国立感染症研究所

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2013年に報告された輸血によるHIV感染事例

(IASR Vol. 35 p. 206-207: 2014年9月号)

日本においては、2003年までに4例の輸血によるHIV感染事例(うち2例は同一献血による感染事例)が発生した。日本赤十字社(以下、日赤という)は、1999年に新たに核酸増幅検査(以下、NATという)を導入し、その後は検体プール数の減少やNATシステムの変更等により、感度の向上を図ってきた。また、血清学的検査においても、凝集法からCLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)に変更し、それ以外にも献血受付時の本人確認の導入や問診強化、新鮮凍結血漿の貯留保管等の対策を導入することにより、輸血用血液に対する安全対策の強化に努めてきた。その結果、NATの検体プール数を50から20へと変更した2004年以降は、輸血によるHIV感染事例の発生は確認されていなかった。しかし、昨(2013)年、5例目の輸血による感染事例が発生し、報道等でも大々的に取り上げられた。本稿では、その概要を説明する。

献血者は40代男性。2013年11月の献血時のスクリーニング検査において、HIV-1/2抗体およびHIV-NATが陽性となったことから、遡及調査を行った。当該献血者は2013年2月にも献血歴があり、スクリーニング検査(NATを含む)は陰性であった。日赤が保管していた検体で個別NATを実施したところ、2法のうち1法が陽性となり、乖離する結果となった。確認のため、さらに別の方法で個別NATを実施したが検出されず、3法のうちの1法のみが陽性であった。この時の献血からは、赤血球製剤と新鮮凍結血漿が製造され、両者は.すでに輸血に使用されていた。輸血に使用された血液がHIV個別NAT陽性の血液であることを医療機関に情報提供し、受血者の感染状況を確認した。その結果、赤血球製剤を輸血された80代の受血者は、輸血から9カ月後の血液で、HIVの感染は確認されなかった。一方、6カ月の貯留保管を経て医療機関に供給された新鮮凍結血漿は、60代の男性に投与されていた。輸血からわずか34日後の血液で、HIV-1 RNAが検出され、HIV-1/2抗体も陽性であることが確認された(図1)。輸血された血液中のウイルス量は非常に少なく、PCRで増幅ができなかったことから、2013年11月献血時のHIV-1/2抗体陽転時の血液と受血者の血液中のHIVの塩基配列を比較した。両者のサブタイプは日本の献血者集団に最も多いBで、env領域341塩基の相同性を確認したこところ、1塩基の相違が認められたが、それ以外はすべて一致しており、一致率は99%以上であった。

また、上記のenv領域以外にも塩基配列の解析を行ったが、検出に影響を及ぼすと思われるような大きな変異は認められなかった。前回献血の保管検体で個別NATを実施し、3回のうち1回しかHIVは検出されなかったことから、感染原因となった血液は感染極初期で、ウイルス量は非常に低濃度であり、20プールNATの検出感度以下で、個別NATの検出限界あたりであると推測された。

赤血球製剤と新鮮凍結血漿を輸血された2人の受血者の感染の有無を分けたのは、輸血されたウイルス量の違いであると思われる。赤血球製剤中の残存血漿はごくわずかであるが、新鮮凍結血漿量は240mLであり、血漿量におよそ10倍の差があることから、ウイルス量にも10倍の差が生じ、結果としてHIV感染の有無という非常に大きな差となって現れたと考えられる。

日赤では2014年8月1日採血分より、スクリーニングNATを従来の20本プール検体から個別検体に変更した。さらに、NATシステムも最新のものに変更し、献血血液のスクリーニング検査の感度を向上させた。しかしながら、検査でウイルスを検出するのにも限界があり、ウインドウピリオドをゼロにすることはできない。検査目的の献血をしないこと、および問診時に虚偽の申告をしない等、献血者のモラルに頼らざるを得ない部分がある。日赤では2014年1月に、献血者に責任ある献血をお願いするため、エイズ検査目的での献血をご遠慮いただくために、献血者に配布する“お願い!”のリーフレットを改訂した。

しかし、それだけでは不十分である。世界的にみるとHIV新規感染者数は減少しており、成人のHIV新規感染者数は26カ国で2001年対比で50%ないしそれ以上減少している1)。一方日本は、2013年のHIV感染者数は1,106件で、前年より104件増加しており、過去2位の報告数であった2)。HIVの新規感染者数の増加だけをみると後進国と言わざるを得ない状況である。わが国のHIV/AIDS対策を見直し、感染者数の減少を目指す対策の強化が必要である。また、献血で判明するHIV感染者数は、2008年の107例をピークに減少傾向にはあるが、依然として年間60例以上で推移している(図2)ことから、献血時のスクリーニング検査でHIV感染の有無を確認するのではなく、匿名により検査を受けることができる公的検査体制のさらなる充実も必要である。そのうえで献血者に対しても、責任ある献血を求めていくことが大切であると考える。

 

参考文献
日本赤十字社血液事業本部 古居保美
 

 

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