国立感染症研究所

IASR-logo

2010~2017年の広島市における手足口病患者等からのエンテロウイルス(EV)検出状況―重症化例も含めて

(IASR Vol. 38 p.195-196: 2017年10月号)

1.手足口病の流行状況

広島市では2010年に定点当たり報告数が警報基準値である5.0人/週に迫る規模の比較的大きな流行があった。以降は, 2011年, 2013年, 2015年, 2017年と2年ごとに警報値を超える大規模な流行が認められている1)

2.手足口病患者からのウイルス検出状況

手足口病患者から検出されたウイルスを表1に示した。2010年はエンテロウイルスA71型(EV-A71), 2011年, 2013年, 2015年, 2017年はコクサッキーウイルスA6型(CV-A6)の検出数が最も多く, これらのウイルスが各年の手足口病の主因であったと考えられる。しかし, いずれの流行年においても, 主因となったウイルス以外に, 2010年はCV-A6, 2011年はコクサッキーウイルスA16型(CV-A16), 2013年はEV-A71, 2015年はCV-A16, 2017年はEV-A71が少数検出された。医療機関から同一患者の手足口病反復罹患例についての情報が寄せられたこともあり, 手足口病の原因となるウイルスが複数検出されていたこととの関連性が疑われた。

3.手足口病以外の疾患患者からのEV検出状況

手足口病の主要起因ウイルスであるEV-A71, CV-A6, CV-A16について, 手足口病以外の疾患患者からの検出状況を表2に示した。脳炎・脳症(以下, 脳炎とする), 無菌性髄膜炎, 熱性疾患, 呼吸器・消化器系の疾患, 発疹症など, 軽症例から重症例を含めて, 手足口病以外にも幅広く様々な診断名の患者からウイルスが検出された。これらのことから, 手足口病流行時には, 手足口病以外の疾患からも当該ウイルスが検出されることを念頭において, 病原体検索を行うことは重要である。

中枢神経系合併症を引き起こす頻度が高いとされるEV-A712)は, 2010年の流行時, 脳炎や無菌性髄膜炎患者計4名から検出された。CV-A6の台頭以降, 本市内でEV-A71の目立った流行は確認されていないが, 今後も引き続き動向を監視していく必要がある。一方, CV-A6が手足口病の病原体として猛威をふるった2011年は脳炎患者3名からCV-A6が検出され, 2013年にも脳炎患者1名からCV-A6が検出された。2015年以降, 脳炎患者からCV-A6は検出されていないが, EV-A71と同じく重篤な症状を引き起こす可能性があるため, 引き続き注意が必要である。

4.臨床症状の比較

検出数の多いEV-A71, CV-A6について, これらのウイルスが検出された患者(手足口病およびそれ以外の疾患を含む)の臨床症状のうち, 発熱, 発疹, 水疱の分布について比較した。CV-A6が検出された患者(n=61)はEV-A71が検出された患者(n=29)と比べて, 39.0℃以上の高熱を発症する割合が高く(CV-A6:41%, EV-A71:10%), 水疱が占める割合は同様であったが(CV-A6:26%, EV-A71:24%), 発疹性の病変(丘疹, 紅斑等を含む)を呈する割合が高かった(CV-A6:61%, EV-A71:24%)。既報告3)の通り, 手掌や足底の水疱を主徴とする典型的な手足口病と比べて, CV-A6による手足口病の病像が複雑であることが示唆された。

5.まとめ

広島市内では, ほぼ2年ごとに手足口病の流行が認められているが, 警報値を超える大流行があっても, 実際には手足口病の診断名での病原体の検査依頼は少なく, 十分な病原体検索ができなかった年もある。流行時期に適度な検体が収集され, 適切な検査体制のもとに感染症発生動向調査を進め, 解析結果を情報還元していくことが重要と考える。

 

参考文献

 

広島市衛生研究所生物科学部
 藤井慶樹 則常浩太 兼重泰弘 山本美和子 松室信宏

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version