薬剤耐性菌感染症

IASR-logo

高槻市保健所管内X病院における多剤耐性緑膿菌分離症例の集積について

(IASR Vol. 35 p. 227-228: 2014年9月号)

大阪府高槻市のX病院(以下、病院と表す)において2013(平成25)年1~12月までに、複数の患者で喀痰などから、多剤耐性緑膿菌(Multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa; MDRP)の分離が続いた。病院は一般内科・外科・療養病棟をもつ225病床の施設で、同院ではMDRPの分離は2012(平成24)年1月以降初めてであった。病院感染対策チーム(Infection Control Team; ICT)の対策にもかかわらず症例の発生が続いたため、高槻市保健所は、国立感染症研究所の支援のもと、事例の全体像、感染源・感染経路、リスク因子を明らかにするため、2014(平成26)年1月14日より実地疫学調査を開始した。

積極的疫学調査の症例定義を「病院の入院・外来患者のうち、平成25年1月1日~平成26年1月31日までの間に、カルバペネム系抗菌薬、アミカシン、フルオロキノロン系抗菌薬に耐性の緑膿菌が分離された患者」と定めたところ、23症例が確認された。症例は高齢(中央値79歳;範囲61~91歳)の男性(17例、73.9%)に多く、入院から中央値71.5日後(範囲:8~1,008日)に、主に喀痰(16例、69.6%)から検出されていた()。症例の発生はA病棟(一般内科)に始まり、1年弱の間に4病棟と外来へ広がっていた。死亡者が11例(47.8%)いたが、感染症との因果関係が明確な人はいなかった。院内視察では、医療従事者の手指衛生の不徹底、洗浄消毒が不適切な器材の患者間での共有が観察された。MDRP分離患者との同時期同病棟の入院歴ありを疫学リンクとすると、17例で疫学リンクを認めた。疫学リンク不明の症例のうち、少なくとも2例では口腔ケアに用いるポータブル吸引器の不十分な洗浄消毒下での患者間共有が感染源として疑われた。ICTの情報提供にもかかわらず、多くの医療従事者が平成25年10月までMDRP院内感染の事実を認識されていなかった。環境培養では、人工呼吸器タッチパネルや病棟固定吸引器スイッチなどからMDRPが分離された。大阪府立公衆衛生研究所で行われたパルスフィールド・ゲル電気泳動法では、解析された患者由来10株と環境由来4株は同一または近縁の菌株であること()、およびそれらの菌株が国内では過去に報告がないカルバペネム耐性遺伝子GES-5を保持していることがわかった。

平成25年9月以降に環境培養、平成26年1月以降には入院患者に対し、便、尿道バルーンカテーテル尿、創培養による患者スクリーニングが実施された。症例への接触予防策の徹底、職員への感染対策教育やトレーニングの強化、ポータブル吸引器の使用中止、陰洗ボトルや創洗浄ボトルの共有中止、ケア手順書作成が行われた。病院は平成26年1月、MDRP感染対策委員会を発足させ、医師のICTラウンドへの常時参加、抗菌薬適正使用の推進を徹底した。大阪医科大学を中心とする北摂四医師会感染対策ネットワークは適宜病院へ助言するとともに、月1回病院への外部監査を行った。また、同ネットワークは高槻市と協力して地域における本事例関連MDRP症例検出のための検査体制整備を進めた。平成26年1月30日に確認された症例を最後に同年7月31日まで新規症例はなく、転院症例や周辺医療機関から事例に関連するMDRP分離症例も報告されていない。病院は本事例の評価を目的とする外部委員会を設置し、透明性のある対策評価を行った。

本事例は、中小規模の病院において国内で検出が認められていないカルバペネム耐性遺伝子GES-5を持つMDRPが、職員の標準予防策の破綻やポータブル吸引器を含む器材の不適切な洗浄・消毒下での患者間共有によりアウトブレイクを起こしたものであった。中小規模の病院では、大病院に比べ資源が限られているため、実施および継続可能な対策に制約があり、病院の状況に応じ適切な対策を決める必要がある。地方自治体は、地域の感染管理ネットワークと協力して、病院の状況に応じた対策が適切に行われているかを確認していくことが重要である。また、地域における耐性菌の広がりの監視体制構築も重要な課題である。そして、国内において歯科領域の感染管理の知識と技術は決して十分と言える状況にはないため、国レベルでの歯科領域における感染教育の充実が望ましい。

 

国立感染症研究所
   実地疫学専門家養成コース(FETP) 金山敦宏 田渕文子       
   同感染症疫学センター 山岸拓也 松井珠乃 大石和徳       
高槻市保健所 高野正子 森定一稔       
大阪府立公衆衛生研究所感染症部細菌課 河原隆二       
大阪医科大学附属病院感染対策室 浮村 聡 川西史子

 

IASR-logo

<速報>腸内細菌科カルバペネマーゼ産生菌の検出に適したスクリーニング薬剤の検討

(掲載日 2014/5/27) (IASR Vol. 35 p. 156-157: 2014年6月号)

腸内細菌科カルバペネム耐性菌(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE)のうち、耐性がカルバペネマーゼの産生によるもの〔腸内細菌科カルバペネマーゼ産生菌(Carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)〕は、特に注意が必要である。CPEは必ずしもカルバペネムに耐性を示さないものの、院内感染対策上はできるだけ確実に検出することが望ましい。CPEを検出する方法として、PCR法によるカルバペネマーゼ遺伝子検出や阻害剤ディスクを利用した方法などが提唱されているが、医療機関において、これらの追加検査を腸内細菌科の菌株すべてに実施するのは現実的ではない。そこで、通常医療機関で実施される薬剤感受性試験によりCPEを検出するためには、どの抗菌薬の感受性結果を指標にするのが適切かについて検討した。

検討には、2010年「我が国における新たな多剤耐性腸内細菌に関する実態調査」で収集されたカルバペネム、フルオロキノロンおよびアミカシンに耐性の腸内細菌科の菌株を用いた1)。この調査ではカルバペネムに感性のCPEも念頭において、セフタジジムに高度耐性の菌株も収集対象に含めた。収集された153株のうち、カルバペネマーゼ遺伝子陽性の78株(IMP型72株、NDM型2株、KPC型2株、OXA-48型1株、SMB型1株)をCPEとした。各β-ラクタム系抗菌薬を指標薬剤とした場合のCPE検出の感度と特異度をに示す。各抗菌薬の「耐性(R)」、「中等度耐性(I)」、「感性(S)」の判定基準はCLSI2012によった2)

カルバペネム系抗菌薬であるメロペネムを指標薬剤にして、「IまたはR」を陽性とした場合、CPE検出の感度は92.4%、特異度は89.3%であった。一方、同じカルバペネム系のイミペネムを指標薬剤とした場合は感度が52.6%で、検討を行ったすべてのβ-ラクタム薬の中で最も低かった。今回、同じカルバペネム系薬剤でもイミペネムの感度がメロペネムに比べて低かった要因の一つとして、メロペネムには耐性を示すが、イミペネムに感性となるIMP-6メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌が含まれていたことが挙げられる。腸内細菌科IMP-6メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌はわが国では比較的高頻度に分離される3)。今回検討を行った菌株では、72株のIMP型のうちシークエンスによる型別を実施した53株中25株はIMP-6だった。

セファロスポリン系のセフタジジムを指標薬剤として、「R」を基準にした場合、感度は94.9%と高かったが、特異度が17.3%と非常に低くなった。セフピロムの場合は感度、特異度ともに低かった。セファロスポリン系のセフタジジム、セフピロムについては、特異度が低く、指標薬剤としては適さないと考えられた。これは、広域スペクトラムセファロスポリン系薬剤に耐性となる基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌が陽性例として入ってしまうためと考えられる。ESBL産生菌であってもセファマイシン系のセフミノクスは耐性とならないため、今回の解析でも感度が最も高く、特異度もセファロスポリン系薬剤よりは高かった。しかしながら、Enterobacter属、Serratia marcescens等、染色体性のAmpCを産生する菌種はセファマイシン系薬剤に耐性を示して陽性例に入ってしまうため、メロペネムよりも特異度が低くなったと考えられる。

今回の検討では、CPE検出の指標薬剤としてメロペネムが感度および特異度の点から最適であることが示された。より高感度にCPEを捕捉するためには、セフミノクスが適しているが、特異度が下がることに注意が必要であることが示された。

なお、今回検討に用いた株は2010年に多剤耐性という条件で収集された株であり、また、すべてのカルバペネマーゼ遺伝子を網羅的に検出はしていない。今後、国内では様々な耐性機序のカルバペネム耐性菌が出現してくると予想される。CPE検出の指標薬剤は、国内にどのような耐性機序をもつ菌がどの程度存在するのかについて情報収集を継続し、その時の状況に即したものを用いる必要がある。


参考文献
  1. 厚生労働省科学研究費補助金「新型薬剤耐性菌等に関する研究」平成22年度研究報告書 p22-27 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/cyousa_kekka_110121.html
  2. CLSI. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; 22nd Informational Supplement. CLSI document M100-S22, Wayne, PA: Clinical and Laboratory Standards Institute; 2012.
  3. Yano H et al. High frequency of IMP-6 among clinical isolates of metallo-β-lactamase-producing Escherichia coli in Japan. Antimicrob Agents Chemother. 2012:56(8):4554-4555.

国立感染症研究所細菌第二部   
  鈴木里和 松井真理 鈴木仁人 柴山恵吾

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan