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一過性の麻痺を呈した患者からのエンテロウイルス71型の検出―青森県

(IASR Vol. 33 p. 310-311: 2012年11月号)

 

2012年7月に青森県G市の定点医療機関から搬入された麻痺を呈した患者検体から、エンテロウイルス71型(EV71)が検出されたのでその概要について報告する。

症例は1歳4カ月男児。7月12日にポリオ生ワクチン(OPV)接種(2回目)、翌日から発熱、咳を認め、7月13日近医に受診し、上気道炎と診断された。発熱は13日、14日、15日まで続き、7月16日に解熱したが、18日から再び発熱し、7月20日には発熱(38.9℃)、咳、鼻水を呈し、G市内総合病院を受診し、気管支炎と診断された。7月22日に解熱したが左足を引きずる様子がみられ、23日にはハイハイしかできず、いつもはできていた歩行やつかまり立ちができなくなり、G市内総合病院を再受診し、一過性の小脳失調疑いと診断され、経過観察となった。一般状態は良好だが、歩行は不能のままで立ち上がることもできないため、7月25日、再受診し、精査目的で入院となった。入院当日に頭部のMRI検査を実施したが所見はみられず、髄液検査では細胞数34/μl、蛋白39 mg/dl、糖54 mg/dlであった。7月26日に全脊椎のMRI検査を実施したが、所見はみられず、同日3回一瞬つかまり立ちした。7月27日にはつかまり立ちができ、7月28日には歩行可能となった。また、口腔内にアフタが散見され、7月29日手足にも発疹が出現し、手足口病と診断され、普段どおりに歩行可能となり退院となった。

ウイルス遺伝子検出および分離培養は、7月27日に採取された咽頭ぬぐい液、糞便、直腸ぬぐい液、髄液を用いた。遺伝子検出にはエンテロウイルスVP4-VP2領域を増幅するプライマーを用い、ダイレクトシークエンスにより同定した。分離培養には、GMK、L20B、RD-A、HEp-2、HeLa、RD、Vero E6の7種類の細胞を使用した。結果、咽頭ぬぐい液からEV71が検出および分離され、糞便および直腸ぬぐい液からもEV71が分離された。髄液からは検出および分離されなかった。分離された細胞はいずれもGMK、RD-A細胞であった。また、EV71は、A、B1~5 、C1~5ゲノグループに分類され、今回検出および分離されたEV71をVP4-VP2領域の系統解析した結果、C2ゲノグループに属した()。麻痺発症後の各種検体からEV71が検出されたが、ポリオウイルスは検出されなかった。OPV接種と一過性麻痺発症の関連は不明だが、EV71感染による中枢神経疾患が疑われる。

今年9月から経口ポリオ生ワクチンから不活化ポリオワクチンへ切り替わることに伴い、ポリオウイルスのサーベイランスの重要性が高まっていることから、今後は麻痺などの中枢神経症状を呈した患者について、注意深くウイルス検索を行う必要がある。

 

参考文献
1) 吉田 弘, 他, IASR 30: 10-12, 2009
2) UK Standards for Microbiology Investigations
  http://www.hpa.org.uk/webc/HPAwebFile/HPAweb_C/1317133980627

 

青森県環境保健センター 筒井理華 東海林彰 古川紗耶香 三上稔之
つがる西北五広域連合西北中央病院小児科 沖 栄真
国立感染症研究所ウイルス第二部 吉田 弘

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