国立感染症研究所

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新規帯状疱疹サブユニットワクチン

(IASR Vol. 39 p142-144: 2018年8月号)

はじめに

帯状疱疹の予防に関しては, 米国では10年以上前から, わが国でも2016年から生ワクチンの使用が可能になっている。一方, 帯状疱疹サブユニットワクチンの2つの大規模国際共同試験では, 帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛 (postherpetic neuralgia: PHN) の発症を90%以上減少させることが報告され, 新規ワクチンとして注目されている。本項では帯状疱疹ワクチンの現状について解説するとともに, 最近わが国でも認可されたサブユニットワクチンについて解説したい。

帯状疱疹生ワクチンの現状

2005年に発表された, 米国での60歳以上の約4万名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験では, 帯状疱疹生ワクチン接種後平均3.12年の追跡期間中, 帯状疱疹発症頻度はワクチン群がプラセボ群に比して51.3%減少, PHNは66.5%減少, 重症度も61.1%減少したことが示された1)。副反応は接種部の局所反応が主体で, 重篤なものはみられなかった。また, その後のサブ解析で, 60代接種群の方が70歳以上接種群に比べワクチン効果が高いことが明らかとなった2)。米国では2006年5月より免疫能正常な60歳以上を対象として帯状疱疹生ワクチン (ZOSTAVAX®) の接種が推奨されていたが, 2011年3月からはその年齢が50歳以上に引き下げられている。

わが国では, 乾燥弱毒生水痘ワクチン 「ビケン」 は, ZOSTAVAX®と本質的に同じワクチンであることに基づき, 帯状疱疹に対する予防効果は医学薬学上公知であるとして, 「50歳以上の者に対する帯状疱疹予防」 の効能追加が2016年3月に認められた。

生ワクチン接種の課題

臨床治験後の長期追跡調査により, ZOSTAVAX®のワクチン効果は8年, 疾病負荷に対する効果は10年で統計学的に有意な効果が消失することが判明している3)。また, 生ワクチンのため, 妊婦, 非寛解状態の血液がん患者, 造血幹細胞移植後, 固形がんで3カ月以内に化学療法施行の患者, 免疫抑制療法施行中の患者やHIV患者など帯状疱疹発症リスクが高いと思われる患者には禁忌であることが問題点としてあげられる。

新規帯状疱疹サブユニットワクチンHZ/su(Shingrix®)について

新規ワクチン候補として, VZVの糖タンパクgEとアジュバントAS01Bとから構成されるサブユニットワクチンであるHZ/su(Shingrix®)が開発された。本ワクチンに用いられているAS01BはTLR4作動薬であるmonophosphoryl lipid A(MPL)とサポニン構成要素であるQS21(植物抽出物)にリポソームが配合されたアジュバントであり, 強い液性, 細胞性免疫誘導能を持つことが知られている。Shingrix®は第I, II相試験で, HIV患者など免疫抑制患者での安全性と4), 高齢者において少なくとも3年間の強い免疫誘導能が確認されている5)

Shingrix®の第III相試験は, 国際共同プラセボ対照研究として日本を含むアジア, アメリカ, ヨーロッパ18カ国, 50歳以上の健常人(帯状疱疹の既往もしくはワクチン接種歴のあるものは除外)15,411人を対照に行われた(ZOE-50)6)。平均3.2年間の観察期間中, ワクチンによる帯状疱疹発症阻止効果は97.2%と驚くべき結果が得られた ()。また, 年齢による効果の差もみられなかった。プラセボに比べ副反応の発現率は高かったが, 軽度~中程度の者が多く, 一過性のものであった。また, 平行して行われた70歳以上の健常人での同じプロトコール試験(ZOE-70)においても帯状疱疹発症阻止効果は89.8%であった7)。2つの試験の70歳以上の被験者のプール解析(70歳以上, 計16,596例)をしたところ, 帯状疱疹に対するワクチン有効率は91.3%, PHNへの有効率は88.8%であり, PHNに対する高い有効性も証明された7)。同臨床試験の日本人部分集団のデータ(ZOE-50; 561例およびZOE-70; 481例)においても, 効果や安全性のプロファイルはグローバルのデータと遜色ないものであった8)。本ワクチンはすでに米国・カナダでは承認, 使用されているが, わが国でも2018年3月に承認され, 近い将来接種可能となる予定である。

2つのワクチンの位置付けは?

2017年10月25日, 米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)では, 本サブユニットワクチンの, 1)免疫能を有する50歳以上の成人を対象とした帯状疱疹および関連合併症の予防目的として, 2)帯状疱疹生ワクチンの接種歴のある免疫能を有する成人を対象とした帯状疱疹および関連合併症の予防目的としての接種の推奨に加え, 3)帯状疱疹および関連合併症の予防目的としては, 生ワクチンよりもサブユニットワクチンの方が望ましいとの声明を出した9)。わが国では, 2017年2月に国立感染症研究所により「帯状疱疹ワクチン ファクトシート」10)が作成され, これを受けて厚生科学審議会のワクチン評価に関する小委員会で審議された。今後, 水痘ワクチン定期接種前からの高齢者の帯状疱疹に関するベースラインデータや, ワクチン導入後の疾病負担の変化の評価などを整備した上で, 帯状疱疹ワクチンの定期接種化に向け議論を進めていくことになっている。

おわりに

以上, 帯状疱疹生ワクチンの帯状疱疹予防効果ならびに新規サブユニットワクチンの開発の現状について解説した。わが国でも小児の水痘ワクチンが定期接種化されており, 今後帯状疱疹患者数の増加, 重症化が懸念される。帯状疱疹ワクチン接種によりこれらの問題は解決可能であるが, ワクチン効果の維持や, 接種不適当者の存在, 生ワクチンとサブユニットワクチンの使い分けなど課題は多数存在する。今後長期効果を追跡しながら, 将来的な定期接種化や公費補助などの議論につなげていきたい。

 

文 献
  1. Oxman MN, et al., N Engl J Med 352: 2271-2284, 2005
  2. Oxman MN, et al., J Infect Dis 197 Suppl 2: S228-236, 2008
  3. Schmader KE, et al., Clin Infect Dis 54: 922-928, 2012
  4. Berkowitz EM, et al., J Infect Dis 211: 1279-1287, 2015
  5. Chlibek R, et al., Vaccine 32: 1745-1753, 2014
  6. Lal H, et al., N Engl J Med 372: 2087-2096, 2015
  7. Cunningham AL, et al., N Engl J Med 375: 1019-1032, 2016
  8. 池松秀之ら, 感染症誌 92: 103-114, 2018
  9. Dooling KL, et al., MMWR 67: 103-108, 2018
  10. 国立感染症研究所, 帯状疱疹ワクチン ファクトシート, 平成29(2017)年2月10日
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000184909.pdf
 
 
愛知医科大学皮膚科 渡辺大輔

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