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髄膜炎菌感染者の接触者に対する予防内服について

(IASR Vol. 34 p. 366-367: 2013年12月号)

 

1. 髄膜炎菌感染症
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は、髄膜炎および菌血症、呼吸器感染症、稀に尿路感染症、結膜炎などの原因菌としてみられる。わが国では健常保菌者は少ないものの、年間、10~20例の髄膜炎症例を含む髄膜炎菌感染症が報告され、二次感染による感染拡大のリスクがあることから、医療機関、教育機関、行政ともに確実な対応が求められる。

2. 髄膜炎菌感染症における伝播リスク
髄膜炎菌感染症は飛沫感染する疾患である。敗血症、髄膜炎、肺炎発症者の呼吸器分泌物に曝露した家族および同居者、医療従事者は曝露後における抗菌薬による予防投薬が推奨されている1,2)

敗血症および髄膜炎では、ともに気道に存在するN. meningitidisが発端とされており、また少数ながら髄膜炎菌性肺炎においても伝播事例が報告されていることから3,4)、これらの髄膜炎菌感染症が対象となる。元来、飛沫感染予防策にかかわる伝播距離は、髄膜炎菌感染症における検討において、発症者の約1m以内は特にリスクが高いとの報告5)に基づいている。

曝露時における二次感染の確率については様々な検討があり、米国での家族内での検討では約3/1,000例とする報告がある6)。ベルギーにおける検討では、二次感染が4.4%(85/1,913例)にみられ、曝露後3日以内に48%、7日以内に70%が発症したと報告されている7)。二次感染者においてはやや重症例の頻度が少なくなるものの、家族内は最もリスクが高く、保育園、幼稚園、また、寮生活者などの集団生活についての発症者が報告されている。医療従事者も救急現場を主として医師、看護師、救急隊員の二次感染が報告されている8)

わが国において2011年5月に発生した事例では、寮生、部員、同級生、教職員、寮調理従事者そして発症者ならびに保菌者の家族としての濃厚接触者129名のうち、疑い例を含む4名の二次感染が報告されている9)

3. 曝露後予防
予防投与は、発症者の家族や寮生活者、保育園、学校などにおける緊密な接触者、適切な飛沫予防策を伴わずに挿管、口から口への人工呼吸、気管吸引を行った医療従事者などが対象となる。

髄膜炎菌感染症の曝露後から二次発症までの期間は、多くの場合2~10日であることから、曝露後の予防投薬は曝露者の保菌検査などの結果を待たずに可能な限り早期に投薬する必要がある2)。発症者周囲の投薬は髄膜炎菌感染症が発生した際に考慮され、わが国では少ないものの健常保菌者では必ずしも行われない。

曝露後予防は、シプロフロキサシン、リファンピシンもしくはセフトリアキソンが用いられる(表1)。プラセボとの比較試験では治療後1週後における除菌成功率は、シプロフロキサシン (RR 0.04; 95% CI 0.01- 0.12)、リファンピシン (RR 0.17; 95% CI 0.13-0.24)であり、2週後ではシプロフロキサシン (RR 0.03; 95% CI 0.00-0.42)、リファンピシン (RR 0.20; 95% CI 0.14 -0.29)と報告されている10)。検討は少ないものの、アジスロマイシンは第二次選択薬となる可能性がある。

わが国における2011年にみられた高校男子寮の集団感染事例では、濃厚接触者129名のうち122名が予防内服(主にリファンピシン)を投与されたと報告されている9)

4. 薬剤感受性
現在、少数ながら予防投薬に用いられるリファンピシンもしくはシプロフロキサシン耐性のN. meningitidisが報告されている。CLSI M100-S23におけるN. meningitidisのブレイクポイントは、シプロフロキサシンおよびレボフロキサシンともに≧0.12 μg/mL、リファンピシン≧2 μg/mL、ST合剤 ≧0.5/9.5 μg/mLである11)。薬剤感受性試験の実施にあたっては、特に懸濁液の調製に際して曝露リスクが高く、検査技師の感染事例も報告されていることから12)、安全キャビネット内で行うことを含めて厳密なバイオセーフティが求められる。

海外ではrpoB遺伝子の変異によるリファンピシン耐性株の発症例および化学予防の失敗例が報告されおり13)gyrA遺伝子の変異によるシプロフロキサシン耐性株は、米国ではノースダコタおよびミネソタで3例14)、スペインでは0.17% (9/5,300株)にみられている15)

わが国では、1990~2004年までに分離されたN. meningitidis 100株における検討では、セフォタキシムおよびセフトリアキソン、リファンピシンはいずれも感性、シプロフロキサシン耐性(0.125μg/mL)が3%(3/100株)みられたと報告されている16)

N. meningitidis曝露時には、直ちに予防投薬を行う必要があるものの、薬剤耐性株の動向も含めて予防投薬の選択を行う必要がある。

 

参考文献
1) 2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings
http://www.cdc.gov/hicpac/2007IP/2007isolationPrecautions.html
2) Cohn AC, et al., MMWR 62 (RR-2) : 1-28, 2013
3) Barnes RV, et al., Am Rev Respir Dis 111(2): 229-231, 1975
4) Cohen MS, et al., Ann Intern Med 91(1): 7-12, 1979
5) Feigin RD, et al., N Engl J Med ; 307: 1255-1257, 1982
6) JAMA 235(3): 261-265, 1976
7) De Wals P, et al., J Infect 3(1 Suppl): 53-61, 1981
8) Gilmore A, et al., Lancet 356 (9242): 1654-1655, 2000
9) 藤本茂紘, 他, 小児科 5(9): 1249-1255, 2012
10) Zalmanovici Trestioreanu A, et al., Cochrane Database Syst Rev ; 10: CD004785. 2013
11) Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI) M100-S23, 2013
12) Guibourdenche M, J Clin Microbiol 32(3): 701-704, 1994
13) Rainbow J, Emerg Infect Dis 11(6): 977-979, 2005
14) Wu HM, et al., N Engl J Med 360(9): 886-892, 2009
15) Enríquez R, J Antimicrob Chemother 61(2): 286-290, 2008
16)渡辺祐子, 他, 感染症学雑誌 81(6): 669-674, 2007

 

聖マリアンナ医科大学内科学  総合診療内科 國島広之

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