県庁舎内における風しん集団発生の概要と対応―茨城県
(IASR Vol. 40 p131-132:2019年8月号)
はじめに
茨城県では2018~2019年にかけて5年ぶりに大規模な風しんの流行がみられ, 2018年12月に県庁舎内で14例のアウトブレイクが発生したので, その概要について報告する。
発生状況
A課所属の初発患者は, 12月3日から発熱などの症状はあったが出勤していた。症状が続いたので5日に受診したが, 7日に発熱・発疹等がみられたことから, 翌8日に再診し, 12日に風しんと診断され, 同日, 保健所へ医療機関から発生届が提出された。
初発患者が発疹の症状を呈したおよそ2週間後の12月21~31日にかけて, 初発患者と同課3名, 同フロアのB課3名およびC課5名の計11名が発症した。また, それぞれ別フロアのD課1名, E課1名の発症者があった。
各課の患者の発症日の分布は図1のとおりである。
患者14名の内訳は, 男性が13名(30代1名, 40代6名および50代6名), 女性が1名(40代)であった。ワクチン接種歴は, 1名が接種歴1回あり, 10名が接種歴無し, 3名は不明であった。
検査結果
初発患者を除く13症例について, 血液, 咽頭ぬぐい液および尿が採取され, 当所において遺伝子検査を実施した。風しんのRealtime-RT-PCR検査の結果, すべての症例においていずれかの検体から風しんウイルスの遺伝子が検出された。風しんウイルスのE1遺伝子の一部(739bp)についてダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した。その結果, 13症例の風しんウイルスの遺伝子の塩基配列は100%一致した。分子系統樹は, MEGA6を用いて最尤法により作成し, Bootstrap解析(1,000回)は70%以上を表示した(図2)。作成した分子系統樹から遺伝子型はすべて1E型に分類され, ウイルスの遺伝学的解析結果と患者の疫学データから, 本事例は同一株による集団発生であることが推察された。
感染拡大防止対策
初発患者の発生届後, 接触者への注意喚起を行っていたが, A課職員から新たな患者が発生したことから, 県庁舎内での感染拡大を防止するため, 12月23日に関係課所による対策会議を開催し, 関係課職員の健康状態の確認等, 対応を協議した。また, 初発患者が行動したフロアの職員の健康状態の確認と全庁職員への庁内放送, 電子掲示板や個人メールによる注意喚起を行った。さらに, ワクチン未接種者や罹患歴のない職員のうち, 希望者100人(患者と同フロアの者を先)に対し, 職員診療所で麻しん風しん混合ワクチンの接種を実施した。なお, 妊娠初期または妊娠を希望する女性職員には, 在宅勤務制度等の活用も促した。抗体検査や予防接種を受けた職員には, 職員互助会から一部助成することなどを通知した。
まとめ
「自治体における風しん発生時対応ガイドライン(第2版)」に基づき, E課職員を最後に県庁舎内で新たな風しん患者が6週間発生していないことから, 2019年2月8日に風しん患者の集団発生が終息したことを宣言した。
本事例における患者はワクチン接種歴無しが約7割を占めており, このことが感染を拡大させた一因と推察された。患者の年齢は風しんの定期予防接種を受ける機会がなかった40~50代が中心であった。茨城県全体の風しんワクチンの定期予防接種率は, 2017年度において第一期96.9%, 第二期94.9%であり, 他県と比べても高い接種率である。しかし, 本事例のように定期予防接種を受ける機会がなかった世代を中心に風しんの感染が拡大したことから, 風しん対策には定期予防接種未実施の世代を中心とした追加予防接種の推進が必要であると考えられた。