国立感染症研究所

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆腸管出血性大腸菌感染症 2016年第1〜34週(2016年8月31日現在)

 

 腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、Vero毒素(Vero toxin:VTまたはShiga toxin:Stx)を産生、またはVT遺伝子を保有するEHECの感染によって起こる全身性疾病で、主訴は腹痛、水様性下痢および血便である。EHEC感染に引き続いて発症することがある溶血性尿毒症症候群(HUS)は、死亡あるいは腎機能障害や神経学的障害などの後遺症を残す可能性のある重篤な疾患である。

 2016年のEHEC感染症報告数は、第23週(2016年6月6〜12日)から増加し始め、第25週(同6月20〜26日)に週当たりの報告数が100例を超えた。第33週は、規模の大きい集団発生の影響で238例が報告された。本年第34週(同8月22〜28日)までの累積報告数2,078例は、直近4年間(2012〜2015年)の各年同週までの累積報告数と比較して、最も少ない報告数であった(2012年2,272例、2013年2,365例、2014年2,844例、2015年2,271例)。また、患者(有症状者)のみに絞った累積報告数においても、1,322例と、最も少ない報告数であった(2012年1,392例、2013年1,636例、2014年2,033例、2015年1,549例)。

 第1〜34週の累積報告数を都道府県別にみると、東京都(261例)が最も多く、次いで大阪府(142例)、神奈川県(116例)、埼玉県と兵庫県(各101例)の順であった。第25週以降に起きた集団発生(食中毒を含む)は、第28週に滋賀県の飲食店(食中毒、O157 VT1・VT2)、第32週に佐賀県の保育園(O157 VT2)、第33週に青森県の保育園(O157 VT2)でそれぞれ報告されている。

 性別では、男性が947例(46%)、女性が1,131例(54%)で、年齢群別では0〜9歳が687例(33%)、20〜29歳が330例(16%)、30〜39歳が241例(12%)、10〜19歳が235例(11%)の順であった。

 EHEC感染症の重篤な合併症であるHUSの発症は、第34週までに累計49例〔うち、女性33例(67%)〕が報告された。直近4年間の同週までの累積報告数と比較すると、2013年と並び、最も少ない報告数であった(2012年59例、2013年49例、2014年73例、2015年50例)が、届出時点で患者全体に占めるHUS発症者の割合は3.7%で、2012年に次いで2番目に高かった(2012年4.2%、2013年3.0%、2014年3.6%、2015年3.2%)。年齢群別では0〜4歳が19例で最も多く、次いで5〜9歳が9例と、10歳未満の小児でHUS症例全体の57%を占めた。例年同様、女性と低年齢の小児で発症が多く報告されている。血清群別ではO157が26例(53%)で、そのうちO157 VT2が15例(58%)であった。

 届出時点におけるEHEC感染症の脳症は2例(うち1例はHUS発症)、死亡は6例(うち2例はHUS発症)報告されている。死亡例の年齢群は、0〜4歳1例、30代1例、60代2例、80代1例、90代1例であった。

 EHECは少量の菌数(10〜100個程度)でも感染が成立し、人から人への経路、または人から食材・食品への経路等で感染が拡大しやすい。EHEC感染症が多発する夏季は、食肉の十分な加熱処理、食材・調理器具の十分な洗浄や手洗いの励行などを行うことにより、食中毒の予防を徹底することが重要である。また、調理食品は速やかに喫食し、長時間室温放置せず、冷蔵庫や冷凍庫に保存することも重要である。特に、低年齢の小児はEHEC感染とその後のHUS発症のリスクが高いため、肉・レバーなどは十分に加熱してから喫食することが必要である。肉やレバーの生食はEHECに汚染されている可能性が否定できないため控えることが必要である。焼く前の生肉などに使用する箸は使い分けることなどにも注意が肝要である。

 2011年、2012年の牛生肉・牛生レバー規制強化後、「牛生肉」または「牛生レバー」喫食の記載があったO157の報告数は対策実施前に比較して減少したが、「牛生肉」または「牛生レバー」の喫食者が一定数報告されている。継続的に「牛生肉」または「牛生レバー」の喫食者によるO157発生報告の状況のモニタリングを行い、リスク評価を行っていくことが重要である。

 下痢や腹痛等の症状がある場合は、人から人への二次感染を予防するための注意が必要である。毎年保育施設における集団発生が多くみられており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。高齢者施設でも集団発生はみられており、小児や高齢者での経口感染予防や早期受診が重要である。

 また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに、過去には動物とのふれあい体験での感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後の十分な手洗いや消毒が必要である。

 腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:

 

●腸管出血性大腸菌感染症
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/ehec.html
●腸管出血性大腸菌感染症 2016年速報データ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/ehec/550-idsc/5269-ehec-sokuhou-2016.html
●IASR 腸管出血性大腸菌感染症 2016年4月現在
http://www.nih.go.jp/niid/ja/ehec-m/ehec-iasrtpc/6472-435t.html
●IASR 腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2015年
http://www.nih.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2344-iasr/related-articles/relatedarticles-435/6480-435r08.html
●IASR 牛生肉・牛生レバー規制強化後の牛生肉および牛生レバーを原因とする腸管出血性大腸菌O157発生状況
http://www.nih.go.jp/niid/ja/ehec-m/ehec-iasrd/6688-438d03.html
●病原微生物検出情報(グラフ)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1524-iasrgb.html
●病原微生物検出情報(集計表)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/511-surveillance/iasr/tables/1525-iasrb.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)「腸管出血性大腸菌感染症(2015年7月22日現在)」
http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2015/idwr2015-29.pdf
●感染症発生動向調査週報(IDWR)「保育所における腸管出血性大腸菌感染症集団発生事例の増加」
http://www.nih.go.jp/niid/ja/ehec-m/ehec-idwrc/4231-idwrc-1350.html
●Kanayama A et al. Enterohemorrhagic Escherichia coli outbreaks related to childcare facilities in Japan, 2010-2013. BMC Infect Dis. 2015 Nov 20;15:539.

 

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