国立感染症研究所

IASR-logo

世界スカウトジャンボリー(山口県)に関連したスコットランド隊員およびスウェーデン隊員の髄膜炎菌感染症事例について

(掲載日 2015/8/25)  (IASR Vol. 36 p. 178-179: 2015年9月号)

第23回世界スカウトジャンボリー(WSJ2015)に参加した北スコットランド隊のスカウト3名とスウェーデン隊のスカウト1名が髄膜炎菌感染症を発症した事例が発生した。

WSJ2015とは、2015年7月28日~8月8日に山口県山口市阿知須・きらら浜他にて開催された国際的なイベントであり、世界162の国と地域から約3万人、日本から約6,000人が参加した。参加者は14~17歳のスカウトと引率指導者、スタッフ等であった。WSJ2015に参加した北スコットランド隊のスカウトが8月8日、帰国途中で髄膜炎菌性髄膜炎を発症した。2例目は同じく北スコットランド隊のスカウトで8月11日に発症し、その後3例目も報告された。これらのうち少なくとも1例の血清群はW群(ST-11)であると判明した。彼らはWSJ2015前に日本に約2週間滞在し、北海道、東京、広島を訪問していた。英国スコットランド公衆衛生部局(Health Protection Scotland)は積極的疫学調査を実施し、判明した濃厚接触者に対して抗菌薬予防投与とワクチン接種を行い、さらに英国からの全参加者に対して健康監視のための情報提供を行った。なお、8月19日現在、WSJ2015参加者(8月13日に抗菌薬予防内服を行った北スコットランド隊のスカウト)の親類から4例目の確定例が報告された。

同じく8月18日、WSJ2015に参加していたスウェーデン隊スカウト1名が髄膜炎菌感染症と診断され、他のスウェーデン隊員3名も疑い症例として検査中である、とスウェーデン公衆衛生当局が発表した。当局はスウェーデンからWSJ2015へ参加した全員に対して情報提供と、抗菌薬予防投与のための速やかな医療機関受診を勧めている。これらの事例を受けて、世界スカウト機構もホームページに参加者への注意喚起を掲載し、情報提供を行っている(8月19日現在)。

日本における対応としては、厚生労働省からボーイスカウト日本連盟へ注意喚起の通知(8月14日付)を発出し、また、ボーイスカウト日本連盟は同日、スコットランド隊のキャンプサイトと隣接したサイトでキャンプをしていた国内参加隊の住所地自治体、および開催県である山口県へ情報提供を行った。また、8月18日のスウェーデン隊員の事例の報告を踏まえ、厚生労働省は8月19日、大会事務局のボーイスカウト日本連盟を通じ、各都道府県へ情報提供を行った。大会参加者で体調変化を認める際には、医療機関を受診するよう要請している。 

本事例は参加者の多い国際的な大会に関連し、複数の国で発生した髄膜炎菌感染症事例であり、関係各国間で速やかな情報共有と対応協議が行われた。8月24日現在で日本国内において、本事例と関連すると思われる症例の報告は認めていない。なお、国内で2015年8月以降に報告された侵襲性髄膜炎菌感染症は3症例であり、いずれの症例も調査の結果、WSJ2015との疫学的関連は否定されている。また、3例中1例の血清群がB群と判明し、2例は検査予定である(8月24日現在)。

近年の国内における侵襲性髄膜炎菌感染症の発生動向について、2015年第1~32週(8月19日現在)感染症発生動向調査システム(NESID)に報告された症例は計21例であり、血清群はY群9例、W群2例、C群1例、Non typable 1例、A群0例、B群1例、不明7例であった(なお、2014年までの発生動向については本号15ページ記事参照)。

髄膜炎菌は低頻度ではあるが健康人の咽喉にも保菌される。髄膜炎菌感染者は、全く症状が出ない人から上気道症状のような軽い症状、稀に高熱や頭痛、嘔吐、意識障害(髄膜炎)や皮膚の発疹などを伴う敗血症等の重い症状を呈する人まで、誰がどのような症状を呈するかは事前にはわからない。ただ、本菌は、一つ屋根の下での同居生活や大人数が集まる場所(大学等の寮、バー、様々なイベントなど)での飲み物の回し飲み等のかなり濃厚な接触が感染伝播のリスクを高めることが知られている。国内では4価髄膜炎菌ワクチン(A/C/Y/W群)が2014年7月に認可、2015年5月18日より販売開始された。また、髄膜炎菌感染症は他の細菌感染症に比較して抗菌薬による治療に反応が良い。国内での患者発生状況や血清群の動向についてのサーベイランスの継続、ワクチンを用いた予防、患者発生時の濃厚接触者における症状の早期探知と早期治療介入が髄膜炎菌感染症対策において重要である。

 
参考文献
  1. Outbreak of invasive meningococcal disease in the EU associated with a mass gathering event, the 23rd World Scout Jamboree, in Japan 21 August 2015 European Centre for Disease Prevention and Control, Rapid Risk Assessment
    http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/Meningococcal-disease-scouts-EU-August-2015.pdf
  2. Meningococcal disease in Scouts returning from international Jamboree HPS Weekly Report, 18 August 2015, Volume 49 No 2015/33
    http://www.hps.scot.nhs.uk/documents/ewr/pdf2015/1533.pdf
 
国立感染症研究所
  実地疫学専門家養成コース 金井瑞恵 蜂巣友嗣 福住宗久
  感染症疫学センター 神谷 元 砂川富正 松井珠乃 大石和徳
  細菌第一部 高橋英之 大西 真
 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version