国立感染症研究所

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Escherichia の新種E. albertii について

(IASR Vol. 33 p. 134-136: 2012年5月号)

 

(編集部よりお願い:以下の記事をお読みいただき、Escherichia albertii の行政上の取り扱いについては、本文末尾の編集部注2に準拠してください。)

はじめに
Escherichia albertii は、2003年に新種として正式に発表された菌種1) である。この菌種は特徴的な生化学性状を示さない上に、インチミンの遺伝子eaeA(=eae )注1) を保有するなど、他の菌種、特に大腸菌と誤同定されやすい特徴を示す2) 。また、一部の菌株は、Vero毒素2fの遺伝子を保有し、ヒトから分離されている2) 。仮にeae およびVero毒素2fの遺伝子保有だけに着目すると、当該菌株は腸管出血性大腸菌と誤認される可能性もある。さらにボイド赤痢菌血清型13の一部がE. albertii であったとの報告もある3) 。これらのことは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に直接関連する事項でもあり、E. albertii の情報の整理が必要であると考え本稿を寄稿した。

E. albertii の歴史
バングラデシュ人民共和国の小児の下痢便から分離されたD-ソルビトール醗酵陰性および乳糖醗酵陰性の腸内細菌科に属する細菌について、DNA交雑試験、生理生化学性状および16S rRNA遺伝子を検討の結果、Huysらはこの菌を新種E. albertii として2003年に報告した1) 。この菌株は、API20Eシステム(bioMérieux)にて当初Hafnia alvei と同定されたが、eae を保有するなど大腸菌の特徴も有していた。E. albertii の同定におけるカギとなる性状について、インドール:陰性、リシン脱炭酸:陽性、乳糖醗酵:陰性、D-キシロース醗酵:陰性等の性状を記載した。次いで、Hymaらは、ハウスキーピング遺伝子あるいはeae 等の塩基配列の相同性から、ボイド赤痢菌血清型13の一部がE. albertii であることを報告した3) 。これを受けて、NataroらはManual of Clinical Microbiology, 9版にE. albertii を生物型1と生物型2に分類した(表1)4) 。ところが、Lindsay Oaksらはインドール:陽性、リシン脱炭酸:陽性を示し、上記の2つの生物型に該当しないE. albertii が鳥由来株に存在することを報告した5) 。さらに、Ookaらは、ヒト臨床由来株等を検討し、上記性状のE. albertii のほか、乳糖醗酵陽性の菌株やVero毒素2fを保有する菌株を報告した2) 。E.albertii と同定された菌株の一部が大腸菌の抗血清に凝集することも確認されている(著者ら未発表)。このように、すべてのE. albertii を他菌種と容易に鑑別可能な性状は少ない。

E. albertii の暫定的な検出方法と課題
E. albertii を同定する方法として実用性があるものは、腸内細菌であることおよびD-キシロース醗酵陰性という性状を指標として分離した菌株に対してHymaらの診断的マルチプレックスPCR法により3種類の遺伝子を検査3)することだと思われる。ただし、プライマーのうち、clpX_28 は配列が訂正されている5) 。D-キシロース醗酵陽性のE. albertii や、当該PCRに反応しないE. albertii の存在も考えられる。

E. albertii の細菌分類学的位置づけ
細菌の命名は、国際微生物学協会連合(IUMS)公的機関誌IJSEMに記載された時点で正式な発表となる。従って、表に示すE. albertii は、IJSEM上に掲載された2003年に新種名として認められたことになる。また、表に示す他の性状を有する菌株も、各科学雑誌でE. albertii と同一分類群に所属すると報告されたものである。これが現時点でのE. albertii の細菌分類学的位置づけである。

E. albertii の行政的位置づけの検討の必要性
一つの菌種には、名称は一つであるべきで、この原則を守るため国際細菌命名規約があり、それに基づき承認菌名リストが作られていることは言を待たない。しかし、E. albertii は、従来、Hafnia 、ボイド赤痢菌血清型13あるいは大腸菌と同定されていた菌株から構成されており、同定の困難さがうかがわれる。表の生物型1以外は、ハウスキーピング遺伝子等の塩基配列の相同性からE. albertii と同定されたもので、一般的な検査施設において簡便に実施できる検査ではない。そのため、E. albertii の簡便な同定方法あるいは非常に特徴的な生化学性状等が明らかになるまで、大腸菌との、あるいは赤痢菌との混同において多少の混乱も予測される。また感染症法上の3類感染症の病原菌であるボイド赤痢菌のうち、血清型13がすべてE.albertii であるのか、一部のみがE. albertii であるのかは、今後の検討が必要である。これらのことを速やかに検討したうえで、E. albertii の行政的位置づけあるいは取り扱いを整理する必要がある。

編集部注1eae は最初eaeA と名付けられたが、その後eaeBespB に変更されたため、eaeAeae と変更された。
編集部注2:行政的位置づけの検討をして結論が出るまで、病原体検出情報システムでは、志賀毒素を持つ本菌はEHECとし、eae のみの場合はEPECとして登録し、病原体個票の特記すべき生化学的性状欄にE. albertii と記入し報告してください。その際、同定に用いた塩基配列があれば登録してください。

 参考文献
1) Huys G, et al., Int J Syst Evol Microbiol 53: 807-810, 2003
2) Ooka T, et al., Emerg Infect Dis 18: 488-492, 2012
3) Hyma K et al., J Bacteriol 187: 619-628, 2005
4) Nataro J, et al., Escherichia, Shigella, and Salmonella, p. 670-687, In Murray P et al.,(ed), Manual of clinical microbiology, 9th edition, ASM Press, Washington, DC, 2007
5) Lindsay Oaks J, et al., Emerg Infect Dis 16: 638-646, 2010

福岡県保健環境研究所 村上光一 江藤良樹
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(国際細菌分類命名委員会、腸内細菌科分類小委員会委員) 小迫芳正
愛知学院大学薬学部 河村好章
国立感染症研究所 伊藤健一郎

 

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