国立感染症研究所

国立感染症研究所 感染症疫学センター
同 寄生動物部
2020年6月3日現在
(掲載日:2020年6月4日)

アメーバ赤痢は赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)原虫により引き起こされ、下痢や血便などの消化器症状を起こし、時に肝臓などの臓器に膿瘍を作る1E. histolyticaに感染したヒトのうち10~20%が発症すると言われている2。原虫の感染は、主に赤痢アメ−バシスト(嚢子)に汚染された飲食物の経口摂取や感染者との性的接触により成立する。診断は便や病原部検体からの顕微鏡下での病原体の検出、ELISA法による病原体抗原の検出、PCR法による病原体遺伝子の検出、又は血清抗体の検出により行われる。

アメーバ赤痢は感染症法に基づく5類全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に届出することとされている。2012年以降2014年にかけて、感染症法に基づく感染症発生動向調査では、年間報告数が増加傾向であった3, 4。今回は、2014年から2019年(2019年は2020年6月3日時点暫定値)までの感染症発生動向調査の届出をまとめた。

年間報告数は、2014年から2017年までは1,000例を超えていたが、2018年以降減少し、800例台で推移していた(図1)。

図1. アメーバ赤痢症例年間報告数2007年‐2019年(*2019年は2020年6月3日時点暫定値)

2014年から2019年までに合計6,181例が報告されていた。性別は男性が88-90%と多く、診断時年齢の中央値は2014年から2017年までは50-51歳,2018年53歳、2019年54歳と上昇傾向であった(表)。

病型は腸管アメーバ症が最も多く,その割合は2014年から2017年まで80%台で推移しており、2018年以降は90%を超えていた。 感染経路は、2014年から2019年まで、経口感染単独と記載された症例が20%前後、性的接触感染単独と記載された症例が30%前後であった。

検査方法は、2014年は鏡検単独が最も多く73%で、次いで血清抗体単独が16%、鏡検及び血清抗体併記が9%であった。2016年は67%、2017年は66%と鏡検単独が減少傾向であった。一方、血清抗体単独は、2016年は18%、2017年は20%で増加傾向であった。2018年以降、診断方法の内訳は大きく変化し、鏡検単独が93%へと増加、血清抗体単独が1%へと減少した。病型別にみると、2014年から2017年まで血清抗体法による診断が、腸管アメーバ症例では10%前後、腸管外アメーバ症例では70%前後で推移していたが、2018年以降共に大幅に減少した。それと同時に腸管外アメーバの報告数も2018年以降大きく減少していた(表、図2)。

血清学的検査の一つであるIFA法(間接蛍光抗体法)は、侵襲性アメーバ赤痢(腸炎,肝膿瘍,虫垂炎など)疑い症例に対する診断ツールとして、また、潜伏性赤痢アメーバ持続感染が起こっているものの無症状である患者を含め探知可能な方法であったが5、2017年末より検査試薬製造が中止となった6。IFA法の検査試薬製造が中止となった後に、IFA法のみで大きな減少が見られた前後関係から、真の減少でない可能性がある。感染症発生動向調査におけるアメーバ赤痢報告数の推移は、この点に注意して解釈していく必要がある。なお、アメーバ赤痢診断のための抗原検出キットの保険適用が予定されており、また抗体検査の有用性の再評価を通して改めて保険適用を申請するための研究も進んでいる。

表. アメーバ赤痢症例情報 2014年-2019年* (*2019年は2020年6月3日時点暫定値)
※診断方法「その他」は、鏡検+血清抗体以外の複数選択(鏡検+PCRなど)を含む
 
図2. 2014年‐2019年*に報告されたアメーバ赤痢症例における病型別診断方法別報告数推移 (*2019年は2020年6月3日時点暫定値)

 

参考文献
  1. 厚生労働省 アメーバ赤痢.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-01.html
  2. CDC Parasites - Amebiasis - Entamoeba histolytica Infection.https://www.cdc.gov/parasites/amebiasis/general-info.html
  3. IASR 2016; 37(12) アメーバ赤痢 2007年第1週~2016年第43週. https://www.niid.go.jp/niid/ja/entamoeba-histolytica-m/entamoeba-histolytica-iasrtpc/6941-442t.html
  4. Ishikane M, Arima Y, Kanayama A, Takahashi T, Yamagishi T, Yahata Y, Matsui T, Sunagawa T, Nozaki T, Oishi K. Epidemiology of Domestically Acquired Amebiasis in Japan, 2000-2013. Am J Trop Med Hyg. 2016 May 4;94(5):1008-14.
  5. IASR 2016; 37(12)  血清抗赤痢アメーバ抗体検査:潜伏性赤痢アメーバ持続感染者スクリーニングとしての可能性.https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2351-iasr/related-articles/related-articles-442/6948-442r06.html
  6. 衛生微生物技術協議会第39回研究会(滋賀)レファレンスセンター等報告.https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/reference/H30_Parasitology.pdf

 


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