感染症発生動向調査及び積極的疫学調査により報告された新型コロナウイルス感染症確定症例516例の記述疫学(2020年3月23日現在)
(一部訂正 2020/6/8)
2020年2月1日より、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は感染症法第6条第8項の指定感染症に定められ、診断した医師は直ちに管轄の保健所に届け出ることが義務づけられた(感染症発生動向調査)。また、感染症法第15条に規定する積極的疫学調査を行うことが可能となった。
本稿では、感染症発生動向調査及び積極的疫学調査により、探知された確定例について、感染症発生動向調査に届け出られた情報及び厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部が関係自治体等から毎日収集し、更新した情報(3月23日現在)をもとに記述する。前回3月9日現在の報告(https://www.niid.go.jp/niid/ja/covid-19/9489-covid19-14-200323.html)を行っており、今回は3回目の報告となる。これらの情報収集は現在も進行中であるため、今後、修正、もしくは更新がなされる可能性がある。また、一部は未届出の段階の、あるいは感染症発生動向調査としての届出作業が終了していない症例が少なくないことから、本データで紹介する患者数は、厚生労働省が公表しているそれとは現時点で異なっている。今後、徐々に乖離は解消されていくと思われるが、注意されたい。
2020年3月23日までに、感染症発生動向調査及び積極的疫学調査の両調査で報告がなされ、突合可能であった確定症例(PCR検査陽性)は516例であった(3月23日現在)。
性別は男性285例、女性231例で、男女比は1.2:1で男性に多かった。
年齢の中央値は60歳(範囲1-97)、その分布は10歳未満6例(1.2%)、10代3例(0.6%)、20代46例(8.9%)、30代52例(10.1%)、40代59例(11.4%)、50代87例(16.9%)、60代98例(19.0%)、70代124例(24.0%)、80代39例(7.6%)、90代以上2例(0.4%)であり、60代以上で約5割を占めた。
国籍は日本405例、米国25例、オーストラリア20例、中国13例、カナダ9例、フィリピン9例、インド7例、インドネシア5例、香港5例、タイ3例、ニュージーランド2例、フランス2例、アイルランド1例、ウクライナ1例、コロンビア1例、ハンガリー1例、ルーマニア1例、ロシア1例、南アフリカ1例、不明4例であった。
推定感染地域及び経路として、クルーズ船関連214例(乗員・乗客のみ)、大阪府65例、東京都30例、新潟県23例、神奈川県19例、和歌山県14例、千葉県13例、群馬県10例、京都府7例、大分県7例、北海道3例、愛知県3例、福岡県3例、埼玉県2例、石川県2例、岐阜県2例、兵庫県2例、山口県2例、長野県1例、広島県1例、熊本県1例、宮崎県1例、国内(都道府県不明)15例、中国11例、エジプト5例、イタリア3例、英国3例、スペイン3例、フランス3例、フィリピン2例、アイルランド1例、スイス1例、タイ1例、米国1例、北海道/ハワイ1例、石川県/エジプト1例、石川県/フランス1例、長野県/フランス1例、福岡県/韓国1例、都道府県不明/エジプト1例、都道府県不明/米国1例、イタリア/オランダ1例、スペイン/フランス1例、ロシア/フィンランド1例、英国/フランス/イタリア1例、スペイン/フランス/ベルギー1例、都道府県不明/シンガポール/インドネシア1例、国内・国外不明29例が届け出られた。
発症日の判明している405例の流行曲線を図に示す。症例は2020年1月20日から3月21日にかけて発症していた。クルーズ船関連の症例は2月7日に発症者のピークがあり、中国/武漢関連症例は1月の発症が多い傾向がみられた。一方、国内感染症例は、2月中旬以降、漸増傾向にある。
主な症状について、届出時点から3月23日現在までの経過中のエピソードとして、発熱375例/475例(79%)、咳353例/465例(76%)、肺炎245例/387例(63%)、全身倦怠感182例/389例(47%)、咽頭痛115例/393例(29%)、鼻汁・鼻閉79例/321例(25%)、頭痛71例/301例(24%)、下痢65例/336例(19%)、関節・筋肉痛42例/310例(14%)、嘔気・嘔吐20例/318例(6%)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)10例/277例(4%)、結膜充血6例/283例(2%)を認めた。年齢群別の各症状の報告数を表に示す。なお、情報無し・不明であった場合、分母から除いて集計しているため、それぞれの症状で分母が異なる。
医療的介入について、ICU入室35例/323例(11%)、侵襲的換気(気管内挿管等)49例/347例(14%)であった。また、年齢群別の医療的介入の報告数を表に示した。その他の介入として体外式膜型人工肺(ECMO)使用が18例(40代2例、60代5例、70代9例、80代2例)であった。なお、割合算出にあたり、情報無しであった場合、分母から除いて集計しているため、割合の数値は過大評価されている可能性があり、評価には注意が必要である。
重症例の基礎疾患の有無について、ICU入室例35例では、基礎疾患あり17例・なし5例・情報なし/不明13例、侵襲的換気を必要とした49例では、基礎疾患あり29例・なし4例・情報なし/不明16例、ECMOを必要とした18例では、基礎疾患あり11例・なし2例・情報なし/不明5例であった。 基礎疾患としては、侵襲的換気を必要とした49例では、糖尿病13例、高血圧12例、脂質異常症10例、心血管疾患5例、悪性新生物5例等、ECMOを必要とした18例では、高血圧5例、糖尿病4例、脂質異常症4例、心血管疾患2例等であった(重複あり)。
また、 無症状病原体保有者として感染症発生動向調査に 届け出られた症例は91例(18%)であった。91例のうち、その後の積極的疫学調査により、届出以前から症状があったことが分かった者11例 、 届出時は無症状であったが、それ以降に症状が出現した者11例、届出以降に症状はあったが、その症状出現開始日が不明な者29例であった。 無症状病原体保有者として届け出られた91例のうち、6例(7%)が侵襲的換気(気管内挿管等)、うち3例(3%)がECMOの使用が必要となった。3月23日現在、無症状病原体保有者として届け出られた症例のうち、無症状のままの症例(症状の報告のない症例)は40例(全516症例のうち8%、無症状病原体保有者としての届出のうち44%) であった。
なお、今回の分析対象となった516例の3月23日時点の転帰は、死亡10例(2%)、退院261例(51%)であった。入院開始日と退院日ともに判明している226例における入院期間の平均値(標準偏差)は16.6日(±7.9日)であった。死亡者の基礎疾患としては、糖尿病4例、悪性新生物3例、高血圧2例、脳・心血管疾患2例等であった(重複あり)。
本稿のまとめは、日本におけるPCR検査陽性症例(厚生労働省3月23日報告:国内1,057例、チャーター便帰国者15例、空港検疫17例、クルーズ船712例)の一部である。COVID-19の日本における発生動向及び疾患の重症度の把握、対策への反映等を目的に引き続き情報収集と分析、情報の還元を実施予定である。
感染症発生動向調査及び積極的疫学調査にご協力いただいております各自治体関係者の皆様に心よりお礼申しあげます。
(2020年6月8日) 図の下段において、国内・国外不明が記載されておりませんでし たので、訂正しました。