<速報>平成25年度感染症流行予測調査事業ポリオ環境水調査期間中(2013年4~12月)に検出されたエンテロウイルスについて
(掲載日 2014/10/7) (IASR Vol. 35 p. 275-276: 2014年11月号)
わが国は平成25(2013)年度感染症流行予測調査事業感染源調査にてポリオ環境水サーベイランスを開始した。ポリオウイルス感染のほとんどは不顕性であるため、ウイルスがヒト集団中に侵入した場合、効率よく探知する必要性がある。本調査は経口生ポリオワクチン(OPV)に代わり、平成24(2012)年9月以降、定期接種を開始した不活化ポリオワクチン導入に合わせ、今後想定される輸入ポリオウイルス監視のために開始した。
環境水サーベイランスは、流入下水を材料とするため、ヒト集団に循環する腸管系ウイルスを、顕性、不顕性にかかわらず検出できる。従ってポリオウイルス以外にエンテロウイルス他、各種腸管系ウイルスも検出される。
平成25年4月前後から、8地方衛生研究所(地衛研)(青森、岩手、福島、富山、愛知、岐阜、和歌山、福岡)は流行予測調査事業として、5地衛研(横浜市、浜松市、大阪府、堺市、宮崎県)は調査研究として、順次環境水調査を開始した。各自治体の下水処理場を定点(1~3カ所)として定め、流入下水を月1回採水し、ウイルス分離を行った。なお、下水利用人口は延べ約450万人である。平成26(2014)年8月現在、上記13カ所でポリオウイルスは検出されていない。本調査はポリオウイルスの有無を調べるものだが、(1)ポリオ以外のウイルス、(2)調査対象期間外(ポリオ環境水調査事業は通知発出後6カ月を想定)、に関しては各地衛研独自の調査研究である。今般、副次的に検出されたエンテロウイルスについて、調査研究の概要を報告する。
方法:平成25年度感染症流行予測調査事業実施要領1)に基づき、下水流入水(500ml~1L)を、4℃で3,000rpm、30分間粗遠心後、上清に塩化マグネシウムを添加(最終濃度0.05M)、pH3.5に調整後、陰電荷膜を用いてろ過(ウイルス吸着)、吸着後、膜より3%ビーフエキストラクト存在下でウイルス誘出を行い50~100倍濃縮液を得た。大阪府は約200mlの下水を用いポリビニルピロリドンによる濃縮(20倍)を行った。
濃縮産物をウイルスに対する感受性の異なる3~6種類の培養細胞に0.05~0.1mlずつ接種した。分離株はL20Bに再接種し、ポリオの有無の確認を行った。非ポリオウイルスは中和試験法(EP95プール抗血清、デンカ生研エンテロ抗血清)、VP4-VP2あるいはVP1領域PCR-ダイレクトシークエンスにより同定した。
結果と考察:平成25年4~12月までの調査で環境水より検出されたウイルスの種類と時期を図に示す。代表的なものとしてコクサッキーウイルスB3型(CB3)は全13カ所にて検出、CB5、エコーウイルス11型(E11)は9カ所、CB4、E6は7カ所より検出された。また、2カ月以上同一地点で検出されたウイルスはCB1、CB2、CB3、CB4、CB5、E6、E7、E11、E18、E25であった。複数箇所で検出、あるいは2カ月以上検出されているウイルスは、前者が広域伝播、後者は地域内流行している可能性を示唆する。
ただし、エンテロウイルス調査は独自の調査研究であるため、検査対象、用いる細胞、開始時期等は地衛研で異なり、図で示したウイルスの種類、期間等のデータは慎重に解釈する必要がある。また、非ポリオエンテロウイルス(NPEV)の同定は、必須としていないため、未同定のものはNPEVとして図に示している。
エンテロウイルスのゲノム解析は各地衛研で実施中の方法(中和法、VP4-VP2部分領域あるいはVP1領域)に基づいたため、ゲノム情報の全国的な比較は行っていない。GenBankに登録されている海外のエンテロウイルスの情報の多くはVP1領域である。このため国内外の伝播解析を行うために、VP1共通領域の配列を調べてゆく予定である。
謝辞:調査開始にあたり関係自治体、保健所、下水処理場のご協力をいただいている。厚くお礼申し上げる。本報告は厚生労働科学研究費補助金による支援を受けた。
- 平成25年度感染症流行予測調査実施要領
http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2013-99.pdf
愛知県衛生研究所 伊藤 雅
宮崎県衛生環境研究所 岩切 章
堺市衛生研究所 内野清子
横浜市衛生研究所 小澤広規
福島県衛生研究所 北川和寛
岐阜県保健環境研究所 葛口 剛
和歌山県環境衛生研究センター 下野尚悦
浜松市保健環境研究所 神保達也
岩手県環境保健研究センター 高橋雅輝
富山県衛生研究所 板持雅恵
青森県環境保健センター 筒井理華
福岡県保健環境研究所 濱﨑光宏
大阪府立公衆衛生研究所 山崎謙治 中田恵子
国立感染症研究所ウイルス二部 吉田 弘