注目すべき感染症
◆ 咽頭結膜熱
咽頭結膜熱は主にアデノウイルス3型(他に1、2、4、5、6、7型等でもみられる)に感染することによってみられる咽頭炎、結膜炎を主とする急性ウイルス性感染症である。発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)が3主症状であり、通常感染曝露からの潜伏期間が5~7日、有症状期間は3~5日といわれている。特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となる。眼の症状が強い時には、眼科的治療が必要となることもある。感染経路は主に接触感染、飛沫感染であるが、その感染力は強力であり、タオル、ドアの把手、エレベーターのボタン、階段の手すり等の患者が触れたものを触ることによっても感染する場合がある。また、本疾患は症状消失後も約1カ月間にわたって尿・便中にウイルスが排出されるといわれており、更に感染しても症状のない無症候病原体保有者や、明確に3主症状を示さない例も少なからず存在すると考えられる。したがって、医療機関を受診して咽頭結膜熱と診断された者だけを隔離等の感染対策の対象としても、効果的な対策に繋がることは期待できない。特に感染経験の乏しい小児の集団生活施設である保育園、幼稚園、小学校等では流行時期になると集団発生がみられることも珍しくはない。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて咽頭結膜熱をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2012年第21週以降増加が続いていたが、第25週の定点当たり報告数は0.54(報告数1,700)となり、前週の定点当たり報告数0.56よりも減少がみられた。しかし、咽頭結膜熱の週別の報告数は、過去10年間をみてもその殆どが第27週から第30週までのいずれかにピークを迎えており、再び増加してくる可能性が高いと予想される(図1)。都道府県別では福井県(1.05)、佐賀県(1.00)鹿児島県(0.98)、新潟県(0.97)、徳島県(0.87)、福岡県(0.82)、群馬県(0.78)の順となっている(図2)。第1~25週までの定点当たり累積報告数は7.51(累積報告数23,637)であり、年齢群別割合をみると0~1歳35.6%、2~3歳28.1%、4~5歳20.8%の順となっている。2000年以降では多くの年で2~3歳が最多を占めていたが、本年はこれまでのところ2009年と同様に0~1歳が最多である。
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図1. 咽頭結膜熱の年別・週別発生状況(2002~2012年第25週) |
図2. 咽頭結膜熱の都道府県別定点当たり報告数の推移(2012年第23~25週) |
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第1週からこれまでに咽頭結膜熱と診断された患者から検出されたアデノウイルス(総検出報告数32)では、アデノウイルス2型37.5%(検出報告数12)、3型および1型が共に18.8%(検出報告数6)の順となっている。1998年以降、咽頭結膜熱の患者から検出報告されてきたアデノウイルスでは3型が最多を占めてきたが、本年はまだ検出報告数が少ないものの、2型が多数を占めている。
咽頭結膜熱は夏季を中心に流行する疾患であり、その発生動向には今後とも注意深い観察が必要である。
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