(IASR Vol. 35 p. 9-10: 2014年1月号)
E型肝炎は、主にE型肝炎ウイルス(HEV)に汚染された食肉や水などの飲食により感染する経口感染症で、近年、イノシシ、シカおよびブタなどの肉や肝臓の生食あるいは加熱不十分な状態での喫食による国内感染事例が複数報告されており、動物由来感染症として注目されている。そこで、HEVによる健康被害の発生防止に資するため、イノシシ、シカおよびブタのHEV感染状況調査を行った。
2006~2013(平成18~25)年の間に、熊本県内でと畜されたイノシシ253頭(肝臓233件、血液145件、筋肉210件)、シカ63頭(肝臓55件、血液26件、筋肉43件)およびブタ1,634頭(と畜検査合格肝臓80件、廃棄肝臓183件および血清1,371件)を検査材料とした。 国立感染症研究所編のE型肝炎検出マニュアルに準じたRT-PCR法でHEV遺伝子を検出し、ダイレクトシークエンス後、MEGA5.2を用いて系統樹解析を行った。また、ブタ血清の一部、26養豚場由来966件(養豚場ごとの件数は不同)については、HEVウイルス様中空粒子(G1-sHEV-LPs)を抗原としたELISA法により、抗HEV-IgG抗体を測定した。
その結果、イノシシ253頭中17頭(6.7%)からHEV遺伝子が検出された。検体別の内訳は、肝臓233件中16件(6.9%)および血液145件中4件(2.8%)、筋肉210件中2件(1.0%)であった(表1)。検出されたHEVの遺伝子型は3型(G3)および4型(G4)で、イノシシの捕獲地域ごとに異なるクラスターを形成する傾向がみられた(図)。一方、シカ63頭からは全く検出されなかった(表1)。ブタは、1,634頭中15頭(0.9%)からHEV遺伝子が検出された。内訳は、と畜検査合格肝臓80件中2件(2.5%)、廃棄肝臓183件中11件(6.0%)および血清1,371件中2件(0.1%)で(表1)、調査した60カ所以上の養豚場のうち5カ所からHEV遺伝子が検出された。なお、HEV遺伝子陽性の廃棄肝臓11件中8件は同一養豚場由来であった。ブタから検出されたHEVの遺伝子型はG3のみであったが、養豚場ごとに異なったクラスターを形成した(図)。また、ブタ血清の抗HEV-IgG抗体保有率は71.9%であり、養豚場間で0~100%と大きな開きがみられた。飼育対象別にみると、specific pathogen free(SPF)ブタを飼育している5養豚場の平均抗体保有率は11.9%と低かった。しかし、通常ブタの養豚場の平均抗体保有率は79.0%で、SPFブタの養豚場より明らかに高かった(表2)。
本調査により、イノシシおよびブタのHEV感染が確認され、少数ではあるが、と畜検査に合格したブタの肝臓からも検出された。2012(平成24)年7月1日から生食用牛肝臓の販売が禁止されたことで、牛肝臓の代わりにブタ肝臓を生食用として提供している飲食店があるとの報道もあり、厚生労働省からブタレバーの提供に関する注意喚起(平成24年10月4日付け食安監発1004第1号)も行われている。しかし、まだまだ消費者に十分周知されているとは言い難い状況であり、イノシシやブタの生食の危険性を繰り返し周知徹底する必要がある。
熊本県保健環境科学研究所 原田誠也 大迫英夫 吉岡健太
熊本県健康福祉部薬務衛生課 西村浩一
NPO法人中部猟踊会西日本 清田政憲
国立感染症研究所ウイルス第二部 李 天成 石井孝司
堺市衛生研究所 田中智之
国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 野田 衛