2018年度感染症流行予測調査における風疹の予防接種状況および抗体保有状況(暫定結果)
(IASR Vol. 40 p135-137:2019年8月号)
はじめに
感染症流行予測調査における風疹感受性調査は1971年度に開始されて以降, ほぼ毎年実施されてきた。本調査は風疹に対する感受性者を把握し, 効果的な予防接種施策を図るための資料にするとともに将来的な流行を予測することを目的として, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況の調査を行っている。
風疹は2013年の流行以降2014~2017年まで報告患者数は減少傾向であったが, 2018年第30週頃から報告患者数が増加し, 2018年は2,946人(2019年6月4日現在), 2019年は第24週までに1,656人が報告された。患者の多くはこれまでに風疹含有ワクチンの定期接種の機会がなく, 風疹に対する抗体を保有する割合が低い成人男性であった。そのため, この群に対する対策として2019年から2021年度まで, 1962年4月2日~1979年4月1日に生まれた男性(2019年7月1日時点40歳3か月~57歳3か月)が風疹に係る定期の予防接種(A類疾病)対象者(第5期)として追加された。
今回は2018年度調査における風疹含有ワクチン接種状況および抗体保有状況について報告する。
調査概要
2018年度調査は北海道, 宮城県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 石川県, 長野県, 愛知県, 三重県, 京都府, 山口県, 高知県, 福岡県で実施され, 調査対象者は5,550人(男性2,875人, 女性2,675人)であった。抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において, それぞれの地域で主に7~9月に採取された血清を用いて赤血球凝集抑制(hemagglutina-tion inhibition: HI)法により行われた。予防接種歴は調査時点における接種状況が報告された。
風疹含有ワクチン接種状況
2018年度調査において, 風疹含有ワクチンの接種歴が不明であった者の割合は0~19歳では男女とも15%前後であり, 20歳以上群では男性で72%(56~81%), 女性で48%(33~66%)と高かった。接種歴不明を除いた1回以上接種者(1回・2回・回数不明)の割合は, 1歳で約85%, 2~19歳でおおむね95%以上であり, 男性と女性でほぼ同等であった。一方, 20歳以上群における接種割合は男性が66%(29~90%), 女性が78%(29~98%)であり, 男性で低かった (図1)。
風疹HI抗体保有状況
HI法で抗体陽性と判定される抗体価1:8以上を有する者の割合は, 移行抗体の消失に伴い乳児期前半から後半にかけて低下し, 定期接種対象年齢である1歳で上昇した後, 30代前半までは高い割合を維持していた。この推移は男女でほぼ同様であった。一方, 30代後半以降の抗体保有割合は女性では高く維持されていたのに対し, 男性では30代後半~50代前半の抗体保有割合が特に低く, 男女差が大きかった(2013~2018年度調査, 図2)。
2018年度調査における抗体保有割合は, 生後0~5か月で男児40%, 女児71%, 生後6~11か月で男児18%, 女児23%, 1歳で男児79%, 女児81%, 2歳~30代前半までは男女ともにおおむね90%以上と高かった(図2)。30代後半以降は, 女性ではほぼすべての年齢群で90%以上であったのに対し, 男性では60歳以上群を除くすべての年齢群で90%を下回り, 特に45~49歳群で79%, 50~54歳群で77%と低かった。
小児期に定期接種の機会がなかった1962~1978年度生まれ(調査時年齢40~56歳)の男性の抗体保有割合は, 2009~2018年度の10年間継続して80%前後で推移しており, 定期接種の機会があった群と比較して低かった(図3)。
まとめ
2018年度調査において30代後半~50代前半男性の予防接種割合および抗体保有割合は女性と比較して低く, これまでの調査と同様の結果であった。2019年から3年間(2022年3月まで)は, 1962~1978年度生まれの男性でHI抗体価が1:8以下であった者が新たに風疹の定期接種対象(第5期)に追加されており, 本調査を継続して実施することでこの対策に対する効果を評価していく事が重要と考えられた。