国立感染症研究所

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東京都のHIV感染者・AIDS患者の動向

(IASR Vol. 37 p.169-171: 2016年9月号)

1. HIV感染者・AIDS患者報告数

東京都において2015年に新たに報告されたHIV感染者・AIDS患者数は4年ぶりに減少し435件1)であった(図1)。国籍別では日本国籍男性の感染者・患者数が前年から88件減少し363件, 外国籍男性は前年から12件増加し57件となり過去最高となった。一方で, 日本国籍女性は2件減少し11件, 外国籍女性は1件増加し4件であった。

感染経路別では男性同性間性的接触が339件と最も多く(77.9%), 前年の373件より減少しているが, 割合としては5%増加していた。

2. HIV検査件数の推移

HIV検査数は社会事情や受検者の関心, 公的な施策や検査の利便性により左右されると考えられている2)。2007年以降, HIV感染者・AIDS患者数とHIV検査数は, ほぼ同様の動きをみせている(図1)。当センターでは通常検査を実施している東京都南新宿検査・相談室(以下, 南新宿)および保健所(8区保健所)を定点とし, 検査数の推移を四半期(Ⅰ~Ⅳ期)ごとに分けて解析してきた3)図2)。毎年, Ⅱ期には東京都HIV検査・相談月間(6月), Ⅳ期には東京都エイズ予防月間(11/16~12/15)としてキャンペーン期間があり, その間の検体数は増加する傾向にある。全体的には, 2009年のインフルエンザH1N1pdm2009および2011年の東日本大震災を経て, HIV検査数は減少してきたが, ここ数年は横ばい傾向が続いていた。

2015年における都内HIV検査総数は25,684件で, 3年ぶりに減少していた。当センターにおける検査数(定点)も同様で, 前年より1,039件(7.7%)減少し, 2011年の検査数とほぼ同数であった。四半期ごとの解析では2015年各四半期の検査数が前年各四半期より減少しており, 全体的に減少していたことが判る。

3. 東京都健康安全研究センターにおけるHIV検査

当センターでは, 南新宿および特別区(東京23区)内の保健所からのHIV検査(通常検査:ELISA法によるスクリーニング検査から確認検査までを実施)と都内の保健所で実施したHIV即日検査〔イムノクロマト法(IC法)を用いた検査〕等の確認検査を実施している。

当センターで検査を実施し, HIV陽性となった例は年間140例程度であり, 都内HIV感染者報告数の40%程度を占めている。多少の増減はみられるものの, 検査陽性例の約60%は南新宿である。

2015年には南新宿9,662件の検査を実施し76件が陽性となった(陽性率0.79%)。このうち70件はウェスタンブロット(WB)法により陽性と判定できたが(92.1%), 6例(7.9%)についてはHIV-1のWB法で判定保留となり, 遺伝子検査(Cobas TaqMan法)によりHIV-1陽性と判定した。

保健所等の即日検査(IC法)で判定保留となり, 当センターで確認検査を実施した例は35件であった。このうち25例が陽性であったが(的中率71.4%), WB法により確定できたのは22件で(88.0%), 3例は遺伝子検査で陽性であった。近年, スクリーニング検査法の感度向上により, 確認検査の一つであるWB法のみでは確定できず, 遺伝子検査で陽性となる例(約10%)が存在しており, 注意が必要である。

4. HIV検査陽性例の解析

2015年保健所等のHIV検査陽性例130件について, 倫理指針に基づき, HIVのサブタイプ等の解析, 感染時期の推定の抗体検査等を実施した(図3)。これらは都内公的検査機関での陽性例の88%, 東京都における新規HIV感染者報告数の35.7%に相当する。

遺伝子解析が可能であった検体はすべてHIV-1であり, サブタイプはBが88.6%, それ以外のタイプ(non-B)が11.4%を占めた。毎年サブタイプBが90%以上を占めてきたが, 2013年以降はサブタイプBの割合が減り, CRF01_AE等のnon-Bのタイプが増加している。non-B型の増加の原因は定かではないが, 同性間性的接触における感染がBのみからnon-Bを含むものに変化していると推察される。

2014年にUNAIDS(国連合同エイズ計画)が2030年のエイズ終結に向けて新たな目標(2020年までに「90-90-90」を達成する)を掲げている。「90-90-90」とは, HIV陽性者90%が自らのHIV感染を知り, そのうちの90%がHIV治療を受けられるようになり, さらにそのうちの90%がHIV治療によって体内のウイルス量を低く抑えられるようになれば, 新たな患者数が減少するというものである。日本においては, 保健所検査, 衛生研究所における検査が基盤となりHIV検査が普及してきた経緯があるが(エイズ対策の推進について, 健政計発 第13号, 健医感発 第20号, 昭和62年3月), 他の感染症対策の強化等, 近年の様々な社会事情もあり, 地方衛生研究所の役割も変化してきている。一方で, 後天性免疫不全症候群は感染症法の5類感染症であるため, HIVの疫学解析は衛生研究所の役割とも考えられる。その他, 保健所検査の利便性・検査数の向上, HIV検査プロトコールの改良や遺伝子型の把握等, 様々な状況の変化に対応しつつ, 衛生研究所としての責務を果たしていく必要がある。

 

参考文献
  1. 東京都, エイズニューズレター, No.160, 2016
  2. 近藤真規子ら, IASR 34: 253-254, 2013
  3. 長島真美ら, IASR 34: 254-255, 2013

東京都健康安全研究センター微生物部
 長島真美 北村有里恵 秋場哲哉 貞升健志
東京都福祉保健局健康安全部
 堅多敦子 臼井久美子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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