国立感染症研究所

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2016年と2019年に検査診断されたチクングニア熱症例―愛知県

(IASR Vol. 41 p49-51: 2020年3月号)

2011~2018年の全国におけるチクングニア熱患者の年間届出数は20例未満であったが, 2019年は10月29日現在の累計報告数(第1~42週)がすでに42例に達した1)。愛知県では2011年からほぼ毎年数例の報告があり, うち当所でチクングニアウイルス遺伝子を検出したのは2016年の3例, 2019年の4例である(図1)。これら7例の遺伝子検査の概要とウイルス遺伝子の分子疫学解析の結果を報告する。

7例の患者情報はのとおり。なお患者1と2は親子, 患者5-7は技能実習生とその通訳であった。

チクングニアウイルス検出マニュアルに基づきReal-time RT-PCR法によってチクングニアウイルス遺伝子検査を実施したところ, 患者4は尿と血液(全血)から, それ以外の患者は血液(全血)のみからチクングニアウイルス遺伝子が検出された。

患者1-7より採取された全血を検体としてRT-nested PCR法によるチクングニアウイルスE1領域全長(1320nt)の遺伝子検出を試みたところ, 患者2を除く6例で増幅が確認された。この領域の塩基配列を決定し, 系統樹解析を行った結果, 患者3がアジア(Asian)遺伝子型, 患者1, 4, 5, 6, 7が東・中央・南アフリカ (ECSA) 遺伝子型に分類された(図2)。患者1の塩基配列は2016年にインドで報告された配列(MG137428)と, 患者3の塩基配列は2014年にフィリピンで報告された配列(MF773563)と99%以上の相同性があった。また, 2019年にミャンマー輸入例から報告された配列(LC500573, LC500574)と患者5, 6, 7の配列は一致し, 患者4の配列は1塩基異なっていた。

チクングニア熱は2004年から始まったケニア東岸およびインド洋諸島での大流行を発端に世界各地で流行した。流行地域の拡大は, それまで主な媒介蚊であったネッタイシマカだけでなく, E1-A226V変異によりヒトスジシマカへの感染性が亢進されたことが一因とされている2)。日本と同じく, ヒトスジシマカのみ生息が確認されているイタリアでは, 2007年と2017年に国内感染が発生した。2007年の流行株の多くではE1-A226V変異が認められ, 2017年の流行株にその変異はなかったが, ヒトスジシマカが媒介したウイルスの感染性は同等であったことから, ヒトスジシマカへの感染性を亢進させるアミノ酸変異がE1-A226V以外にも存在する可能性は高い3)。なお, 今回解析した6例すべてにE1-A226Vは確認されなかった。

Asian遺伝子型とECSA遺伝子型の世界的な流行はアジア地域を中心に拡大したとされており, 2006年以降に日本で報告された患者の渡航先はアジア地域と太平洋諸島で約9割を占める4)。2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどのマスギャザリング, 観光客や外国人技能実習生の増加などにより, 蚊媒介性ウイルス感染症の輸入例がますます増加するリスクがある。また, 2019年10月には同じく蚊が媒介するデング熱の国内感染例が2014年以来5年ぶりに報告された。アミノ酸変異による感染性変化の可能性を早期に発見するためには, 遺伝子レベルでの流入監視が必要であるが, チクングニアウイルスの遺伝子情報は少なく, アジア地域には詳細な遺伝子情報が入手できない国も存在する。よって, 今後も輸入例の分子疫学解析の重要性は増すと考えられる。

 

文 献
  1. 感染症発生動向調査週報(IDWR):チクングニア熱累積報告数(2019年10月29日アクセス) https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.html
  2. 森 嘉生ら, ウイルス 61: 211-220, 2011
  3. Fortuna C, et al., Euro Surveill 23: 22, 2018
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6152176/
  4. Nakayama E, et al., J Travel Med. 25: 1, 2018
    https://academic.oup.com/jtm/article/25/1/tax072/4763690
 
 
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