国立感染症研究所

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先天性風疹症候群の臨床的特徴:ベトナムにおける経験

(IASR Vol. 40 p129-130:2019年8月号)

風疹ワクチンの定期接種が施行されていない国や, 接種率の低い層がいる国では, 今なお風疹が流行し, それに続き先天性風疹症候群(CRS)が発生している。2009~2010年ベトナム中部カンホア省での出生コホート調査では, 妊婦の30%が風疹に感受性であったが1), 2011年1~7月にベトナム全土で風疹が流行し2), 同年10月より同省の総合病院Khanh Hoa General Hospital(KHGH)でもCRS児を認めるようになった3)

生下時の症状

2011年10月からの一年間にKHGHに入院したCRSを疑う症状4)のある乳児38人(日齢中央値8.5)を調査した5)。心臓超音波検査, 自動聴性脳幹反応検査(AABR), 風疹特異的抗体価測定を施行した。

66%が血清学的診断例であり, 2013年までに14人(37%)が死亡した。臨床所見として低出生体重 (71%), 心疾患(72%), 聴力障害疑い(93%), 白内障(13%), 紫斑またはblueberry muffin様皮疹(84%), 肝脾腫(68%) 等を認めた。心疾患は動脈管開存(PDA)が24人(心疾患の92%)で最多, その内13人で肺高血圧(PH)を合併していた。PHを伴うPDAの存在は統計学的に強く死亡と関連していた(p=0.001)。

感覚器障害

上記登録期間後の入院例を加えると, 確認できたCRS児は41人に上った。そのうち死亡14人, 追跡不能6人を除いた21人を対象に, 2013年(月齢中央値23, n=21)と2015年(月齢中央値47, n=16)に眼科検査と聴覚検査を行った6)

眼圧, 眼位, 前眼部および眼底を検査し, 11人(52%)に眼異常所見を認めた。色素性網膜症が最も多く(5人), それ以外の機能的眼合併症(白内障, 近視, 遠視, 斜視, 小眼球, 眼振)を7人(33%)に認めた。白内障(4人)は全例が小眼球と斜視を伴っていた。

AABRを再度施行, 13人(62%)で聴覚障害が疑われ, うち9人は両側中等度以上の難聴(45dBでrefer)と推測された。1人は2013年の検査時点で両側人工内耳を装用していた。

発 達

2013年と2015年にAges and Stages Questionnaire(ASQ), Denver Developmental Screening Test II(Denver II)を用いた発達スクリーニングを施行, 同時に2013年にはModified Checklist for Autism in Toddlers(M-CHAT), 2015年には小児自閉症評定尺度第二版(CARS2)を使用し自閉症スクリーニングを行った6)。20人中19人でASQまたはDenver IIの少なくとも1つの領域に遅れを認めた。2013年に評価した17人(月齢中央値25)では, ASQのcommunication領域(n=14)とDenver IIのlanguage領域(n=13)に遅れのある児が多く, 7人がM-CHAT陽性, うち2人が自閉性障害(DSM-IV)と診断された(12%)。2015年に評価した13人(月齢中央値44)ではcommunica-tion領域(n=10)とlanguage領域(n=9)の遅れに加え, problem-solving領域(n=9)とpersona-social領域(n=9)で遅れのある児の割合が増え, 2人がCARS2で自閉症と診断された(15%)。

心疾患

さらに我々はホーチミン市の小児病院で診療録レビューを行い, CRS児の循環器的特徴を調査した(Toizumi M, et al., manuscript submitted for publica-tion)。同院に入院したCRS児108人(月齢中央値3.3)の心疾患はPDA(87%)が最も多く, 他に三尖弁閉鎖不全(65%), 心房中隔欠損/卵円孔開存(50%), PH(44%), 僧帽弁閉鎖不全(26%), 肺動脈狭窄(23%), 肺動脈弁閉鎖不全(15%), 大動脈弁狭窄(14%), 心室中隔欠損(9%), 大動脈弁閉鎖不全(7%), 大動脈縮窄(4%)を認めた。

カテーテル閉鎖術を受けたCRSを伴うPDA(n=50)とCRSを伴わないPDA(n=290)とを比較すると, CRS- PDAは, C型(管状)が多く(16% vs 3%, p=0.002), 動脈管長と肺動脈側径が大きく(各々p=0.02, p=0.01), その形状による脱落の危険を避けるため両端にディスクのある閉塞栓で治療されることが多かった(AMPLATZER Duct OccluderTM Ⅱの使用, 12% vs 3%, p=0.004)。また, CRS-PDAは肺動脈圧, 大動脈圧がともに高かった。

ベトナムの予防接種ポリシーの改変

ベトナムでは2011年の風疹流行とCRS発生, および数学的モデリングによるCRS発生予測を受け7), 2014年に1~14歳児(その後17歳まで拡大)を対象としたMRワクチン接種キャンペーンを実施するとともに, MRワクチンを18か月児定期接種へ導入した。

2014~2018年に世界保健機関(WHO)へ報告された風疹発生数は年間59~798人(2011年は7,259人), CRSは1~19人(2011年は189人)8)と大きな流行は起きていないものの依然endemicであり, 今後もCRSの発生が危惧される。我々は, ワクチン導入後の2017~2018年にカンホア省で新たな出生コホートを立ち上げたが, 妊婦の20%は未だ風疹に感受性であった(未発表データ)。

結 論

我々はベトナムで, CRS児の多くが複数の障害を合併し, 特に医療・経済資源の限られた地域ではその評価や介入が困難であることを経験した。

感受性者集団への予防接種とその徹底による風疹予防, サーベイランスによる国内外の風疹流行およびCRS発生状況の把握に加え, CRS児の臨床知見を集積し, 児に適切な介入を行えるよう備える必要がある。

 

参考文献
  1. Miyakawa M, et al., Vaccine 32(10): 1192-1198, 2014
  2. Toda K, et al., Vaccine 33(31): 3673-3677, 2015
  3. Toizumi M, et al., Vaccine 37(1): 202-209, 2019
  4. Lanzieri T, et al., Chapter 15: Congenital Rubella Syndrome, Manual for the Surveillance of Vaccine-Preventable Diseases(6th Edition, 2013): Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/surv-manual/chpt15-crs.html
  5. Toizumi M, et al., Pediatrics 134(2): e519-e526, 2014
  6. Toizumi M, et al., Scientific Reports 7: 46483, 2017
  7. Vynnycky E, et al., Human Vaccines and Immuno therapeutics 12(1): 150-158, 2016
  8. WHO vaccine-preventable diseases: monitoring system. 2019 global summary 1: https://apps.who.int/immunization_monitoring/globalsummary

長崎大学熱帯医学研究所小児感染症学分野
 樋泉道子 吉田レイミント
長崎大学病院 本村秀樹 森内浩幸 金子賢一
 上松聖典 高橋健介
Khanh Hoa General Hospital Vo Minh Hien
Khanh Hoa Health Service Bui Xuan Minh
National Institute of Hygiene and Epidemiology
 Dang Duc Anh
Children’s Hospital 1 Do Thi Cam Giang
           Do Nguyen Tin
National Pediatric Hospital Nguyen Thi Huong Giang

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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