麻疹の抗体保有状況―2018年度感染症流行予測調査(暫定結果)
(IASR Vol. 40 p62-63: 2019年4月号)
はじめに
感染症流行予測調査における麻疹の感受性調査(抗体保有状況調査)は, 1978年度に開始後, ほぼ毎年実施されてきた。国民の抗体保有状況を把握することで, 効果的な予防接種施策の立案ならびに麻疹排除の維持に役立てることを目的としており, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況について調査を行っている。
麻疹の予防接種は1966年から任意接種として始まり, 1978年10月に予防接種法に基づく定期接種に導入された。当時の定期接種対象年齢は, 生後12か月以上72か月未満であった。1989年4月~1993年4月の4年間は, 麻疹の定期接種の際に麻しんワクチンあるいは麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンの選択が可能となった。また, 1995年度から定期接種対象年齢が生後12か月以上90か月未満に変更となり, 2006年度から麻しん風しん混合 (MR) ワクチンが導入され, 接種対象年齢は第1期(生後12か月以上24か月未満), 第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者)の2回接種となった。さらに2008~2012年度の5年間は, 10代への免疫強化を目的として第3期(中学1年生相当年齢の者), 第4期(高校3年生相当年齢の者)の定期接種が実施された。
2018年度は, わが国における麻疹排除認定(2015年3月)から3年後の調査となるが, 本調査は今後の麻疹対策および麻疹排除の維持を継続していく上で重要である。
調査対象
2018年度の麻疹感受性調査は25都道府県で実施され, 麻疹のゼラチン粒子凝集(PA)抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において行われた。なお, 本調査の抗体価測定対象者の採血時期は, 原則として2018年7~9月であり, 2019年3月1日現在7,268名の抗体価が報告された。
抗体保有状況
麻疹に対する抗体保有状況について図に示した。麻疹のPA抗体価1:16以上の抗体保有率は, 昨年度の調査に続き2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示した。修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルを考えると, 1:128以上の抗体価の保有が望まれる。PA抗体価1:128以上についてみると, 11歳(82%), 15~16歳(72~83%), 60歳以上群(89%)を除くすべての年齢群で90%以上の抗体保有率であった。
まとめ
麻疹のPA抗体保有率(抗体価1:16以上)は, 2014年度の調査以降, 5年連続で2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示し, 高い抗体保有率が維持されていた。一方, すべての年齢層にPA抗体価1:128未満の者が存在することや, 海外では麻疹が流行している国がいまだに多く存在していることから, 国内における麻疹の排除状態を維持するためには, 引き続き高い抗体保有率を維持するとともに, 麻疹患者が1人でも発生した時の迅速な感染拡大予防策に加えて, 渡航前の麻しん含有ワクチンの接種ならびに定期接種対象者における高い予防接種率・抗体保有率の維持が重要である。