国立感染症研究所

複数国で報告されている小児の急性肝炎について
(第2報)

2022年5月10日

国立感染症研究所

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状況の評価(5月9日時点)

  • 報告のあった各国で、症例が著しく増加している兆候はないため、患者の周囲に容易に感染し急速に感染者が増加するような状況ではないと考えられる
  • 国内でも、小児の急性肝炎が増加している兆候はなく、また、可能性のある原因のひとつとして挙げられているアデノウイルスが、国内で通常想定される以上に流行している兆候もない。現時点では、医療関係者への注意喚起により、類似症例の探索を進め、共通する要因を探している段階である
  • 原因として感染症が疑われてはいるものの、感染症以外の原因も含めて広範囲に調査を進めている段階である。このような事例の原因究明には、
    症例を集め、分析することが重要であり、一定の時間を必要とすることに注意が必要である
  • すでに諸外国で原因探索が行われており、これらの進捗から知見を得ながら、丁寧な調査・分析を進めていく必要がある

 

 

国内症例の概要

 

厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義は以下の通りである。(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」)

2021年10月1日以降に診断された原因不明の肝炎を呈する入院例のうち、以下の①、②、③のいずれかを満たすもの:

 ①確定例 現時点ではなし。

 ②可能性例 アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミナーゼ(ALT)が500 IU/Lを超える急性肝炎を呈した16歳以下の小児のうちA型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者。

 ③疫学的関連例 ②の濃厚接触者である任意の年齢の急性肝炎を呈する者のうち、A型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者。

上記の暫定症例定義を満たす可能性例が、国内で7例報告されている(表)。

 

表 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の発生状況(5月5日18時時点)

 

可能性例数

疫学的関連例

うちSARS-CoV-2

PCR検査陽性数

うちアデノウイルス

PCR検査陽性数

7

0

1

1

 

7例のうち、3例は男性、4例は女性で、年齢中央値は8歳であった。7例の明らかな地域的な集積は見られていない。発症日は2022年2月から4月で、7例中5例はすでに退院している(5月9日時点)。肝移植の適応となった症例や死亡例はないが、転帰についてさらなる観察期間を要する可能性に注意が必要である。

これら症例の検査の実施状況は一律でなく、また検査中の症例も含まれる。

7例のうち1例から新型コロナウイルスが検出されており、7例のうち2例は新型コロナウイルスワクチン接種歴があった。また、地方衛生研究所における病原体検索では、1例からアデノウイルス1型が検出された。

なお、本症例の原因は現時点で究明中であり、情報収集を継続する必要がある。

 

 

国内の状況(5月5日18時時点)

  •    感染症発生動向調査から、ウイルス性肝炎の小児の症例数が著しく増えている兆候は見られていない。

    感染症法に基づくサーベイランス対象(全数報告対象:5類感染症)としてのウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)では、小児の報告は稀である。2017~2019年の報告数と比べて、2020年以降は減少している。
    2021年以降、B型肝炎・C型肝炎の報告数は増加傾向は見られない。それら以外のウイルス性肝炎の症例の報告数はわずかに増えているが、大半が成人であり、その起因ウイルスのほとんどはサイトメガロウイルスやEBウイルスであり、アデノウイルスの報告はない。
    学会等の医師ネットワークや、小児肝移植を行う医療機関においても、小児の重症肝炎や移植例が増えているという情報は把握されていない。
  • アデノウイルスに起因する症候群が流行している兆候は見られない。

    アデノウイルスに起因する症候群には、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎などがある。しかし、感染症発生動向調査から、アデノウイルスの流行状況を反映すると考えられる上記の症候群の発生傾向に異常は見られない。

 

国外の状況(5月9日時点)

  •    小児の急性重症肝炎患者が増加していることが、2022年4月15日に世界保健機関(WHO)より報告された。
  • 2022年5月3日時点で、英国から166例(UK HSA, 2022)、5月5日時点で欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の15カ国(オーストリア、ベルギー、キプロス、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン)から約95例、そのほか米国、イスラエル、インドネシア、日本、アルゼンチン、コスタリカ、パナマ、パレスチナ、セルビア、シンガポールから少なくとも  計60例が報告されている(ECDC, 2022)。 
  • 報告例の臨床像は、黄疸と著しい肝トランスアミナーゼの上昇を伴う、入院を要する重篤な急性肝炎である。現在報告されている、ほとんどの症例では、黄疸の発現の前に、嘔吐、下痢、吐き気などの消化器系の症状が見られた。また、症例の転帰に関する情報は、現在も収集されている。これまでのところ、何人かは急性肝不全に進行し、肝移植を必要とした患者の報告もある。しかし、情報が得られているほとんどの患者は回復している。
  • 本肝炎の病因を明らかにするため、症例に関する詳細な疫学的調査および実験室調査が報告のあった国々で続けられている。症例はさまざまな感染原因について検査され、英国で最も多く検出された病原体はアデノウイルス、次いでSARS-CoV-2であった。また、英国の症例の多くは新型コロナウイルスワクチン接種年齢未満であり、ワクチンとの関連を示す証拠はみられない(UK HSA, 2022)。
  • 英国では、126例中91例(72%)の症例でアデノウイルスが陽性であった。このうちHexon遺伝子による遺伝子型判定が行われた18例全てが41型であった。これは米国から報告された数例で確認されたのと同じサブタイプであった。英国では、1〜4歳の小児の糞便検体からアデノウイルスが検出されるなど、各地域において、このウイルスが例年の陽性率を統計的に上回っていること、2022年2月と3月にA型~E型肝炎ではない肝炎を示す疾病コードの入力件数が増加していたことが報告されている(UK HSA, 2022)。ただし、報告までの時間のずれやCOVID-19流行による受診行動変化などが影響している可能性があり、解釈には注意が必要である。
  • EU/EEAでの検査に関する情報は不完全であるが、報告された症例のうち13例がアデノウイルス陽性と判定された。また、EU/EEAにおける小児の急性肝炎(ウイルス肝炎以外)の発生頻度は通常低く、系統的なサーベイランスは行われていない(ECDC, 2022)。
  • 英国では、調査された症例のうち、血液、肝臓のサンプルからはアデノ随伴ウイルス(AAV)2が検出された事例があった。しかし、検出されたウイルス同士の遺伝子配列が異なり、また今までAAVが単独で疾病を起こすとは知られていないため、AAVとの関連性は検討中である。 そのほか、COVID-19パンデミック時のアデノウイルスへの曝露減少による感受性の増加、アデノウイルスのゲノムの変化の有無、また環境要因や服薬の影響の可能性なども含めた複数の可能性についても、引き続き調べられている(UK HSA, 2022)。

 

用語解説

 

アデノウイルス:
アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルス(human adenovirus: Ad)は, エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり, 物理化学的に比較的安定している。現在A-Gの7種に分類され, 80を超える型が存在している。アデノウイルスは, 急性上気道炎などの呼吸器疾患, 流行性角結膜炎 (epidemic keratoconjunctivitis, EKC)などの眼疾患, 感染性胃腸炎などの消化器疾患を起こす。また, 出血性膀胱炎, 尿道炎などの泌尿器疾患, さらに肝炎なども起こす。アデノウイルスの種によって流行状況や炎症反応が異なる(Nakamuraら, 2018)。
詳細は特集記事(IASR 42(4), 2021【特集】アデノウイルス感染症2008~2020年)をご参照ください。

黄疸:
ビリルビンと呼ばれる黄色の色素で皮膚や粘膜が黄色く染まった状態

中央値:
データを小さい順に並び替えた時に真ん中に来る値

 

 

   参考文献

 

 

   添付資料

 

   関連項目

 

更新履歴

第2報 2022/5/10時点 注)第1報からタイトル変更

「複数国で報告されている小児の急性肝炎について」

第1報 2022/4/25時点

「欧米での小児重症急性肝炎の発生について」  

 

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