国立感染症研究所

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HIV/AIDS 2018年

(IASR Vol. 40 p163-164:2019年10月号)

わが国は, 1984年9月にエイズ発生動向調査を開始し, 1989年2月~1999年3月はエイズ予防法, 1999年4月からは感染症法の下に施行して来た。診断した医師には全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集の届出患者の統計は, 厚生労働省エイズ動向委員会:平成30年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省健康局結核感染症課より公表されている;http://api-net.jfap.or.jp/status/index.html)。

届出患者は, HIV感染者とAIDS患者に分類される(定義は次ページ脚注の通り)。1985~2018年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者20,836(男性18,359, 女性2,477), AIDS患者9,313(男性8,475, 女性838)である(図1)。なお, 「血液凝固異常症全国調査」(2018年5月31日現在)によると血液凝固因子製剤による感染者は累積1,439(死亡者717)である。2018年, 世界中で約3,790万人のHIV感染者/AIDS患者がおり, 年間約170万人の新規感染者, 約77万人の死亡者が出ていると推定されている(UNAIDS FACT SHEET 2019 https://www.unaids.org/en/resources/fact-sheet)。

本邦の2018年のHIV/AIDS報告数:HIV感染者とAIDS患者を合わせた年間新規報告数は, 2006年以降1,300件を超え, 2013年の1,590件をピークとして横ばいからやや減少傾向となっており, 2018年の新規報告数は, HIV感染者940(男性889, 女性51), AIDS患者377(男性353, 女性24)であった(図2)。HIV感染者940中, 日本国籍者は800(男性768, 女性32), 外国国籍者は140(男性121, 女性19)で, 日本国籍男性がHIV感染者の82%(768/940)を占めている。外国国籍男性のHIV感染者新規報告数は近年増加傾向であったが, 2018年は前年よりわずかに減少した(2014年82, 2015年88, 2016年108, 2017年136, 2018年121)。HIV感染者の中では, 男性同性間性的接触(両性間性的接触を含む)による感染が全体の71%(670/940)〔日本国籍男性HIV感染者の中での同性間性的接触の割合は76%(584/768)図3〕で, その大多数は20~40代であった(図4)。これに対し男性の異性間性的接触による感染は全体の13%(121/940), 日本国籍男性HIV感染者の中での異性間性的接触の割合は13%(102/768)であった。日本国籍女性HIV感染者32のうち, 異性間性的接触が23, その他不明が9であった。日本国籍男性の静注薬物使用は, 2001年以降2013, 2017年を除き毎年1~5件報告されており, 2018年は1件であった。

HIV感染者の推定感染地域:1992年までは海外での感染が主であったが, それ以降は国内感染が大部分である。2018年のHIV感染者の推定感染地域は, 国内感染が全HIV感染者の82%(774/940), 日本国籍者の88%(706/800)であった。

報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者498, AIDS患者147), 近畿(HIV感染者161, AIDS患者61), 東海(HIV感染者112, AIDS患者55), 九州(HIV感染者83, AIDS患者61)に多い。人口10万対では, HIV感染者およびAIDS患者報告数上位10位に九州, 中国, 四国の県が含まれる()。

参考情報1 献血者のHIV陽性率:2018年には, 献血件数4,707,951中38件(男性38件, 女性0件)の陽性者がみられ, 献血10万件当たり0.807(男性1.112, 女性0)であった(図5)。

参考情報2 自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は, 2018年には130,759件で, 前年(123,432件)より増加した(図6)。陽性件数は385(2017年463), 陽性率は0.29%(2017年0.38%)であった。うち保健所での検査陽性率は0.24%(233/97,107), 自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は0.45%(152/ 33,652)で, 後者での検査の陽性率が高かった。また, 2018年の相談件数は127,830件で前年(123,768件)より増加した。

まとめ:2018年のHIV感染者数とAIDS患者数を合わせた年間新規報告数は1,317(2017年1,389)であった。2018年の報告数の29%がAIDS発症によりHIV感染が判明していることから, 自身の感染を知らないHIV感染者の存在が示唆される。エイズ予防指針に基づき, HIV感染の予防や早期発見の啓発と, それを推進するケアカスケードをふまえた効果的な対策を立案・実施し, 感染拡大の抑制・早期治療の促進を図ることが重要である。対策が重要な男性間で性的接触を行う者, 性風俗産業の従事者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供, 受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお, 対策を講ずる際には, 人権への配慮や必要な関係者(医療関係者, NGO, 教育関係者等)と協力して実行することが重要である。

本邦のHIV感染症克服に向けては, グローバルなHIV感染拡大抑制に結びつく取り組みに加え, 国内の感染動向の把握, 予防啓発, 早期診断・治療に向けた取り組みが必要となる。抗HIV薬治療の導入はAIDS発症抑制を可能にしたが, ウイルスの体内からの完全な排除は現状では望めない。長期投薬継続が必要となり, 薬剤耐性株出現や, 抗HIV薬治療下のウイルス複製抑制状態における神経認知障害, 骨粗鬆症, 心血管障害等の進行が問題となってきている。

HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い「後天性免疫不全症候群」と診断されたもののうち, AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの。

AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSと診断された場合には含まれない)。但し, 平成11(1999)年3月31日までのAIDS患者には病状変化によるAIDS患者報告が含まれている。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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