国立感染症研究所

IASR-logo

HIV/AIDS 2016年

(IASR Vol. 38 p.177-178: 2017年9月号)

わが国は, 1984年にエイズ発生動向調査を開始し, 1989年~1999年3月はエイズ予防法, 1999年4月からは感染症法の下に施行してきた。診断した医師には全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集の統計は, 厚生労働省エイズ動向委員会:平成28年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省健康局結核感染症課より公表されている; http://api-net.jfap.or.jp/status/2016/16nenpo/16nenpo_menu.html)。

届出患者は, HIV感染者とAIDS患者に分類される(定義は脚注*の通り)。1985~2016年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者18,920(男性16,532, 女性2,388), AIDS患者8,523(男性7,747, 女性776)である(図1)。なお, 「血液凝固異常症全国調査」(2016年5月31日現在)によると血液凝固因子製剤によるHIV感染者は累積1,439(死亡者711)である。

2016年, 世界中で約3,670万人のHIV感染者/AIDS患者がおり, 年間約180万人の新規感染者, 約100万人の死亡者が推定されている(UNAIDS FACT SHEET JULY 2017; http://www.unaids.org/sites/default/files/media_asset/UNAIDS_FactSheet_en.pdf)。

1.本邦の2016年のHIV/AIDS報告数
2007年以降, 毎年, HIV感染者とAIDS患者合わせて1,500件前後報告されているが(2007年以降の年間報告件数はHIV感染者1,002~1,126, AIDS患者418~484), 2016年の新規報告数は, HIV感染者1,011(男性965, 女性46), AIDS患者437(男性415, 女性22)であった(図2)。HIV感染者1,011中, 日本国籍者は885(男性857, 女性28), 外国国籍者は126(男性108, 女性18)で, 日本国籍男性がHIV感染者の85%(857/1,011), AIDS患者の86%(376/437)を占めている。HIV感染者の中では, 男性同性間性的接触(両性間性的接触を含む)による感染が全体の73%(735/1,011)〔日本国籍男性HIV感染者の78%(669/857)〕で(図3参考図), その大多数は20~40代であった(図4)。これに対し男性異性間性的接触による感染は全体の14%(137/1,011), 日本国籍男性HIV感染者の14%(117/857)であった。日本国籍女性HIV感染者の79%(22/28)が異性間性的接触, 21%(6/28)がその他・不明であった。2016年は母子感染の報告はなかった。日本国籍男性の静注薬物使用は, 2001年以降2013年を除き毎年1~5件報告されており, 2016年も1件報告があった。

HIV感染者の推定感染地域:1992年までは海外での感染が主であったが, それ以降は国内感染が大部分である。2016年のHIV感染者の推定感染地域は, 国内感染が全HIV感染者の83%(838/1,011), 日本国籍者の88%(783/885)であった。

報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者514, AIDS患者185), 近畿(HIV感染者185, AIDS患者77)に多い。人口10万対では, HIV感染者数およびAIDS患者数上位10位に九州, 四国の県が含まれる()。

2.献血者のHIV抗体陽性率
2016年には, 献血件数4,841,601中48件(男性44件, 女性4件)の陽性者がみられ, 献血10万件当たり0.991(男性1.261, 女性0.296)であった(図5)。

3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談
自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は, 2016年には118,132件で, 前年(128,241)より減少した(図6)。陽性件数は421(2015年463), 陽性率は0.36%(2015年0.36%)であった。うち保健所での検査陽性率は0.28%(248/88,773), 自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は0.59%(174/29,359)で, 後者での検査の陽性率が高かった。また, 2016年の相談件数は119,382件で前年(135,282)より減少した。

まとめ
2016年のHIV感染者数とAIDS患者数を合わせた年間新規報告件数は1,448(2015年は1,434)であった。2016年の報告件数の30%あまりがAIDS発症によりHIV感染が判明していることから, 自身の感染を知らないHIV感染者の存在が示唆される。HIV感染の早期診断のために, 国および各自治体レベルで, 感染者・患者発生の特徴(特に20代のHIV罹患率の高さと60歳以上のAIDS患者数の増加)を把握し, 予防や早期発見の啓発とそれを推進する効果的な対策を立案・実施し, 感染拡大の抑制・早期治療の促進を図ることが重要である。対策が重要な男性同性愛者, 青少年, 性風俗産業従事者およびその利用者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供, 受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお, 対策を講ずる際には, 人権への配慮や, 必要な関係者(医療関係者, NGO, 教育関係者等)と協力して実行することが重要である。

本邦のHIV感染症克服に向けては, グローバルなHIV感染拡大抑制に結びつく取り組みに加え, 国内の感染動向の把握, 予防啓発, 早期診断・治療に向けた取り組みが必要となる。抗HIV薬治療の導入はAIDS発症抑制を可能にしたが, ウイルスの完全な排除は現状では望めない。長期投薬継続が必要となり, 薬剤耐性株出現や, 抗HIV薬治療下のウイルス複製抑制状態における神経認知障害, 骨粗鬆症, 心血管障害等の促進が問題となってきている。

*HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い「後天性免疫不全症候群」と診断されたもののうち, AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの
 *AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSと診断された場合には含まれない)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version