logo40

<速報>風疹診断後に麻疹と判明した一症例

(掲載日 2013/10/7)

 

2013年は大阪府内で大規模な風疹流行がみられており、第36週現在において患者数は3,000名を超えている。このような状況下において、風疹と診断された後に麻疹であることが判明した症例を経験したので概要を報告する。

症 例:29歳女性、2013年4月30日から38℃の発熱をきたし、いったん解熱後、5月3日から再び39℃の発熱がみられた。5月3日から風疹様の発疹と咽頭痛、5月4日にリンパ節の腫脹がみられ、近医で風疹と診断された。咳、鼻汁、結膜充血といったカタル症状はなく、コプリック斑も認めなかった。海外渡航歴や発疹性疾患患者との接触歴はなく、感染源は不明であった。風疹の血清IgM等の検査は行われていなかった。

症例の子(4カ月齢、女児)が5月10日に発疹をきたし、11日より39℃の発熱、12日にはコプリック斑を認めた。5月13日の血清学的検査で、麻疹に対する血清IgM値が9.37となり麻疹と診断された。5月15日に採取された患児の血液、咽頭ぬぐい、尿検体からRT-nested PCR法による検査で麻疹ウイルスのNおよびH遺伝子が陽性となり、咽頭ぬぐい液からVero/SLAM細胞を用いたウイルス分離培養検査で麻疹ウイルスが分離された。増幅されたN遺伝子の核酸配列を解析した結果、麻疹ウイルスの遺伝子型はD8に分類された()。

患児の接触者調査で母親(本症例)の病歴から家庭内における母から子への麻疹伝播の可能性が疑われた。5月16日に本症例の血液、咽頭ぬぐい、尿検体が採取され、RT-nested PCR法を用いた麻疹検査に供された。その結果、すべての検体で遺伝子型D8の麻疹ウイルスが検出された。増幅されたウイルス遺伝子配列は子に由来するものと同一であった。また、5月15日に検体採取した麻疹に対する血清IgM値は4.4、IgGは128以上で、血清学的にも麻疹であったことが裏付けられた。本症例はカタル症状を欠き、最終的に修飾麻疹と診断された。なお、本症例の麻疹ワクチン接種歴は1回(昭和60年、28年前)であった。

考 察:本症例が近医で風疹と診断された背景には昨今の風疹流行がある。2008年以降大阪府内の麻疹患者数は大きく減少し、2012年には年間4名であった。麻疹に対する注意喚起は十分ではない一方で、2012年以降、風疹が大規模な流行を見せており、府内では先天性風疹症候群も報告されるなど大きく注目されていた。2013年の感染症発生動向調査によると、大阪府では女性で最も多く風疹が報告されているのは10代後半~20代であり、本症例も属している年齢層であった。そのような状況下で、発疹が風疹様でカタル症状もない修飾麻疹が風疹と臨床診断されたと推察される。成人では過去に麻疹ワクチン接種歴や罹患歴のあることも少なくない。そのため麻疹が典型的な症状を示さない修飾麻疹になる例も多く、臨床症状だけで麻疹と風疹を鑑別することは容易ではない。本症例も子が麻疹と診断されなければ見逃されていたであろう。麻疹排除の観点からみても、風疹流行対策の立場からも、発疹性疾患の鑑別には積極的なIgMおよびPCR検査を行うことが肝要と思われる。

本事例で検出された遺伝子型D8の麻疹ウイルスは、近年日本国内で東南アジアやオーストラリアからの輸入関連事例を中心として散発的な発生が報告されている1)。遺伝子型D8の麻疹ウイルスは2012年以前には大阪府内で検出されなかった。一方、2013年第11週以降第37週現在、府内で報告された11例の麻疹患者のうち9例から検出された。このうち、海外渡航歴のある事例は2例、麻疹患者との接触歴が判明した事例は5例であった。本事例は国内で感染したが感染源が不詳の2例のうちの1症例であり、疫学調査の結果から大阪府内で麻疹ウイルスに感染したと思われた。

本症例はワクチン接種歴が1回あったにもかかわらず麻疹ウイルスに感染し、非典型的な修飾麻疹を発症したことから、いわゆるsecondary vaccine failure (SVF)が考えられた。わが国で現在20代の大部分~30代の成人は麻疹ワクチンを1回しか接種されていない。麻疹が一定のレベルで流行する状況下では、自然と麻疹に曝露されるため、麻疹に対する免疫は増強される(ブースター効果)。しかし、麻疹の流行が極めてコントロールされた現在では、このような効果はあまり期待できない2,3)。麻疹ワクチンの効果は年齢とともに減衰するため、この世代の麻疹感染リスクは徐々に高くなると思われる。実際、全国的にみると麻疹患者の47%は20~30代で、この割合は年々増加の傾向にある4)。本症例もこの年齢階層であった。この世代は母親になる機会も多い。麻疹に対する抗体価が低いと、乳児への移行抗体レベルも十分ではなく、子への麻疹感染リスクも高くなる。本事例においても母体の抗体量が不十分だったために子への麻疹伝播が防げなかったと考えられる。

結 語:本症例は風疹流行下で麻疹が風疹と誤診される危険性を示す典型的な例と思われた。日本国内での麻疹排除が進んでいる現在の環境下では、成人のSVFおよび乳児の感染予防対策を効果的に進める必要があり、成人の感受性者に対する対策をより積極的に検討する必要があると考えられる。

 

参考文献
1) IASR 34: 36-37, 2013
2) Strebel PM, Papania MJ, Dayan GH, Measles vaccine, In: Plotkin SA, Orenstein WA, Offit PA, editors, Vaccines, 5th ed. Philadelphia: Saunders; 2008, p. 353-398
3) Leuridan E, Hens N, Hutse V, Ieven M, Aerts M, Van Damme P, Early waning of maternal measles antibodies in era of measles elimination: longitudinal study, BMJ, 2010 May 18; 340: c1626. doi: 10.1136/bmj.c1626
4) IASR 34: 21-23, 2013

 

大阪府立公衆衛生研究所
    倉田貴子 上林大起 駒野 淳 加瀬哲男 高橋和郎
大阪府健康医療部 保健医療室 地域保健感染症課
    松井陽子 福村和美 松本治子 大平文人
大阪府守口保健所
    有村亜弥子 久保弘美 野田昌宏 津田信子 高林弘の

【速報一覧へ戻る】

ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第12報-


(2013年10月4日現在)
 日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。
 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。
国立感染症研究所HP厚生労働省HP

抗体保有状況
(地図情報)
2013-12map


抗体保有状況
(月別推移)
2013-12tab
HI抗体 2-ME
感受性
抗体
都道府県 採血
月日
HI抗体
陽性率
※1
2-ME感受性
抗体陽性率
※2
コメント

5/27

6/24
沖縄県 9/17 10%
(2/20)
50%
(1/2)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち1頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/5

8/5
鹿児島県 9/9 55%
(11/20)
40%
(4/10)
HI抗体陽性例のうち10頭は抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/8

7/8
宮崎県 9/9 27%
(3/11)
0%
(0/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/12

8/23
大分県 9/13 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/6

8/6
熊本県 9/10 100%
(20/20)
10%
(2/20)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/2
 
 
長崎県 7/23 100%
(10/10)
0%
(0/1)
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/7

8/7
佐賀県 9/18 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/23

7/23
福岡県 9/3 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

6/25

6/25
高知県 8/27 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/9

7/23
愛媛県 9/17 100%
(10/10)
20%
(2/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/28

8/28
広島県 9/11 70%
(7/10)
71%
(5/7)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち5頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/2
 
 
島根県 9/13 0%
(0/10)
 
 
 

7/3
 
 
鳥取県 8/13 100%
(10/10)
 
 
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40未満であった。

8/20

8/20
兵庫県 9/17 30%
(3/10)
67%
(2/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/5

8/5
三重県 9/10 60%
(6/10)
33%
(2/6)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/20

9/2
愛知県 9/17 50%
(5/10)
60%
(3/5)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち3頭から2-ME感受性抗体が検出された。
 
 
 
 
石川県 9/4 0%
(0/10)
 
 
 

7/16
 
 
富山県 8/26
-27
0%
(0/15)
 
 
 
 
 
 
 
新潟県 9/9 0%
(0/10)
 
 
 

7/30
 
 
神奈川県 8/27 0%
(0/20)
 
 
 

9/5

9/5
千葉県 9/26 30%
(3/10)
0%
(0/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。
 
 
 
 
埼玉県 9/4 0%
(0/10)
 
 
 

7/30
 
 
群馬県 9/6 0%
(0/10)
 
 
 
 
 
 
 
栃木県 9/24 0%
(0/14)
 
 
 
 
 
 
 
茨城県 9/24 0%
(0/10)
 
 
 

8/20

8/20
宮城県 9/24 0%
(0/20)
 
 
 
  調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域
  調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
  調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域
調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。
※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。
1. Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169.
2. 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103.
3. 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22.
4. Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300.

国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部

ブタの日本脳炎抗体保有状況(地図情報)

prev
前の速報
next
次の速報
2013-12map
logo40

<速報>2013年シーズンにおける手足口病の流行について―栃木県

(掲載日 2013/10/3)

 

栃木県の県北地区において2013年8月下旬の警報解除以降に、手足口病の患者が再び増加した。そこで、その原因となるウイルスの型別の推移について報告する。

流行状況:2013年6月以降、全国と同様に栃木県でも手足口病が流行した。特に県北地区においては、定点当たりの報告数が他の地域よりも高く、第30週(7/22~7/28)にはピークに達し、第34週(8/19~8/25)に警報が解除された(図1a)。しかしながら、警報解除の直後に、その県北地区にある病原体定点の一医療機関から、複数の児童福祉施設(保育園)で集団発生があり、再び患者が増加していると医師が探知し、報告検体と搬入があった。

検体と検出方法:栃木県の県北地区にある同一の小児科定点において2013年6~9月に手足口病と診断されて、栃木県保健環境センターに感染症発生動向調査の検体として搬入された27検体(咽頭ぬぐい液、鼻汁、うがい液)を対象として、検査・解析を実施した。その内訳として、流行前(第24週;6/10~6/16)に発症した3患者、ピーク時(第29~30週;7/15~7/28)に発症した13患者、第34~36週(8/19~9/8)に発症した11患者から採取した検体に分類して解析を行った。エンテロウイルスの遺伝子検出は、VP4-VP2部分領域を増幅して実施した1)。得られた増幅産物はダイレクトシークエンス法により遺伝子を解読し、GenBankに登録されている遺伝子を参照株として系統樹解析(約340塩基)を実施して型別を類推した。

結果と考察図1に、栃木県全域、および県北地区の定点当たりの報告数の推移(図1a)を示し、それぞれの期間で検出された病原体の割合(図1b)をまとめた。流行前の第24週では、すべての検体からエンテロウイルス71型(EV71)が検出された。さらに、ピーク時(第29~30週)では、9検体(69.2%)からEV71、3検体(23.1%)からA群コクサッキーウイルス6型(CA6)が検出された。一方、第34~36週の10検体(90.9%)からCA6が検出された。これらのCA6が検出された第34~36週の検体のうち、3検体(S13-117、S13-120、S13-121;図2の※で示す)の患者は、今シーズンで2度目の手足口病の発症である(ただし、1度目の発症時の検体は、採取されていない)。しかしながら、EV71が検出された患者とCA6が検出された患者の間で、臨床症状等に特徴的な差はなかった。このように、栃木県の県北地域における手足口病について、7月のピーク時ではEV71が主流な原因病原体だったが、8月以降はCA6に徐々に推移して流行が生じた。

EV71による手足口病は3~4年周期で流行するが2)、本年度は2010年の流行から3年目にあたる。先に報告されたIASRによると、今シーズンにおいて高知県ではEV71が手足口病の患者から多く分離された3)。一方、熊本県では4~6月にかけてCA6が手足口病の主流な原因であった4)。しかしながら、本県では、その両方が相次いで主流のウイルス型として検出された。本報告と同様に、今シーズンの長野県の報告では、手足口病患者由来の検体より検出されるウイルスが、EV71からCA6に推移している5)。また、2011年の島根県でもCA6とCA16の二峰性の流行が生じている6)。このような状況下では、1シーズン中に複数回も感染・発症を繰り返してしまう小児も存在する。ゆえに、検出されるウイルス型別の動向を詳細に監視して、迅速に情報を医療現場に還元することが重要である。

 

参考文献
1)手足口病 病原体検査マニュアル(国立感染症研究所)
2)IASR 33: 55-56, 2012
3)清田直子, 他, IASR 34: 233, 2013
4)森光俊晴, 他, IASR 34: 263-264, 2013
5)松岡高史, 他, IASR 34: 306-308, 2013
6)飯塚節子, IASR 33: 58-59, 2012

 

栃木県保健環境センター   
    微生物部 水越文徳 櫛渕泉美 鈴木尚子 舩渡川圭次   
    企画情報部 舟迫 香 森川博夫

logo40

<速報>渡航歴のない麻疹集団発生からのB3型麻疹ウイルス検出―愛知県

(掲載日 2013/10/2)

 

2013年8月23日~9月12日の期間に愛知県内で麻疹と診断された患者のうち、愛知県衛生研究所にて行った麻疹ウイルス遺伝子検査陽性を示した13例について、ウイルス検査の概要を報告する。このうち遺伝子型別のできなかった1例を除く12例の遺伝子型はB3型であった。保健所による疫学調査では、13例とも患者および同居者に患者発症前1か月間の渡航歴はない。なお患者番号はNESID届け出ID順に付番した。

1)8月上旬に同一医療機関来院歴のある者7名
患者2:9歳男児、麻疹含有ワクチン(MCV)接種歴なし、8月16日発熱。患者1:9カ月女児、MCV接種歴なし、8月18日発熱。患者12:26歳女、MCV接種2回、8月18日発熱。患者8:6歳女児、MCV接種1回、8月20日発熱。患者3:1歳男児、MCV接種歴なし、8月21日発熱。患者4:2か月女児、MCV接種歴なし、8月29日発熱・発疹、患者12の家族。患者5:11歳女児、MCV接種歴不明、8月28日発熱。

2)来院者の同居家族4名
患者9:1歳男児、MCV接種歴なし、母が受診、8月30日発熱。患者7:1歳男児、MCV接種歴なし、患者8の家族、8月31日発熱。患者6:35歳男、MCV接種歴不明、患者1の家族、9月2日発熱。患者10:3か月男児、MCV接種歴なし、患者12の家族、9月7日発熱。

3)上記医療圏を通勤し、患者との接触歴のない患者2名
患者11:39歳男、MCV接種歴なし、8月31日発熱。患者13:19歳男、MCV接種歴不明、9月6日発熱。

患者1~13より採取された血液(全血もしくは血清)、尿、咽頭ぬぐい液を検体として、RT-nested PCR法およびVero/hSLAM細胞を用いたウイルス分離による実験室診断を試みた。PCRの結果、患者12を除く12例については、提供された1検体以上より麻疹ウイルスNおよびH遺伝子(1st primerのproduct)が増幅され、N遺伝子の増幅産物について塩基配列を決定した。患者由来N遺伝子の部分塩基配列(456bp)はすべて同一で、系統樹解析の結果、B3型麻疹ウイルスに分類された()。この部分塩基配列は2013年福岡市がタイからの帰国者より検出を報告した配列および同年尼崎市から報告された配列と100%の相同性を示した(、文献1)。H遺伝子nested primerによるproductが生成されなかった(文献1)点も福岡市の事例と同じである。なお患者12については第4病日に採取後冷蔵されていた血清を18日後に検査したところ、H遺伝子のみが増幅された。また、患者5名(1, 3, 4, 6, 10)由来検体より麻疹ウイルスが分離された。

愛知県では、2010年以降毎年輸入麻疹関連症例への対応がなされており、適切な時期に採取された検体が増えて遺伝子検出やウイルス分離率が向上している。2013年は、2月と3月に中国からの輸入各1例より遺伝子型H1を、3月と4月には渡航歴のない患者各1例より遺伝子型D9を検出しており、異なる遺伝子型の麻疹流入が繰り返し検知されている。今回の集団発生は、医療機関以外に接点のない患者5名が8月16~21日の期間に集中して発症しており、感染源は共通と考えられる。また、患者13名中MCV接種歴のあった者は6歳(1回)および26歳(2回)2名のみ、残り11名(うち0歳児3名)のMCV接種歴はなしまたは不明であり、ひとたび麻疹が発生するとMCV未接種者間で速やかな感染拡大がみられる2-4)ことが改めて認識された。日本における2006~2008年のアウトブレイクの主たる原因ウイルスであり、常在型ウイルスとされている遺伝子型D5の麻疹ウイルスの検出は2010年5月を最後に報告がない。輸入麻疹との関連や感染経路の特定に有用な分子疫学的解析の重要性が、今後ますます高まると思われる。 

 

参考文献
1)IASR 34: 201-202, 2013
2)IASR 31: 271-272, 2010
3)IASR 32: 45-46, 2011
4)IASR 33: 66, 2012

 

愛知県衛生研究所  
     安井善宏 伊藤 雅 安達啓一 尾内彩乃 中村範子 小林慎一 山下照夫  皆川洋子
愛知県衣浦東部保健所  
     氏木里依子 山下敬介 伴友輪 鈴木英子 福永令奈 飯田 篤 吉兼美智枝  成瀬善己 
     服部 悟
岡崎市保健所   
     土屋啓三 深瀬文昭 望月真吾 片岡 泉 大嶌雄二 片岡博喜

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan