国立感染症研究所

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第22回国際エイズ会議(AIDS 2018)

(IASR Vol. 39 p160-161: 2018年9月号)

第22回 国際エイズ会議は, 猛暑のアムステルダムで2018年7月23日から開催された。街中の至る所で見かけた「AIDS YEARLY DEATHS 1 MILLION, AMSTERDAM POPULATION 900,000」という広告が, HIV/AIDS感染症の問題点を集約していた。

抗HIV薬の開発および普及により「死の病」でなくなったと思われがちなHIV/AIDS感染症であるが, 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の最新レポートによれば, 昨年の年間死亡者数は依然94万人に至る。加えて,アムステルダム人口の2倍にあたる180万人がHIVに新たに感染している。この現実を直視しながら, 抗 HIV薬を用いた曝露前予防内服(PrEP), 差別・偏見の撤廃, 治療の普及, を中心に, 本会議は展開された。同時に, 予防および治療成功の根幹をなす基礎研究分野では, 本感染症の諸問題を解決すべく, 新たな治療法開発をはじめとする積極的な討議が繰り広げられた。

InSTIs Era:インテグラーゼ阻害剤時代の到来

現在, HIV感染者数は3,690万人まで増加した。一方, コストの低い非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTIs)の普及が進み, 感染者の59%(2,170万人)に抗HIV薬が行き渡る状況にまで改善した。その中で, 低所得国向けの抗HIV薬治療の指針となる世界保健機関(WHO)ガイドラインが, 本会議に併せて改訂された (MOSA26)。その改訂点は「最新抗HIV薬であるインテグラーゼ阻害剤(InSTIs)のファーストライン治療への追加」である。この背景には, 会議3日目のプレナリー講演でPedro Cahn博士が示した, 流行地域アフリカ・アジア・南米において, 治療前のNNRTIs耐性ウイルス出現頻度が10%を超える危惧すべき状況が挙げられる(WEPL0106)。しかし, 実際にInSTIsを普及させるためには, NNRTIs以上にコスト・資金確保・普及など解決すべき課題が多く存在する。

bNAbs:切望される中和抗体誘導

上述のとおり会期を通じて, 「治療にInSTIs, 予防にPrEP」と, さらなる抗HIV薬の普及が望まれた。しかし, 「死の病」から「慢性感染症」へと変貌を遂げた本感染症においては, 治療だけでなくPrEPに関しても「服薬し続けなければならない」という課題が残される。結果, 180万人の新規感染を防ぐためには, 依然, 予防ワクチンの開発が切望されている。その一翼を担う中和抗体に関して, 2日目(TUAA01)および4日目(THSY04)を中心に, ウイルス・宿主・デリバリーなど様々な方向から中和抗体誘導研究が発表された。その一つDan Barouch博士と製薬会社の共同研究によるAd26.Mos.HIV, MVA-Mosaic, gp140 Env蛋白を組み合わせた予防ワクチン開発は, HIV Envに対する抗体反応が100%, サルモデルにおける予防効果が67%, という成果を示し, 現在, 2,600名規模のフェーズ2b臨床試験(HVTN705/HPX2008)に進んだことが報告された(TUAA0104, TUAA0105)。今後の進捗に注視したい。

Cure:治癒を目指して

「服薬し続けなければならない」治療への解決策すなわち治癒に関しては, 2日目(TUAA02), 3日目午前(WEAA01), および3日目午後(WESY09)にわたり, 様々な研究が報告された。免疫から逃れるHIV潜伏感染細胞を薬剤で刺激(shock)し, 「叩き起きた」 ウイルスを根絶(kill)する「shock and kill療法」に対しては, shockする薬剤(LRAs)を中心に発表が進められた。その中で, 認可薬マラビロク(MVC, CCR5阻害薬)がNF-κBのリン酸化を活性化させ, 潜伏細胞のHIV RNA転写を上昇させる, Jori Symons博士の研究(WEAA0102)は, 抗HIV活性とLRA活性を併せ持つ利点を上手く活かせれば, 貴重な武器となる可能性がある。

他方, 現在唯一の完全治癒例となるベルリン症例に関しても追跡研究が報告された。ベルリン症例は感染者の白血病治療を目的に, HIV補助受容体CCR5欠損(CCR5Δ35/Δ35)ドナーから骨髄移植を実施した結果, 感染者からHIVが根絶された治癒症例である。しかし, 同様のCCR5Δ35/Δ35骨髄移植であるエッセン症例では, 直ちにウイルスがリバンド(再検出)し「CCR5Δ35/Δ35骨髄移植=治癒」には帰結せず, ウイルスリバンドを担う長期潜伏感染細胞に焦点が当てられた。Annemarie Wensing博士は, 彼らが実施した9例のCCR5Δ35/Δ35骨髄移植から, 移植後10週目に亡くなられた1例を報告し, 移植後, HIV DNAが末梢血では検出されない一方で, 回腸・肺などの各組織では検出された点を踏まえ, 組織に存在する潜伏感染細胞が, 長期潜伏感染細胞に寄与する可能性を示した(TUAA0203)。

終わりに

サセックス公ヘンリー英王子とエルトン・ジョン氏が, 2030年までにエイズ撲滅を目指す「MenStar Coalition」プロジェクト設立を発表して幕開けした本会議は, 治療の普及, 予防の確立, 差別・偏見の撤廃, 資金の確保, 新規治療法戦略, など様々な課題が討議された後, ビル・クリントン元米大統領の基調講演で幕を下ろした。講演の中, 元米大統領は「I know it is hard to believe today. But good vaccine and a cure will be developed.」と語った。

1981年に最初のエイズ症例が報告されてから37年後, 継続した基礎研究の成果として, ようやくInSTIsがファーストライン治療に追加されるところまで漕ぎ着けた。引き続き, 本感染症の終結を目指すためには, 上述に挙げた様々な課題に対応するとともに, ワクチンの実用化および治癒へ辿り着くために, より一層の基礎研究の推進が重要であることを, 元米大統領の一節から改めて認識させられた。

 

国立感染症研究所エイズ研究センター 原田恵嘉

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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