国立感染症研究所

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風疹の検査法

(IASR Vol. 39 p35-36: 2018年3月号)

世界保健機関(WHO)は2020年までにWHOの6地域のうち5つ以上の地域において麻疹ならびに風疹の排除達成を目標にしている1)。風疹排除の定義は「適切なサーベイランス制度の下, ある地域において, 風疹ウイルスの土着性伝播が12カ月以上遮断され, 土着性伝播に伴う先天性風疹症候群が認められないこと」としている2)。「適切なサーベイランス制度」を示す指標の中には, 「風疹疑い例の80%以上から適当な検体が採取され, 熟達した実験室で検査されること」ならびに「実験室検査で確認された一連の流行の80%以上で, ウイルス検査のための検体が採取され, 認定された実験室で検査されること」と実験室検査に関連した事項が含まれる2)。2013年の風疹の全国規模の流行の後, 風疹患者報告数は大幅に減少した。そのため, 風疹排除認定のための疫学調査の実施が可能な件数となったと考えられたことから, 「風しんに関する特定感染症予防指針」が改訂され, 2018(平成30)年1月1日より適用された3)。本改訂では, 前述の排除認定の基準に合致したサーベイランス体制を構築するため, 血清IgM抗体検査等の血清抗体価の測定の実施と, 地方衛生研究所(地衛研)でのウイルス遺伝子検査等の実施が原則として全例に求められるようになった。これにより実験室検査の重要性がいっそう増したことから, 今回, 風疹の実験室検査法について改めて解説を行いたい。

風疹ウイルス特異的IgM検出法

発症後の一時点の検体のみで診断できる特異的IgMの検出は風疹の診断に有用であり, WHOはこれを実験室検査の標準法として推奨している4)。初感染の場合, 発疹出現後3日目までは特異的IgMが検出限界に満たず偽陰性となることがあるが, 4~28日後においてはほぼすべての例で検出されるようになる。一方で, 時に持続的に特異的IgMが検出される例があることに注意が必要である5)。また, パルボウイルスB19感染症などの他の感染症に伴い, 偽陽性が起きることが知られている4,5)。これらの場合はIgM抗体価が低値であることがほとんどであることから, 抗体価も考慮に入れて総合的に診断することが重要である。

風疹ウイルス遺伝子検出法

ウイルス遺伝子検出法には, 咽頭ぬぐい液, 血液, 尿などが検体として用いられる4)。いずれの検体も発疹出現時期に近いほど検出率が高く, 特に咽頭ぬぐい液や尿では7日目程度まで検出できる。一方, 血液中のウイルスは抗体の出現とともに急速に検出率が低くなる。特異的IgM検出で偽陰性になりやすい発疹出現後0~3日目が, ウイルス遺伝子検出に適した時期であるため, 両検査を実施することでより正確な検査診断が可能となる。病原体検出マニュアル<風疹>では, ウイルス遺伝子検出法としてリアルタイムRT-PCR法とコンベンショナルRT-nested PCR法を記載している()。RT-nested PCR法は検出感度がリアルタイムRT-PCR法よりも若干高いものの, 操作が多く, 結果を得られるまでにより時間を必要とする。さらに実験室コンタミネーションの危険性が非常に高いため, 適切な環境で十分に注意して実施する必要がある。一方, リアルタイムRT-PCR法は, RT-nested PCR法と比較して実験室コンタミネーションの危険性も低く, 検出に適した時期の検体を使用することや複数種の検体を使用することで, RT-nested PCR法と同様に十分に信頼のおける結果を得ることができる6)。このようなことから, 現在, 私どもは診断目的にはリアルタイムRT-PCR法を使用することを推奨している。

風疹ウイルス遺伝子型決定

風疹ウイルス遺伝子が検出された場合には, 可能な限りウイルス遺伝子型解析を(地衛研もしくは国立感染症研究所で)実施することが求められる3)。ウイルス遺伝子型解析は, E1遺伝子に存在する遺伝子型決定領域をRT-PCRで増幅し, ヌクレオチド配列を決定して解析することで行われる()。ただし, 本領域は, RT-PCRによる増幅がやや難しく, リアルタイムRT-PCR法で検出された場合でも本法で増幅できない場合がある。そのような場合にはウイルス分離を行い, 十分な濃度のウイルスを材料に解析を行うことも可能である。ウイルス遺伝子型ならびに配列情報は, 排除達成を示す重要な証拠となることが期待される。加えて, 風疹の排除達成に近づくほど実際の症例が減少し, 相対的に特異的IgMの偽陽性や持続陽性などの解釈に苦慮する症例が目立つようになることが予想されるので, 適切な時期のウイルス検出検査の重要性が増すものと考えられる。

 

参考文献
  1. WHO, Global Vaccine Action Plan, 2011-2020, 2012
  2. WHO, WER 88: 89-100, 2013
  3. 厚生労働省, 風しんに関する特定感染症予防指針, 2017年12月21日一部改訂
  4. WHO, Manual for the laboratory diagnosis of measles and rubella virus infection(second edition)
  5. Best JM and Enders G, In Rubella Viruses, pp39-77, 2007
  6. Okamoto K, et al., J Clin Virol 80: 98-101, 2016

 

国立感染症研究所ウイルス第三部
 森 嘉生 大槻紀之 岡本貴世子 坂田真史 竹田 誠  

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