国立感染症研究所

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2013年度麻疹予防接種状況および抗体保有状況―2013年度感染症流行予測調査(中間報告)

(IASR Vol. 35 p. 109-111: 2014年4月号)

 

はじめに
感染症流行予測調査における麻疹感受性調査(抗体保有状況調査)は1978年度に開始され、1996年度以降は抗体価測定方法が従来の赤血球凝集抑制法からゼラチン粒子凝集(particle agglutination:PA)法に変更となり、現在に至っている。また、本調査では、感受性調査とともに予防接種状況についても調査を実施しており、感受性調査の対象者以外の予防接種状況についても報告されている。

麻疹に対する定期接種は1978年に開始され、従来は幼児期に1回のみであったが、2006年6月より「1回目の接種で免疫が獲得できなかった者への免疫賦与」、「1回目の接種後、年数の経過により免疫が減衰した者に対する免疫増強」、「1回目の接種機会を逃した者に再度の接種機会を与えること」を目的とした2回接種(第1期:1歳児、第2期:年度内に6歳になる者)が開始された。また、2008~2012年度には第3期(年度内に13歳になる者)および第4期(同18歳になる者)が5年間の期限付きで定期接種に導入された。

2012年度の本調査(暫定結果はIASR 2013年2月号に掲載)においては、2012年度の第3期・第4期対象年齢の中に調査時点では未接種の者も含まれていたが、2012年度末時点で1990~2006年度生まれの者は定期接種として2回の接種機会があった年齢層(2回接種世代)となることから、2013年度は2回接種世代の抗体保有状況を検討する上で重要な調査となる。

調査対象
2013年度麻疹感受性調査は北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県の24都道府県で実施され、抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において行われた。また、予防接種状況調査については上記に富山県、愛媛県、熊本県を加えた27都道府県で実施された。2014年2月現在、6,980名の抗体価および8,053名の予防接種歴が報告された。なお、本調査の実施要領における抗体価測定対象者の採血時期は、原則として2013年7~9月としているが、多くの者(5,928名:85%)はこの時期に採血されていた。

麻疹含有ワクチン接種状況
麻疹含有ワクチン(麻疹単抗原ワクチン、麻疹風疹混合ワクチン、麻疹おたふくかぜ風疹混合ワクチン)の接種状況について図1(上段:接種歴不明者を含まない、下段:接種歴不明者を含む)に示した。なお、本調査結果は一調査時点における接種状況であり、厚生労働省で実施している年度単位の接種率調査の結果とは異なるため、結果の解釈には注意が必要である。

全体の接種状況の割合をみると、麻疹含有ワクチンの1回接種者は27%、2回接種者は15%、接種は受けたが回数不明であった者は4%、未接種者は8%であった。また、接種歴不明者の割合は年齢の上昇に伴い増加し、全体では46%を占めた(図1下段)。接種歴不明者を除く接種状況を年齢別にみると、1回以上接種者(1回・2回・回数不明接種者)の割合は0歳で2%であったが、第1期の対象年齢である1歳で86%と急増した(※調査時点の1歳には第1期対象者の未接種者も含まれる)。その後、2歳から30~34歳群までは、ほとんどの年齢および年齢群で90%以上(21歳のみ89%)の1回以上接種率であり、特に2~20歳は95%以上の高い接種率であった(図1上段)。

一方、2012年度末時点で2回接種世代となった年齢層(※2013年度調査時点で、7~13歳、14~18歳、19~22歳をそれぞれ第2期、第3期、第4期終了者に相当する年齢とした)のうち、2回の接種歴が明らかであった者の2回接種率をみると、第2期終了者ではほとんどが60%以上(61~72%、12歳のみ59%)であったが、第3期終了者で60%以上を示したのは15歳のみであった(それ以外は43~54%)。また、第4期終了者の2回接種率は低く、すべて50%未満(33~48%)であった(図1上段)。

麻疹PA抗体保有状況
年齢別あるいは年齢群別の麻疹PA抗体保有状況を図2に示した。PA法により抗体陽性と判定される抗体価1:16以上では、全体の抗体保有率は95%であった。年齢別にみると、0~5カ月齢では移行抗体と考えられる抗体保有者が60%存在していたが、移行抗体が減衰する6~11カ月齢では4%の抗体保有率であった。その後、第1期対象年齢である1歳で76%と急増し、2歳以上ではほとんどの年齢および年齢群で95%以上(11歳では94%、16歳では92%)の抗体保有率を示した。

一方、麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上(少なくとも1:128以上であり、できれば1:256以上が望ましい)の抗体保有率についてみると、2回接種世代に相当する年齢(上記と同様)で90%以上を示したのは、15歳、18歳、19歳のみであった。

まとめ
2013年度の調査において、PA抗体価1:16以上の抗体保有率は全体で95%であり、昨年度(2012年度)に引き続き高い抗体保有率が維持されていた。しかし、年齢別にみると、昨年度の調査では2歳以上のすべての年齢あるいは年齢群で95%以上を示していたが、本年度の調査では2つの年齢(11歳、16歳)で95%を下回った。また、2回接種世代におけるPA抗体価1:128以上の抗体保有率についても、90%以上を示した年齢が昨年度と比較して少なかった。これらの結果が集計上の誤差の範囲であるか、両年度の対象者の違いによるものかについては、さらなる検討が必要と考えられた。

麻しんに関する特定感染症予防指針(2007年12月28日制定、2012年12月14日一部改正)においては、2015年度までに麻疹排除の達成・認定および維持を目標としており、それに向けて、今後も2回の定期接種率95%以上が必要であり、さらに、発症予防に十分な抗体を保有していない者、定期接種の期間が終了した者で2回の接種が完了していない者、特に発症した場合に本人のみならず周りへの影響が大きい医療・福祉・教育に係わる職員あるいは学生等においては、必要とされる2回の予防接種の実施が重要と考えられた。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター  佐藤 弘 多屋馨子
2013年度麻疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県: 北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県

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