国立感染症研究所

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わが国における急性B型肝炎の現状

(IASR Vol. 37 p. 151-152: 2016年8月号)

背 景

B型肝炎ウイルス(HBV)による肝がんは1986年にHBV母児感染予防が開始されたにもかかわらず, 減少していない。急性B型肝炎はHBVの初感染によるが, 一部が慢性化し最終的に肝がんに進展する。感染経路は, 母児感染が予防されているわが国ではほとんどが性行為感染症で, その臨床経過は一過性感染であり, 2~3カ月でHBVは排除され臨床的治癒に至り, 慢性化は極めて稀とされてきた。しかし, 欧米では急性B型肝炎の約10%が慢性化し, それは遺伝子型Aによると考えられている。近年の社会のglobalization化に伴い, 本邦にもHBV遺伝子型Aが侵入していることを10年前の本報告で報告した(IASR 27: 219-221, 2006)が, その後の状況について報告する。

方 法

全国の肝疾患拠点病院を中心に後方視的共同研究を行った。

結 果

(1)急性B型肝炎実数の推定

急性B型肝炎は5類感染症として届出義務があるが, その報告数は年間165~510例と極めて少なく, 届出義務は十分になされていないと思われた。一方, 診療報酬データベースに基づくDPCを使用した検討では, 入院した急性B型肝炎患者数は, 2007年2,175人, 2008年では2,391人で, 平均入院期間は20.9±12.5日間であった1)。また, 大阪府の献血者のコホート研究は主に不顕性新規感染者を推定することが可能であるが, その推定数字から全国で約8,500人のHBV感染者が推定された2)。以上より, これらの推計からは新規のHBV感染者は, 全国で年間10,000~11,000人と推定される2)

(2)急性B型肝炎におけるHBV遺伝子型Aの年度別・地域別推移

31共同研究施設より報告された1982~2010年に発生した急性B型肝炎例1,088例で検討すると, 急性B型肝炎例における遺伝子型Aは, 全国的に1990年代半ばより増加傾向にあり, 2010年には約65%が遺伝子型Aとなっている。首都圏では, 遺伝子型Aは1990年代半ばより増加傾向にあり, 2010年には約70%にも達した。この傾向は地方部にも拡大し, 1990年代後半から増加傾向にあり, 2010年には約60%にも達した2)図1)。

(3)急性B型肝炎におけるHBV遺伝子型別の慢性化率

感染後いつまでHBsAgが検出されるかを検討したところ, 慢性化の定義であるHBsAgが6カ月を超えて存続する例が多数存在し, 12カ月以内には約1/3に低下していた。さらに, 急性B型肝炎から慢性化が確認された症例では, 遺伝子型Aが遺伝子型Cより多かった3)図2)。 

(4)急性B型肝炎に対する抗ウイルス薬投与による慢性化予防

急性B型肝炎に対する抗ウイルス薬投与で慢性化を検討したところ, 発症後8週以内に抗ウイルス薬投与することで慢性化予防が可能であった3)図3)。

考 察

今回の検討で, HBV型肝炎は年間約10,000人以上も感染し, 今後も増加すると思われた。特にHBV遺伝子型Aの増加は首都圏から地方にも拡散中で, 従来本邦に存在しているHBV遺伝子型BやCに比して, 慢性化する確率が高いことも明らかになった。また, 慢性化の定義も発症後12カ月に変更する必要があると思われた。幸いなことに, 発症8週以内に抗ウイルス薬を投与することで慢性化も防止可能と思われるが, 今後も厳重な監視が必要である。

 

参考文献
  1. Sako A, et al., Hepatol Res 41: 39-44, 2011
  2. 厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業「B型肝炎ジェノタイプA型肝炎の慢性化など本邦における実態とその予防に関する研究」報告書(H21-肝炎-一般-003) 研究代表者 溝上雅史
  3. Ito K, Mizokami M, Japanese AHB Study Group, et al., Hepatology 59(1): 89-97, 2014

国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト
 プロジェクト長 溝上雅史

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