国立感染症研究所

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輸入感染症としての結核

(IASR Vol. 38 p234-235: 2017年12月号)

近年の動向

わが国の2016年新届出結核患者17,625人のうち, 出生国が判明した者は16,842人で, そのうちの7.9%(1,338 人)が外国生まれであった1)。新届出結核患者中における外国生まれ患者の割合は, 近年増加傾向にある(図1)。他の工業先進諸国と比較すると, その割合は, 全体としてはまだ小さいが(2), 年齢階層別に見てみると15~24歳の新届出結核患者における外国生まれの割合は過半数を超えており, 2016年で58.6%(471/ 804)に達している1)。すべての年齢階層においてその割合は増加傾向にあり, 外国生まれ結核患者への対応が, わが国の結核対策上, 最優先課題の一つであることを示唆している。

図2に外国生まれ結核患者数と, 分母に在留外国人数を用いて推計した人口10万対の率の年次推移とを示した。患者数と並行して人口10万対の率が増加傾向にある要因としては, 外国生まれ結核患者の特徴に変化が生じていることが考えられる。外国生まれ患者の出生国を見てみると, 結核登録者情報システムへの患者の国籍の入力が開始された2007年では, 外国人患者827人中, 中国が27.2%(225人)と最も大きい割合を占めていた。しかし, その後中国本国における罹患率は, 人口10万対86(2007年)から67(2015年)まで下がり3), さらにわが国における外国生まれ結核患者に占める割合も減少した(2016年で21.7%, 272人)。一方で, 著しい増加がみられるのがベトナムおよびネパール生まれの患者である。この両国が占める割合は2007年では5.7%(47人)に過ぎなかったが, 2016年には27.6%(347人)にまで増加しており, この背景には2012年頃からのこの両国からの技能実習生および留学生の急増があると考えられる4)。技能実習生や留学生の多くは若者であり, また入国後に社会経済的な困難に陥りやすいことが指摘されている5-7)。外国生まれ患者中, 入国後より早期での発病患者割合が増加傾向にあることも, これにより説明される(入国時期から登録までの期間が2年以内の者の割合は2012年で38.8%, 2016年で51.3%)。2015年におけるベトナムの推定罹患率は137, ネパールは156であり3), 結核高負担国からの入国者の増加が, わが国の新届出結核患者における外国出生者の率に影響を及ぼしていることがうかがわれる。

外国出生者における結核対策

外国出生者における結核対策の一つとして, 入国前結核健診の有用性に関する検討も始められている8)。一方で, 入国後の結核感染拡大を防止するためには, 実地疫学調査に加えて分子疫学手法などを用いた外国生まれ結核患者における感染経路の解明が望まれる。外国出生者と日本生まれの結核患者との社会疫学的な接触が限定的であれば, 外国出生者集団をターゲットとした介入が優先されるであろう。

外国生まれ結核患者の治療完遂に向けた必要なケアを提供することも重要である。外国生まれ結核患者における治療成績では, 2006~2015年登録の15~54歳の肺結核患者の12カ月後の治療中断率は, 日本生まれと比較してほぼ差がない (外国生まれ7.7%, 日本生まれ8.3%) が, 転出(多くの場合, 母国への帰国)が高く(外国生まれ14.4%, 日本生まれ4.5%)1), 国を越えた患者照会制度の整備も課題の一つである9)

不明者を除く。結核登録者情報システム上の区分では, 2012年以前は「日本人」「外国人」, 2012年以降は「日本生まれ」「外国生まれ」 である。

 

参考文献
  1. Tuberculosis Surveillance Center, Tuberculosis in Japan-annual report 2017, Department of Epidemi-ology and Clinical Research, the Research Institute of Tuberculosis: Tokyo, Japan
    http://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/en/statistics-of-tb/
  2. Odone A, et al., European Journal of Public Health 25: 506-512, 2014
  3. WHO, Global Health Observatory country views
    http://apps.who.int/gho/data/node.country.country-CHN?lang=en
  4. 在留外国人統計, 法務省
    http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
  5. 色部 祐ら, 外国人技能実習生の労災問題について, 第二回過労死防止学会, 2016年, 大阪
  6. 新海和弥ら, 日本農村医学会雑誌 65: 1041-1042, 2017
  7. 鈴木眞理, CAMPUS HEALTH 51: 131-133, 2014
  8. Kawatsu L, et al., Int J Tuberc and Lung Dis
  9. 大角晃弘, 保健師・看護師の結核展望 109: 33-39, 2017
 
結核予防会結核研究所臨床疫学部 河津里沙

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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