国立感染症研究所

IASR-logo

成人侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)症例の臨床像の特徴と原因菌の血清型分布の解析

(IASR Vol. 39 p115-1117: 2018年7月号)

背 景

肺炎球菌は主要な呼吸器病原性菌であり, 小児, 成人においてしばしば侵襲性肺炎球菌感染症を起こす。菌表層の莢膜ポリサッカライド(CPS)は最も重要な病原性因子であり, その血清型を決定する抗原でもある。現行の肺炎球菌ワクチンはワクチン抗原であるCPSにより血中に誘導される血清型特異的抗体がオプソニン活性を介して感染防御効果を発揮すると考えられている。現在, 小児では13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13), 65歳以上の成人では23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が定期接種ワクチンとなっている。

一方, 本疾患は2013年4月から感染症発生動向調査において5類全数把握疾患となった。IPDにおいては原因菌の血清型決定が肺炎球菌ワクチンの効果に関連して重要である。そこで, 厚生労働省研究班(大石班) では2013年度から国内10道県において, 医療機関と地方自治体との連携により, 成人IPDサーベイランスを実施している。本稿では, これまでに得られたIPD症例の臨床像の特徴と血清型分布の動向について示す。

方 法

2013年4月~2018年3月の期間にIPDを発症し本研究班に登録された15歳以上の患者のうち, 無菌的検体から肺炎球菌が分離され, 細菌学的解析により血清型が判明した1,297症例を解析対象とした(1症例, 1菌株)。すべての分離株についてはmultilocous sequence typing(MLST)解析を行った1)。また, 本稿では2017年3月までに登録された897例の臨床情報を解析した。

結果と考察

成人IPD897例の臨床像の解析において, 年齢中央値は71歳, 男性が61%, 65歳以上が69%を占めた()。患者の75%に併存症を認め, 免疫不全状態は31%に認めた。IPDの病型としては, 菌血症を伴う肺炎(肺炎) が60%, 髄膜炎は15%, 巣症状のない菌血症が16%に認められた。その他(菌血症を伴う関節炎, 蜂窩織炎, 脊椎炎, 膿胸, 心内膜炎など)は8%に認められた。IPD症例の5年以内のPPSV23の接種歴は11%であった。報告時点の死亡例は19%であった。

一方, 2013年4月~2018年3月までのIPDの原因菌の血清型分布をに示した。2013年度時点で, 7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)血清型は血清型14のみが5%を超えていたが, それ以降の分離頻度は4%未満であった。この所見は2010年から開始された小児PCV7導入の間接効果を示唆している2)。小児の定期接種は2013年11月にPCV7からPCV13に切り替えられた。血清型3および19AはPCV13に含まれているが, 2017年度時点の成人IPDにおけるこれらの血清型の減少は明らかではない。2017年度の成人IPDの原因菌のPCV7血清型, PCV13血清型, PPSV23血清型の割合は7.3%, 30.9%, 64.1%であった。一方, 2015年に, PCV13には含まれないが, PPSV23に含まれる血清型12FによるIPDが新潟県, 山形県, 福岡県において報告された。また, 2016~2017年には前述の3県以外の県でも報告され, 血清型12Fは最も高頻度の原因血清型となった。12F血清型のsequence type(ST)の解析では, 3つの近縁のSTにより構成されることが判明している。それぞれのSTのアリル番号はST4846(12, 32, 111, 1, 13, 48, 6), ST1306(12, 32, 111, 1, 13, 48, 833), ST6945(12, 32, 111, 15, 13, 429, 6)であった。国内では2006~2007年にも一過性に成人12F IPDの流行を認めたことが報告されている3)。この流行時の12F株はST220(10, 20, 14, 1, 9, 1, 29)とされており4), eBURST解析からは今回の12F流行株との関連はないと考えられた。

海外では小児のPCV7/13の導入後の血清型置換(serotype replacement)によって, 12F IPDの増加が報告されている5,6)。わが国における2015~2017年の血清型12Fによる成人IPDの増加が, 小児PCV13導入の間接効果に伴う血清型置換によるのか否かについては, 現時点では判断が困難である。さらなる12F IPDの発生状況の監視が必要である。成人IPDサーベイランスにおいては, PPSV23接種による12F IPDに対するワクチン効果が明らかになっている(次記事参照)。また, 2015年度の定期接種対象者におけるPPSV23の定期接種実施率は33.5%と低いことから, さらなる65歳以上の成人に対する定期接種率の向上が望まれる。

 

文献
  1. Enright MC, Spratt BG, Microbiology 144: 3049-3060, 1998
  2. Fukusumi M, et al., BMC Infect Dis 17(1): 2, doi:10.1186/s12879-016-2113-y, 2017
  3. Chiba N, et al., Epidemiol Infect 138: 61-68, 2010
  4. Rakov AV, et al., Infect Genet Evol 11: 1929-1939, 2011
  5. Rokney A, et al., Emerg Infect Dis 24: 453-461, 2018
  6. Ladhani SN, et al., Lancet Infect Dis 18: 441-451, 2018

 

国立感染症研究所
 感染症疫学センター
  福住宗久 新橋玲子 松井珠乃  砂川冨正 大石和徳
 細菌第一部 常 彬 大西 真
 成人IPDサーベイランス班
  田邊嘉也 武田博明 渡邊 浩 窪田哲也 笠原 敬 西 順一郎
  丸山貴也 大島謙吾 黒沼幸治 藤田次郎

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version