Vero毒素産生株が散見される新興感染症原因菌 Escherichia albertiiについて
(IASR Vol. 37 p. 98-100: 2016年5月号)
はじめに
Vero(志賀)毒素遺伝子(stx)の保有が散見されるEscherichia albertiiは, 感染症法上の3類感染症原因菌である腸管出血性大腸菌と誤同定される可能性がある1)。本菌は2003年に承認された菌種である2)。それ以前, 本菌はHafnia alvei, 赤痢菌あるいは大腸菌と同定されていた。E. albertiiはヒトに下痢等の消化器症状を惹起することがある。現在まで, 主としてヒト, 野鳥(ハトなど)から分離され, ネコ, ブタ, 鶏肉などからの分離例もある(表1)。日本における本菌によるヒト集団発生の一例を表2に示す。
特徴的な性状等
(表1)E. albertiiは, グラム陰性, 通性嫌気性桿菌で, 一部例外3)を除き運動性は無く, 硫化水素非産生(TSI寒天培地)である。本菌は特徴的な性状に乏しい。表1の他, β-glucuronidase陰性の菌株が多い(84.7%)との報告もある3)。病原因子等については, 本菌は高い割合でeae, cdtを有する。stx2のサブタイプのうち, stx2f, あるいはstx2a4)を保有する菌株も報告されている。腸管病原性あるいは腸管出血性大腸菌と誤同定されることがある1,5)。また, E. albertiiの中にはShigella boydii血清型13と同じ(または非常に類似した)菌体抗原性を示す菌株が存在する6)。
同定法
次の3つのうち少なくとも1つにでも該当する菌株は, E. albertiiを疑い検査をすることが賢明であろう:①eae陽性・非運動性・乳糖非醗酵・硫化水素非産生の菌株, ②stx2f陽性の菌株, あるいは③S. boydii血清型13と同定された菌株。検査法は, Hymaらの診断的マルチプレックスPCR法により被験菌株の3種類の遺伝子を検出する方法6)が代表的である。ただし, プライマーのうち, clpX_28は配列が訂正されている7)。他にも実験室内診断用プライマーが報告されている8,9)。より迅速・正確な本菌の実験室内診断法を確立することは急務である。
遺伝学的な特徴
本菌のゲノムサイズは約4.5~5.0Mbであり, 他のEscherichia属細菌と全ゲノムレベルでの塩基配列相同性は90%前後である。腸管病原性大腸菌等と同様, 染色体上にlocus of enterocyte effacement領域にコードされたIII型蛋白質分泌装置の遺伝子を保有する。さらに, 大腸菌と異なり, 多くの菌株で第2のIII型蛋白質分泌装置をコードするETT2領域が完全に保たれている。これらは, cdtとともに病原性に関与する可能性も考えられている9)。
なお, 従来からの病原体検出情報システム上の取り扱いに関してはIASR 33: 134-136, 2012を参照されたい(http://www.niid.go.jp/niid/ja/ecoli-m/ecoli-iasrd /2030-kj3872.html /2030-kj3872.html)。
参考文献
- Murakami K, et al., Jpn J Infect Dis 67(3): 204-208, 2014,
- Huys G, et al., Int J Syst Evol Microbiol 53: 807-810, 2003
- Lindsey RL, et al., Appl Environ Microbiol 81(5): 1727-1734, 2015
- Brandal LT, et al., J Clin Microbiol 53(4): 1454-1455, 2015
- Ooka T, et al., Emerg Infect Dis 18(3): 488-492, 2012
- Hyma KE, et al., J Bacteriol 187(2): 619-628, 2005
- Oaks JL, et al., Emerg Infect Dis 16(4): 638-646, 2010
- Maeda E, et al., J Vet Med Sci 77(7): 871-873, 2015
- Ooka T, et al., Genome Biol Evol 7(12): 3170-3179, 2015