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2013年の手足口病の流行は第30週にピークを示し、第33週の時点で減少傾向である。しかし、これまでの同時期と比較して患者報告数の多い状態が続いており、増加傾向を示している地域もある。手足口病の起因病原体の中で重症化の頻度が高いEV71を含め、手足口病の発生動向には今後とも注意深い観察が必要である。
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(掲載日 2013/8/30)
2013年5~6月に無菌性髄膜炎患者(疑い含む)16名の検査をしたところ、12名からエコーウイルス30型(以下E30)が検出された。その12名由来の検体は、2カ所の病原体定点医療機関で採取されたものであった。E30が検出された患者の性別は男性6名、女性4名で、2名は不明であった。年齢分布は4歳が4名と最も多く、次いで5歳と6歳が各2名、8歳が1名であったが、残り3名は不明であった。記載のあった11名の主な症状は、発熱(11名)、頭痛(4名)、嘔吐(3名)および上気道炎(3名)であった。発熱は37.4℃~39.4℃で、平均は38.7℃であった。
エンテロウイルスの検査は、PCR法による遺伝子検出と培養細胞によるウイルス分離/同定を実施した。遺伝子検査には、EVP2/OL-68-1およびEVP4/OL-68-1のプライマーを用いてRT-semi nested PCR後、バンドが得られたものについてダイレクトシークエンスを行いGenBank中の登録株と系統解析を行った。クラスターを形成した株のうち代表株につきCODEHOP-snPCR法によるVP1シークエンス、および分離株すべてについて中和試験により血清型を決定した。なおウイルス分離には、RD-18S、Vero-E6およびHEp-2の各細胞を用いている。その他ウイルスの遺伝子検査についても、症状に応じて実施した。
E30が検出された症例一覧を表1に示す。E30は、遺伝子検査により12名由来の検体から検出され、材料別では髄液11件中11件および咽頭ぬぐい液3件中3件から検出された。
また、ウイルス分離は検体量不足のため2名については実施できなかったが、9名から分離株を得、材料別では髄液9件中8件および咽頭ぬぐい液3件中3件から分離された。
E30が検出された12名中3名では、髄液からアデノウイルス(以下AD)も同時に検出されている。
VP1領域275bpの系統解析の結果、滋賀分離株-20130140CはBastianii株(標準株)と約80%一致しており、2008~2010年に検出された国内分離株とは約7%異なっていた(図)。
2013年3~7月に採取された無菌性髄膜炎患者(疑い含む)からのウイルス検出状況を表2に示す。3月にコクサッキーウイルスB群3型(以下CB3)およびエコーウイルス18型(以下E18)が検出されている。
滋賀県感染症発生動向調査における無菌性髄膜炎の定点当たりの患者数は、2013年第16週に0.14人/定点を示し、第22週は0.28人/定点であった。
管轄保健所でこれら無菌性髄膜炎患者(疑い含む)の調査を行ったところ、疫学的な関連性は認められなかった。
E30は、滋賀県では1990~1991年、1997~1998年および2003年に多く分離されている。現在も検体搬入が続いており、前回の流行から感受性個体が蓄積しているため、今後のE30の動向について注視していきたい。
滋賀県衛生科学センター 児玉弘美 小菅裕也 山田香織 鈴木智之 小嶋美穂子 石川和彦 井上剛彦
滋賀県長浜保健所 谷口秀美
国立感染症研究所 吉田 弘
(掲載日 2013/8/30 一部修正 2013/10/9)
はじめに:手足口病は、国内ではヒトエンテロウイルスA群に属するコクサッキーウイルスA群16型(CA16)、エンテロウイルス71型(EV71)、コクサッキーウイルスA群10型(CA10)などが毎年の流行における主たる病原体として知られている。
近年、長野県中部では、2006年にEV71、2011年にコクサッキーウイルスA群6型(CA6)による手足口病の流行を経験した。今季においても、本県中部では手足口病が流行した。今季の臨床像と検出ウイルスについて報告する。
過去に流行したEV71 、CA6 の特徴:2006年、本県中部ではEV71による手足口病の流行を経験した。当院において観察された患者の特徴は次の通りである。1)平均年齢が他のウイルスによる手足口病と比較して高いと考えられること、2)約70%が最高体温37.5℃未満であったこと(必ずしも高熱を有する場合ばかりではない)、3)口腔粘膜疹は頬部および舌など口腔前方に1~2mm大程度であったこと、4)皮疹は手掌手背・足底足背、膝と肘、臀部を中心とする紅斑性小水疱であったこと、であった。
2011年には、ヘルパンギーナの主病因ウイルスのひとつであったCA6が、突然手足口病の流行ウイルスとして国内に登場したことは記憶に新しい。当院においても、受診した手足口病患者のうち43例からCA6、CA10、CA16が検出され、その割合は31:10:2であった。主因ウイルスであったCA6では、最初から四肢を中心とした皮疹で受診する患者以外に、発熱とヘルパンギーナ様の口腔粘膜疹(口蓋垂や口蓋弓)が先行した後、皮疹を認める例が全患者の約40%であった。また、発症年齢は2歳以下が多く、経過中の最高体温が37.8℃以上と高く、発疹は半数近くが従来の手足口病の分布範囲を超え、体幹、口唇周囲など広範囲に出現した。中には大きな水疱を認めたため水痘との鑑別に苦慮した例や、治癒後3~4週を経て、爪甲の層状変化や脱落を認めた例も散見された1,2)(表)。これらはいずれも2008年のEV71を主因とする手足口病の臨床像と異なるものである。
今シーズンの流行状況と検出ウイルス:長野県中部地区(松本市)における2013年の手足口病の流行は、第25週(6/17~)から始まり第29週(7/15~)~第30週(7/22~)にピークを迎えた。第31週(7/29~)現在、当院のみにおいても、のべ200名近くが受診した(図1)。期間中、患者から無作為に抽出し、採取した26検体についてウイルスの検出を行ったところ、ウイルスはシーズン当初、EV71が検出されたが、7月中旬以降EV71に加えCA16やCA6も検出され混合流行となっていた。
臨床症状の違いを感じた第28週以前と以降:手足口病におけるEV71優位のCA16との混合流行と考えられる第28週以前と、さらにCA6が混在したと考えられる第29週以降で、患者の年齢や発熱(最高体温)、発疹等の臨床症状の違いがうかがわれた。すなわち、受診者の年齢は、第28週以前では、3~5歳が多くみられたが、それ以降は1~2歳も増加した(図2)。
また、発熱分布は、第28週以前は、患者の70%近くは37.5℃未満であったのに対し、それ以降では37.5℃未満は50%程度に減少した。逆に39.5℃以上の高熱例が10%程度に増加した(図3)。
このように、診療の現場でシーズン途中に疫学的および臨床症状の違いがうかがわれたのは、過去に経験したEV71、CA6が主病因ウイルスであった手足口病の特徴をふまえると、EV71主流の流行からCA6との混合流行に移行したためと推察された。
まとめ:今期前半を終えて、手足口病に関連するところとして、6月初旬にはEV71による無菌性髄膜炎例、7月初旬には、CA6による爪脱落例を伴う手足口病を経験した(いずれも原因ウイルスを特定できた)。また、今期流行内における反復感染例(二度かかり例)も散見された。さらにデータが蓄積されていけば、症候群としての手足口病における起因ウイルスごとの症状について、有意差を持った違いを明らかにすることができる可能性がある。エンテロウイルス属の持つ多様性に一層の関心を払いつつ、今期後半も臨床ウイルス学的なデータの蓄積を継続していきたい。
参考文献
1)松岡高史, 他, 小児科臨床 66: 1735-1741, 2013
2)内山友里恵, 中沢春幸, 長野県環境保全研究所研究報告 8: 77-82, 2012
松岡小児科医院 松岡高史
長野県環境保全研究所感染症部 内山友里恵
平成25年8月30日現在
国立感染症研究所
以下のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、事態の展開があれば、リスクアセスメントを更新していく予定である。
続きを読む: 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応 (2013年8月30日現在)
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ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第7報-(2013年8月29日現在) |
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日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。 【 国立感染症研究所HP / 厚生労働省HP 】 |
抗体保有状況 (地図情報) 抗体保有状況 (月別推移) |
HI抗体 | 2-ME 感受性 抗体 |
都道府県 | 採血 月日 |
HI抗体 陽性率 ※1 |
2-ME感受性 抗体陽性率 ※2 |
コメント |
◎ 5/27 |
◎ 6/24 |
沖縄県 | 8/12 | 15% (3/20) |
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HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40未満であった。 |
◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
鹿児島県 | 8/26 | 95% (19/20) |
50% (9/18) |
HI抗体陽性例のうち18頭は抗体価1:40以上であり、そのうち9頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 7/8 |
◎ 7/8 |
宮崎県 | 8/19 | 0% (0/11) |
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◎ 8/12 |
◎ 8/23 |
大分県 | 8/23 | 100% (10/10) |
80% (8/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち8頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 8/6 |
◎ 8/6 |
熊本県 | 8/20 | 35% (7/20) |
100% (7/7) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 7/2 |
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長崎県 | 7/23 | 100% (10/10) |
0% (0/1) |
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 8/7 |
◎ 8/7 |
佐賀県 | 8/21 | 60% (6/10) |
67% (4/6) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 7/23 |
◎ 7/23 |
福岡県 | 8/20 | 70% (7/10) |
100% (7/7) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 6/25 |
◎ 6/25 |
高知県 | 8/13 | 100% (10/10) |
0% (0/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 7/9 |
◎ 7/23 |
愛媛県 | 8/12 | 80% (8/10) |
75% (6/8) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち6頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
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広島県 | 8/21 | 0% (0/10) |
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◎ 8/20 |
◎ 8/20 |
兵庫県 | 8/20 | 10% (1/10) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
三重県 | 8/12 | 10% (1/10) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
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愛知県 | 7/22 | 0% (0/10) |
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石川県 | 8/20 | 0% (0/10) |
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◎ 7/16 |
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富山県 | 8/12 -13 |
0% (0/20) |
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新潟県 | 8/19 | 0% (0/10) |
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千葉県 | 8/12 | 0% (0/10) |
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◎ 7/30 |
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群馬県 | 8/7 | 0% (0/12) |
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栃木県 | 8/26 | 0% (0/14) |
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茨城県 | 8/12 | 0% (0/10) |
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宮城県 | 8/6 | 0% (0/22) |
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調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
◎ | 調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す | |||||
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。 ※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。 |
1. | Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169. |
2. | 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103. |
3. | 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22. |
4. | Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300. |
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国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部 |