広島市におけるHIV/エイズ対策と近年の発生動向について
(IASR Vol. 37 p.171-172: 2016年9月号)
1. エイズ相談・検査体制および予防啓発活動等について
広島市では市内8区にある保健センターにおいて, エイズに関する相談と無料・匿名検査体制を設けている。検査は区の人口規模に応じて, 毎週1回もしくは隔週の指定曜日に実施しており, 市中心部の中区の保健センターでは, 毎週1回, 夜間検査も実施している。また, HIV検査普及週間(6月)には広島の初夏の祭り「とうかさん」に併せて無料・匿名検査を実施し, 世界エイズデー(12月)では繁華街での啓発活動に併せて無料・匿名検査を行っている。その他, 高校や大学, 専門学校等の生徒を対象とした衛生教育および大学祭や成人祭等の場を利用した予防啓発活動などに取り組んでいる。
2. HIV検査の流れ
広島市で実施しているHIV検査の流れについて記述する。各区の保健センターでは, 被検者から採血後, 迅速検査キットを用いた検査を行い, 約20分で検査結果を知らせる体制をとっている。この一次スクリーニング検査で陽性反応が認められた場合には,「判定保留」として衛生研究所に検体が搬入され, ウェスタンブロット(WB)法による確認検査を行う。
なお, WB法において判定保留の場合は, 感染初期であることが疑われるため, 必要に応じて核酸増幅検査(NAT)を行っている。この検査方法はHIV検査法技術研修会(「HIV検査相談の充実と利用機会の促進に関する研究」班および「国内で流行するHIVとその薬剤耐性株の動向把握に関する研究」班主催)にて習得した。
3. 近年の発生動向について
広島市における2000~2016年(6月末時点)までの抗体検査受検者数の推移および2000~2016年(7月24日時点)までのHIV感染者*1とエイズ患者*2の報告数の推移を図に示した。抗体検査受検者数については, 2008年をピークとして, 近年は減少傾向にある一方, 検査数が1,000件を超えた2006年以降, HIV感染者とエイズ患者の両者を合わせた年間報告数は年によりばらつきがあるが, 平均17人程度で推移している。報告数に占めるエイズ患者の割合は平均して約32%であり, 母数の差はあるが, 2006年, 2012年, 2015年は50%以上がエイズ患者として報告されており, 報告数に占めるエイズ患者の割合が低い東京都や大阪府などの大都市圏における動向1)とは異なっている。報告数における男女比の割合は男性が90%以上であり, 感染経路は約6割が同性間性交渉によるものであった。年齢では20~40代の性的に活発な年齢層が大部分を占めていた。
2002~2016年(7月24日時点)までのHIV感染者報告数のうち, 約33%が広島市で実施した検査(以下, 本市の検査)で感染が判明している。HIV感染者報告数に占める公的検査での陽性割合は, 国内全体では2004年以降40%を超えた値で推移しており2), この数値と比較すると, 本市での状況はやや低い結果となっている。ただし, 2013~2015年までの直近の過去3年分の実績に限れば, 平均67%が本市の検査で感染が判明しており, HIV検査の受検機会の場として, また, 感染者に対して, 結果判明後の適切な医療を受ける機会を紹介する場として, 本市の無料・匿名検査は重要な役割を担っている。
以上, 広島市における近年の動向としては, 抗体検査受検者数の減少傾向が認められる中で, 約3人に1人がエイズ患者として報告されており, 感染していても検査を受けていない人, すなわち, 潜在的な感染者が相当数存在しているのではないかということが懸念される。HIV感染症対策においては, 「新たなHIV感染者を生み出さないこと」が最も重要である。HIVに感染しても薬物療法を適切に行えば, 本人の発病を抑えられることはもちろん, 性交渉等で相手に感染させる確率を低下させることができる3)。このような科学的根拠に基づく情報も適切に還元しながら, 広島市の現状を考慮した, より一層の検査機会の周知と予防啓発活動を推進していくことが課題と考えられる。
*1:感染症法の規定に基づく後天性免疫不全症候群発生届により無症候性キャリアあるいはその他として報告されたもの
*2:初回報告時にエイズと診断されたもの
参考文献
- 厚生労働省エイズ動向委員会, 平成27年エイズ発生動向年報―概要―
- 近藤真規子ら, IASR 36: 167-168, 2015
- Cohen MS, et al., N Engl J Med 365: 493-505, 2011