血清診断による腸管出血性大腸菌感染によるHUS症例の確定診断例
(IASR Vol. 39 p83-84: 2018年5月号)
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染による重症例である溶血性尿毒症症候群(HUS)は国内で年間100例前後報告されている(本号12ページ参照)。このうち, EHECが分離されない事例は2006~2017年までの平均でおよそ34%であり, これらの症例では患者便中の志賀毒素の検出または患者血清中の抗大腸菌(O157, O26, O111, O121, O145, O165, O103等の重症例に多いO群) に対する凝集抗体陽性でEHECによるHUS症例の確定診断とされている。
国立感染症研究所細菌第一部で2009~2017年までに実施したHUS患者の血清診断は全85例であり, このうち大腸菌凝集抗体が陽性となった事例は69例であった(陽性率81.2%)。最も陽性数の多かったO群はO157で54.1%を占めたが, 次いで陽性数の多いO群はO165であった(10.8%)。細菌第一部の集計では, 血清群O165はEHECの総分離数としては9番目, 重症例(血便, HUS, 脳症, 死亡例を含む)由来のEHECとしては7番目に多い分離数である。さらに, EHECの選択分離培地として頻用される培地の多くで生育しない, あるいは生育が悪いことが報告されている1)ことから, 注意を要する。当初はEHEC不分離とされたHUS症例で, 細菌第一部で実施した血清診断でO165抗体陽性となり, その後患者便からO165が再分離された事例がこれまでに少なくとも3例あることから, O165を含むEHECの選択分離培地で生育しないEHECが存在することを念頭に重症例におけるEHECの分離を実施して頂くよう, 関係各位にお知らせしたい。
HUS症例における血清診断等のご依頼は随時受け付けております。国立感染症研究所細菌第一部までご連絡下さい(メールアドレス:ehecアットマークniid.go.jp)。
参考文献
- 日本食品微生物学会雑誌 Jpn J Food Microbiol 32(4): 192-198, 2015