国立感染症研究所

IASR-logo

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 38 p.218-220: 2017年11月号)

鳥インフルエンザウイルス

A/H5亜型ウイルス:高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染事例は2003年以降, 中東, 西アフリカ, ヨーロッパ, アジアの世界の16カ国で860例が確認されており, そのうち455例が死亡例である(2017年9月27日現在)1)。2016年1月~2017年9月の間のヒト感染事例は14例(2016年は10例, 2017年は4例)あり, うち5例(2016年は3例, 2017年は2例)は死亡例である。これらヒト感染事例はエジプトおよびインドネシアでのみ確認され, その他の国での報告はない。2016年10月以降, 家禽ではエジプト, トーゴ, ベトナム, ラオス, インドネシア, カンボジア, ミャンマー, バングラデシュ, マレーシア, インド, ネパール, イラン, ブータンにおいて流行が確認されている2)

近年は, NAがN1以外のA/H5亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが世界各地の家禽や野鳥の間で蔓延している。2016年10月以降, アメリカではA(H5N2)ウイルスが野鳥の間で流行しており, 多くのヨーロッパの国々ではA(H5N8)ウイルスが, 一部の国ではA(H5N5)ウイルスが野鳥もしくは家禽の間で流行している。また, 日本, 韓国, 中国, 台湾, 香港, ベトナムではA(H5N6)ウイルスが, 多くのアフリカの国々と韓国, 中国, インド, イラン, ネパール, イスラエル, クウェート, カザフスタンではA(H5N8)ウイルスが野鳥もしくは家禽の間で流行している2)。これらNAがN1以外のA/H5亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスのうち, ヒトへの感染事例が確認されているのはA(H5N6)ウイルスのみで, 2014年以降は14例のヒト感染例が確認されており, そのうち10例が死亡例で, 全例が中国からの報告である。これら14例のヒト感染例のうち, 2016年10月以降の報告例は2016年11月に発症した2例である3)(2017年9月27日現在)。HA遺伝子の分子系統解析によりA(H5N6)ウイルスはclade2.3.4.4に分類されるが, NA遺伝子はA(H6N6)ウイルス, その他の内部遺伝子はA(H5N1)ウイルスのclade2.3.2.1に由来する。しかし, 2015年以降にヒト感染事例を引き起こしたウイルスの中には, 内部遺伝子がA(H9N2)ウイルスに由来するものも見つかっており, A(H5N6)ウイルスは土着の複数の亜型の鳥インフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が頻繁に起きていたと考えられている4,5)。現時点でヒトに感染しやすくなるような遺伝子変異は確認されていない1)

A/H7亜型ウイルス:A/H7亜型の高病原性鳥インフルエンザは2016年10月以降, A(H7N1)ウイルスがアルジェリアの野鳥の間で, A(H7N9)ウイルス〔後述する中国で流行しているA(H7N9)とは別の系統〕 がアメリカの家禽の間で, A(H7N3)ウイルスがメキシコの家禽の間で流行している2)。A/H7亜型の低病原性鳥インフルエンザは, リビア, フランス, カンボジア, アメリカ, チリなど世界各地で散発的に発生している2)。これらA/H7亜型の鳥インフルエンザウイルスによるヒト感染事例は, これまでのところ報告はない。

また, 2013年3月に世界で初めて低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例が中国で報告され, 2013年8月まで(第1波)の感染者は135人, 死亡者は45人であった1,6)。続く2013年10月からの第2波では感染者が318人, 死亡者が130人と急増したが, 以降は年間の感染者数と死亡者数は年々減少し, 2014年10月からの第3波では, 感染者が226人, 死亡者が100人, 2015年10月からの第4波では, 感染者が119人, 死亡者が45人となり, 2016年9月までの感染者総数は798人, 死亡者総数は320人となった1,6)。このまま患者数が減少するものと思われたが, 2016年10月以降の第5波では, 感染者数, 死亡者数がともに急増し, 第4波までの感染者総数と死亡者総数に近い感染者764人, 死亡者288人となり, 2013年以降2017年9月13日現在までの感染者総数は1,562人, 死亡者総数は608人となっている1,3)。現在, 低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスは抗原性の異なる2つの系統〔Yangtze River Delta Lineage(長江デルタ系統), Pearl River Delta Lineage(珠江デルタ系統)〕に分類されている7)

さらに第5波では, 家禽に対して高い病原性を示すウイルスに変異した高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例が, 2017年2月4日に世界で初めて台湾において報告された。この事例では, 1月23日にインフルエンザ様症状を発症した中国広東省在住の患者が台湾に移動した後に重症化し, 2月4日に高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに感染していたことが判明した3)。中国国内でも2016年12月29日に発症した患者より高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスを検出した例が2017年2月18日に報告されている3)。2016年11月~2017年6月までの高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる28例のヒト感染例および21例の環境から採取したサンプルから分離したウイルスのシークエンス解析により, これらは長江デルタ系統を起源とし, 広東省内で拡がった後にHA開列部位への塩基性アミノ酸配列の挿入および, 珠江デルタ系統のA(H7N9)ウイルスと中国国内で土着しているA(H9N2)ウイルスとの間のリアソータントが起こり, その後挿入された塩基性アミノ酸配列の一部が変異して出現した高病原性ウイルスであることが判明している7)。この28例の高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例と従来のA(H7N9)低病原性ウイルスのヒト感染例を比べても, 明らかな臨床像の違いは見出されておらず, 高病原性ウイルスであってもヒトに対する病原性は変化していないと考えられている7,8)。また, ヒトからヒトへの持続的感染を起こしやすい性質は獲得されておらず, 家族間あるいは病院での感染患者と接触した医療従事者等の濃厚接触者に限られたヒトからヒトへの感染を除けば, 生鳥市場などでウイルスに感染した生鳥やウイルスに汚染された環境で曝露したこととの関連性が強く, このウイルスのヒトへの伝播性は変化していないと考えられる1)。第5波でヒト感染例数が急増した原因の一つに, 生鳥市場や生鳥に関連する環境からのサンプル中のA(H7N9)ウイルス陽性率が, 2016年の12月から急激に増加したことがあげられており9), 環境中のウイルス検出数が相対的に多い地域では, 感染患者数も多いことが判明している8,9)。依然, 中国国内では環境中にA(H7N9)ウイルスが蔓延している状況が続いており, 特に低病原性ウイルスは家禽に対してほとんど病原性を示さないため, 感染した家禽をモニターすることが難しく, 感染拡大のコントロールは極めて困難な状況である。また先述したように, 2016年には高病原性ウイルスが出現し流行地域も拡がりつつあり7), これらウイルスのヒト感染の危険性は今後もなくならないと考えられる。

A/H9亜型ウイルス:2013年以降, 鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例は中国およびエジプトで散発的に報告されており, 2016年12月以降には新たに4例が確認されているが1,3), いずれも症状は軽症であり死亡例の報告はない(2017年9月18日現在)。中国国内ではA(H9N2)ウイルスが家禽の中で土着しており, このウイルスに感染した家禽との接触により感染したと考えられている。

日本国内では鳥インフルエンザウイルスのヒト感染例はまだ報告されていないが, 世界各地の家禽や野鳥に鳥インフルエンザが蔓延し, ヒトへの感染例も多数報告されている状況であり, ヒトからヒトへ効率良く感染する性質を変異により獲得して世界各国で大流行する可能性や, 今後日本でも野鳥を介して家禽に鳥インフルエンザが拡がる可能性もあるため, 鳥インフルエンザの流行状況については引き続き注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため, ブタが交雑宿主となって遺伝子再集合により新たなウイルスを排出する可能性がある。現在世界的には, ブタの間で様々な遺伝的背景を持つA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環しており, これまでにも散発的にブタからヒトへの感染例が確認されてきた9)。ブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために “variant(v)viruses” と総称される。

アメリカの状況:1990年代後半から, それまでブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスと, 鳥とヒト由来のインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こり, triple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環するようになった10)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, このtriple reassortantウイルスとEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスで11), 2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスがブタの間でも循環して, さらなる遺伝子再集合が起こっている12)。また2010/11シーズンのヒトの季節性A(H3N2)ウイルスと, ブタインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こっており13), 北米大陸のブタの間で循環するインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している。近年は主に農業フェアなどにおけるブタとの接触をきっかけとした, ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例が多数報告されている。2016年の農業フェアにおいて, ブタとの接触により感染したヒトから分離された18株のA(H3N2)vウイルスのうち, 16株が2010/11シーズンのヒトの季節性A(H3N2)ウイルス由来のHA遺伝子を持っていることが明らかとなっている14)。2005年12月以降2017年9月現在までに422例のA(H3N2)vウイルス, 20例のA(H1N1)vウイルス, 11例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染例が報告されているが, ヒトからヒトへの感染はまだ報告されていない15)

中国の状況:近年Eurasian avian-like系統のA(H1N1)ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例が死亡例1例を含めて数例報告されており16,17), ウイルスの受容体結合部位にヒトへ感染しやすい変異を持ち, フェレットを用いた動物実験で飛沫感染することが確認されたウイルスも見つかっている18)。これらブタインフルエンザウイルスのヒト感染例は地域的に離れた場所で散発的に起きており, ヒトからヒトへの感染は確認されておらず, 2015年7月を最後に新たなヒト感染例の報告はない。

日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環しはじめ19), その後ヒトのA(H3N2)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したA(H1N2)ウイルスが循環していたが20), 2009年以降は, A(H1N1)pdm09ウイルスとの間で遺伝子再集合が起きていることが明らかとなっている21,22)。日本ではこれまでブタインフルエンザウイルスのヒト感染例は報告されていないが, ブタインフルエンザウイルスの発生状況を引き続き注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. WHO, Monthly Risk Assessment Summary, Influenza at the Human-Animal Interface
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/HAI_Risk_Assessment/en/
  2. OIE, World Animal Health Information Database (WAHIS) Interface
    http://www.oie.int/wahis_2/public/wahid.php/Wahidhome/Home
  3. WHO, Situation updates-Avian influenza
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/avian_influenza/archive/en/
  4. Pan M, et al., J Infect 72(1): 52-59, 2016
  5. Shen YY, et al., Emerg Infect Dis 22(8): 1507-1509, 2016
  6. Zhou L, et al., Emerg Infect Dis 23(8): 1355-1359, 2017
  7. Yang L, et al., J Virol, pii: JVI.01277-17. doi, 2017
  8. FAO, H7N9 situation update
    http://www.fao.org/ag/againfo/programmes/en/empres/H7N9/Situation_update.html
  9. Lei Zhou, et al., WPSAR, doi: 10.5365/wpsar.2017. 8.1.001, 2017
  10. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
  11. Garten RJ, et al., Science 325(5937): 197-201, 2009
  12. Nelson MI, et al., J Infect Dis 213(2): 173-182, 2016
  13. Rajão DS, et al., J Virol 89(22): 11213-11222, 2015
  14. Bowman AS, et al., Emerg Infect Dis 23(9): 1551-1555, 2017
  15. CDC, http://www.cdc.gov/flu/swineflu/variant-cases-us.htm
  16. WHO, http://www.who.int/influenza/vaccines/virus/201602_zoonotic_vaccinevirusupdate.pdf?ua=1
  17. Qi X, et al., Arch Virol 158(1): 39-53, 2013
  18. Yang H, et al., Proc Natl Acad Sci USA 113(2): 392-397, 2016
  19. Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
  20. Nerome K, et al., J Gen Virol 64(Pt 12): 2611-2620, 1983
  21. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19(12): 1972-1974, 2013
  22. Kanehara K, et al., Microbiol Immunol 58(6): 327-341, 2014

 

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター
 影山 努 中内美名 高山郁代 齊藤慎二 小田切孝人

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version