注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症(2013年7月24日現在)
2013年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第19週までは20例以下の報告が続き、第20週から増加し始めた。第26週に130例と100例を超え、第27週154例、第28週169例で第29週は135例であった(図1)。本年第29週までの累積報告数1,206例は、2000年以降の各年の同週までの累積報告数と比較して2003年に次いで2番目に少ない報告数である(2000年1,300例、2001年1,824例、2002年1,407例、2003年1,015例、2004年1,406例、2005年1,391例、2006年1,321例、2007年1,576例、2008年1,443例、2009年1,369例、2010年1,603例、2011年1,616例、2012年1,264例)。また、患者(有症状者)に絞った累積報告数は833例であり、2007年以降*で比較すると2012年に次いで2番目に少ない(2007年1,059例、2008年983例、2009年895例、2010年1,017例、2011年1,083例、2012年794例)(図2)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(2000~2013年第29週) |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症患者(有症状者)の年別・週別累積報告数の推移(2007~2013年第29週) |
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第1~29週の累積報告数1,206例について都道府県別にみると、東京都(113例)が最も多く、次いで愛知県(64例)、兵庫県(63例)、神奈川県(58例)、福岡県(58例)の順となっている〔速報グラフ(PDF)2013年第29週「都道府県別腸管出血性大腸菌感染症累積報告状況」参照; http://www.niid.go.jp/niid/ja/ehec-doko.html〕。
性別では男性524例、女性682例、年齢群別では0~9歳297例(うち5歳未満171例)、20~29歳207例、10~19歳171例の順に多かった。
集団発生として、第26週に兵庫県の保育園(O157 VT1・VT2)、静岡県の幼稚園(O157 VT1・VT2)、第27週に埼玉県の保育園(O157 VT1・VT2)、第28週に佐賀県の高齢者福祉施設(O157 VT1)などからそれぞれ報告されている。
腸管出血性大腸菌感染症の重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第29週までに累計23例(男性8例、女性15例)報告されており、年齢群別では0~4歳11例、15~64歳5例、5~9歳4例、65歳以上2例、10~14歳1例であった。死亡例は報告されていない。
毎年本症が数多く発生する夏季に入り、その発生動向には引き続き注意が必要である。食肉の十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに、過去には動物とのふれあい体験での感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意が必要である。
* 腸管出血性大腸菌感染症の届出基準は、2006年4月よりHUS発症例に限って、菌分離されていなくても、便からのVT検出あるいは血清でのO抗原凝集抗体又は抗ベロ毒素抗体の検出によって診断した場合に届出することとなった。
(補)菌の検出状況については、 (グラフ) http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1524-iasrgb.html (集計表) http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/511-surveillance/iasr/tables/1525-iasrb.htmlをご参照ください。
国立感染症研究所 感染症疫学センター 齊藤剛仁 金山敦宏 加納和彦 八幡裕一郎 中島一敏 砂川富正 大石和徳
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