、標的としたグループの接種率のモニターが必要である。


 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version