麻疹の抗体保有状況―2016年度感染症流行予測調査 (暫定結果)
(IASR Vol. 38 p.54-55: 2017年3月号)
はじめに
感染症流行予測調査における麻疹の感受性調査は, 1978年度に開始後, ほぼ毎年実施されてきた。国民の抗体保有状況を把握することで, 効果的な予防接種施策の立案ならびに麻疹排除の維持に役立てることを目的としており, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況について調査を行っている。
麻疹の予防接種は1966年から任意接種として始まり, 1978年10月に予防接種法に基づく定期接種に導入された。当時の定期接種対象年齢は, 生後12か月以上72か月未満であった。1989年4月~1993年4月の4年間は, 麻疹の定期接種の際に麻しんワクチンあるいは麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンの選択が可能となった。1995年度から定期接種対象年齢が生後12か月以上90か月未満に変更となり, 2006年度から麻しん風しん混合(MR)ワクチンが導入され, 接種対象年齢は第1期(生後12か月以上24か月未満), 第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者)の2回接種となった。2008~2012年度の5年間は, 10代への免疫強化を目的として第3期(中学1年生相当年齢の者), 第4期(高校3年生相当年齢の者)の定期接種が実施された。
2016年度はわが国における麻疹排除認定(2015年3月)1年後の調査となり, 抗体保有状況調査は, 今後の麻疹対策および麻疹排除の維持を継続していく上で重要である。
調査対象
2016年度の麻疹感受性調査は23都道府県で実施され, 麻疹のゼラチン粒子凝集(PA)抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において行われた。2017年2月14日現在, 6,462名の抗体価が報告された。
抗体保有状況
麻疹に対する抗体保有状況について図に示した。麻疹のPA抗体価1:16以上の抗体保有率は, 昨年度の調査に続き2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示した。また, 麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上についてみると, 0~1歳および9~15歳を除くすべての年齢/年齢群で85%以上の抗体保有率であった。
まとめ
2016年度の調査において, 麻疹の抗体保有率は2015年度調査に続き2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示し, 高い抗体保有率が維持されていた。一方, すべての年齢層にPA抗体価1:128未満の低い抗体価の者が存在することから, 麻疹の排除状態を維持するためには, 引き続き麻疹患者が1人発生した時の迅速な感染拡大予防策に加えて, 渡航前の麻しん含有ワクチンの接種ならびに高い予防接種率・抗体保有率の維持が重要である。