国立感染症研究所

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風しん対策に係る省令等の改正

(IASR Vol. 39 p31-32: 2018年3月号)

風しんは, 麻しんとともに, 現在, 世界的な排除を目指して対策が進められている感染症の一つであり1,2), 世界的に風しんの報告数が減少する中で, 日本でも, 風しんの報告数は概ね減少を続けている3)。即ち, 風しんの報告数は, 小児科定点把握疾患であった1999(平成11)年から2007(平成19)年にかけて定点医療機関あたり1.03件から0.15件と減少し, 全数把握疾患となった2008(平成20)年以降も概ね年間100~400件の間を推移しており, 特に2015(平成27)年以降は年間200件以下となっている。このように, 現在, 風しんは麻しんと同程度の発生状況となっているが, 風しんに関しては, 2012(平成24)年には2,386件, 2013(平成25)年には14,344件と, 時に大規模な発生が見られることからも, 依然として重点的な対策が必要な感染症である。

このような中, 2018(平成30)年1月1日付で, 風しん対策のさらなる推進に向けて, 省令等の改正が施行された4,5))。第21回〔2017(平成29)年6月19日〕, 第22回(平成29年9月15日)および第23回(平成29年12月15日)の感染症部会, 第19回(平成29年9月14日)および第20回(平成29年12月8日)の予防接種基本方針部会, 第1回麻しん・風しんに関する小委員会(平成29年10月19日)での審議の結果を踏まえて, 省令である感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則(平成十年厚生省令第九十九号)(以下,「省令」という。)の改正(平成29年12月15日)および感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)および予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)に基づき作成される「風しんに関する特定感染症予防指針」(以下,「予防指針」という。)の改正(平成29年12月21日)が施行されたことで, 麻しんと同様に, さらに踏み込んだ対策が, 風しんにおいても行われることとなった。

麻しんに関しては, 平成27年3月27日に世界保健機関西太平洋事務局より日本において排除状態にあることが認定されている6)が, 風しんについても, 日本での排除状態を達成することを目指した対策が進められてきた。予防指針では風しんの排除の定義を「適切なサーベイランス制度の下, 土着株による感染が一年以上確認されないこと」5)としており, 同一ウイルス株による持続的な感染伝播(土着性の伝播)がないことを確認する必要がある。その確認のためには, 検出した風しんウイルスの遺伝子配列の解析を行うとともに, 1例ごとに感染経路の把握等を行い, その動向を丹念に調査することで, 土着性の感染伝播が途絶されていることを確認する必要がある。改正前の予防指針では, 遺伝子配列の解析に関して, 都道府県等は「可能な限りウイルス遺伝子検査等を実施する」としていた5)が, 遺伝子配列が決定された症例は10%台に過ぎない状況にあった3)。このことを踏まえて, 改正された予防指針では「原則として全例にウイルス遺伝子検査等を実施する」こととした。なお, 改正後の予防指針においても「原則として」とすることで, 風しんの大規模な集団発生が生じた場合に, 家族内での発生など感染経路が明確な症例での遺伝子検査の省略を可能にするなど, 自治体が優先順位をつけた対応を行えるようにしている。

また, 改正前の予防指針では,「地域で風しんの流行がない状態において, 風しん患者が同一施設で集団発生した場合等」に感染経路の把握等の調査を迅速に実施することとしていた5)が, 麻しんとは異なり, 風しんでは必ずしも積極的疫学調査による感染経路の同定が行われていないという課題があった。このことを踏まえて, 今回の予防指針の改正では「風しんの患者が1例でも発生した場合」に感染経路の把握等の調査を迅速に実施することとした。これにより, 風しんにおいても, 早期の封じ込めが行われることとなり, 土着株の同定や排除の確認とともに, 風しんの排除を確実に行うための体制が整うこととなった。

上記の2つの予防指針上での改正が機能するためには, 省令上の改正も不可欠であった。改正前の省令では, 風しんについて「診断後7日以内に」届出を行うことを医師に求めていたが, 改正後の省令では, 「診断後直ちに」届出を行うことを求めることとした4)。感染経路を把握し, また, ウイルス遺伝子検出に適した時点での検体の提供を医師に求めるためには, 風しんの発症後, 時間を置かずに保健所による対応が開始される必要があるが, 改正前の省令では, 医師の診断後, 保健所が風しんの発生を認知するまでに, 最大で7日間程度を要していた。このような時間差が存在することは, 感染経路の解明や接触者への対応を通した封じ込めを困難にするとともに, 遺伝子配列の同定に必要な検体の提供についても困難にする可能性があった。年間の風しんの報告数が相当数に上る状況下では, 風しんについて診断後直ちに届出を行い, 全ての症例について積極的疫学調査を行うことは困難であったが, 風しんの報告数が積極的疫学調査の実施が可能と考えられる数まで減少したことで, 風しんの排除に向けて不可欠な体制を整える状況になったことが, この改正の背景には存在する。

なお, 今回の省令の改正に当たり, 届出票についても改正が行われた7)。届出票の改正では当該患者の氏名および住所等の記載を求めることになった他に, 特に, 省令第四条十号の「その他感染症のまん延の防止及び当該者の医療のために必要と認める事項」として, 「妊娠の有無」についての記入欄が加えられた。これは, 仮に風しんの罹患者が妊婦であった場合にはその児が先天性風しん症候群に罹患する可能性があることから, 届出のあった妊婦に対する心理的なケアや妊婦及び児に対する適切な医療の提供について, 保健所による早期からの支援を可能にするとともに, 医療の提供を通して先天性風しん症候群の罹患児からの感染の防止のための対策を取ることが出産前から可能となるようにしたものである。

今回の改正が効果を生むためには, 医師への周知も重要となる。風しんは, 現在, 年間200件以下しか報告されていない稀な感染症になっており, 特に若い医師にとっては診療および公衆衛生対策の経験を有すること自体が少なくなってきていると考えられる。今回の改正によって, 医師に対して, 診断後直ちに届出を行うことを求めるとともに, 検体の提供などの公衆衛生対策上の協力についても求めることになることから, 厚生労働省では医師に対する今回の改正の周知を目的とした啓発資料を平成29年12月28日付で公表した8)

今回の省令等の改正を通して, 風しんについて早期の封じ込めが徹底されることとなるが, 予防指針は, 5年に一度の本改正の年にあたる平成30年度中を目途に, 現状の風しん対策を総覧し, 再度改正が行われることとなっており, 今後, 更なる風しん対策の強化に向けた検討が進められる予定である。

 

引用文献
  1. World Health Organization, Global Vaccine Action Plan 2011-2020, Geneva: WHO Press, 2012
  2. 森 嘉生ら, IASR 37: 76-77, 2016
  3. IASR 37: 59-61, 2016
  4. 結核感染症課長, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行等について(施行通知), 健感発1215第1号, 2017
  5. 結核感染症課長, 風しんに関する特定感染症予防指針の一部改正について(通知), 健感発1221第1号, 2017
  6. 国内麻しん排除認定委員会, IASR 36: 65-67, 2015
  7. 結核感染症課長, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14 条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正), 健感発1215第2号, 2017
  8. 結核感染症課, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則及び風しんに関する特定感染症予防指針の改正に係る啓発について(協力依頼), 2017
厚生労働省健康局結核感染症課国際感染症対策室長 野田博之

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