企業の風しん対策・感染症予防を支援する新プロジェクト~東京都の取り組み~
(IASR Vol. 37 p. 77-78: 2016年4月号)
1. はじめに
2012~2013(平成24~25)年の風しん流行では, 患者の大多数が20代~40代だった。平成24年度の感染症流行予測調査1)に基づく推計では, 風しんの免疫を持たない成人は約475万人いるとされ2), 今後も風しんの大流行が起こる可能性がある。東京都内の就業者数は約960万人であり, 企業における感染症予防および集団免疫獲得の取り組みは, 当該事業所におけるまん延防止, 地域への拡大防止につながる。
都は, 東京商工会議所, 東京都医師会と連携し, 企業の感染症対策を支援する新プロジェクト「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」を開始した。
2. 対象と事業内容
(1) 対象:都内に所在する 「会社」, 「会社以外の法人」, 「個人事業主」(以下, 「企業等」 という。)を対象とした。
(2) 事業内容:都が実施主体となり, 公益社団法人東京都医師会および東京商工会議所と連携して運営するスキームとした3)(図)。事業所単位で企業等が取り組むべき内容 「取り組みコース」 および達成目標を都が設定し, 企業等への周知, 情報提供, 相談支援, 目標の達成確認は東京商工会議所が, 多摩の商工会議所や東京都商工会連合会等の協力を得て, 都内全域で行う。
参加企業等(以下, 「協力企業」 という。)が選択し取り組む内容は以下のとおり(表)。
A)コースI 感染症理解のための従業者研修
従業者一人一人が, 感染症の予防, まん延防止ができるよう, 自習教材を活用して必要な知識を習得する。教材は, 択一式問題50題と解説書で構成し, 風しんに関する設問は必須問題としている。
B)コースII 事業所単位での感染症BCP(業務継続計画)の作成
職場での感染症の予防, まん延防止を目的に, 業務継続計画を作成することにより, 企業のリスク管理と職場を感染症から守る取り組みを計画的に実施する。業務継続計画で想定する主な感染症は, 身近な感染症である季節性インフルエンザ, ノロウイルス, 働く世代における対応が課題となっている風しんとした。
C)コースIII 事業所単位での風しん予防対策の推進
集団免疫の理解を図り, 事業所単位での従業者の風しん抗体保有率の向上を促す。東京都医師会は, 地域ごとに 「予防接種等協力医療機関」 を確保した。
(3) 達成基準:達成基準を表に示す。達成基準を満たした協力企業を 「達成企業」 とした。協力企業, 達成企業の名称を都の公式ホームページにおいて公表した。
3. 結 果
2015(平成27)年10月5日, 都, 東京商工会議所および東京都医師会は 「職域における感染症対策普及促進事業に関する協定」 を締結し, 役割や連携の方向性について明確にした。平成27年10月13日に募集を開始。企業向け説明会を10月29日~12月14日までに5回開催し355事業所が参加した。
2016(平成28)年3月7日現在, 協力企業の数は延べ142である。コース別では, コースIが68, コースIIが51, コースIIIが23である。また, 達成企業の数は9である。
4. 考 察
世界の全人口の半数以上が都市に住む21世紀は 「都市の世紀」 とも呼ばれている。都市の活力そのものが国の生命線ともいえる状況にあって, 都は 「世界一の都市・東京」 の実現に向けて, 社会保障の充実や経済の活性化, 都市基盤の充実などによる都民生活の向上, あるいは 「課題を解決し, 将来にわたる東京の持続的発展を実現」 に取り組んでいる4)。
その支え手の一つとなる 「企業」 には, 持続的な経済活動の実施が不可欠である。また, 従業者とその家族の健康の保持・増進に対する投資や, 地域住民を意識した組織活動(社会的責任)が重要である。
今後都は, 本プロジェクトのさらなる充実強化を検討している。具体的には, 従業者研修に供する自習教材について紙媒体に加えITを活用したeラーニングシステムを構築する予定である。これにより研修受講の円滑化と管理する担当者の負担軽減を図り, 企業の参画・取り組みを促していく。次に広報の強化である。時期を捉えて事業説明会を広く開催するとともに, 業態から感染症発生リスクの高い, あるいは, 予防・まん延防止の必要性が高いと思われる企業を訪問し, 本プロジェクトの必要性等を経営者等に周知する。
東京都医師会においては, 予防接種等協力医療機関を確保するとともに, 地域の産業医や地域産業保健センターに対し, 研修会や資料送付等の機会を捉えてプロジェクトの案内と企業等への働きかけについて協力依頼を行っていく。
東京商工会議所においては, 他の企業団体と連携して啓発を強化し, 必要に応じて相談員が企業を訪問し, 現場のニーズを踏まえた相談・支援等を行う。さらに相談員として現在の中小企業診断士に加え, 保健師を新たに配置する予定である。これにより協力企業に専門的な情報の提供や社会資源 〔公共保健サービス, 保険事業者との連携(コラボヘルス)など〕 の紹介など, 専門知識を生かした支援を強化する。
5. 結 語
都, 東京都医師会, 東京商工会議所は, それぞれの強みから相乗効果を生み, 企業等の職域での感染症対策を促進する新プロジェクト 「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」 を創出した。本プロジェクトを通じて, 企業の従業者・家族の健康の保持・増進に向けた企業の取り組みを促し, 働く世代の風しん予防対策など大都市東京における課題の解決を目指していく。
参考文献
- 厚生労働省健康局結核感染症課・国立感染症研究所感染症疫学センター 「平成24年度感染症流行予測調査報告書」 p150-155, 平成27年3月
- 国立感染症研究所 「職場における風しん対策ガイドライン」 p1, 平成26年3月
- 職場における感染症対策普及促進事業実施要綱(平成27年9月1日福保健感第491号東京都福祉保健局長決定)
- 東京都 「東京都長期ビジョン~ 「世界一の都市・東京」 の実現を目指して~」 p197, 平成26年12月策定