注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆インフルエンザ
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられる。主な感染経路は咳、くしゃみ、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物に触れた手指を介した接触感染もある。感染後、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続くが、いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴である。通常は1週間前後の経過で軽快する。
2015/2016年シーズンのインフルエンザの流行状況は、2015年第36週以降低水準で推移していたが(インフルエンザの年別・週別発生状況:http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1644-01flu.html)、年末から定点医療機関当たりの報告数の継続的な増加が見られ(第51週:0.46、第52週:0.76、第53週:0.89)、2016年第1週(2016年1月4〜10日:2016年1月13日現在)では定点当たり報告数は2.02となり、初めて全国的な流行開始の指標である1.00を上回った。定点医療機関からの報告をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数を推計すると、第1週は約13万人(95%信頼区間:12〜14万人)となり、前週(約6万人)の推計値よりも増加した。2015年第36週以降これまでの累積の推計受診者数は約34万人となった。年齢別では、2016年第1週では、20代、30代、40代がそれぞれ約2万人、0〜4歳、5〜9歳、10〜14歳、15〜19歳、50代、60代、70歳以上がそれぞれ約1万人であり、成人にやや多い特徴がみられた。
基幹定点からのインフルエンザによる入院患者数(インフルエンザ入院サーベイランス)の状況については、第36週以降20例未満で推移していたが、第51週から増加し、第1週は169例の報告であった。年齢別では、今シーズンの累積入院患者数は15歳未満が170例(37.9%)、70歳以上の高齢者が160例(35.7%)となった(インフルエンザの発生状況について:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html)。
2016年第1週の定点当たりの報告数は、全都道府県で前週よりも増加した。国内のインフルエンザの定点当たり報告数をみると、2015年第49週まで沖縄県を除き1.00を下回っていたが、第1週の定点当たり報告数では、沖縄県(8.19)、秋田県(7.85)、新潟県(5.73)、北海道(4.84)、千葉県(2.49)、福島県(2.47)、岩手県(2.40)、鳥取県(2.31)、茨城県(2.29)、青森県(2.18)、滋賀県(2.17)、岐阜県(2.13)、埼玉県(2.06)の順となり、沖縄県以外では東日本の自治体から多くの報告がなされた。
インフルエンザウイルスの検出状況として、直近の5週間(2015年第50週〜2016年第1週)ではAH3亜型、AH1pdm09の検出割合がほぼ同程度で、次いで、B型の順であった(2016年1月13日現在)。しかし、年末年始の時期を挟み、検査数は少ないことから全体の傾向についてはこの時点で明らかではない。
例年のインフルエンザ流行は、11月末から12月にかけて始まり、1月末から2月上旬にかけてピークとなることが多いが、2015/2016年シーズンは例年と比較すると、流行の開始時期が、1カ月程度遅い〔今冬のインフルエンザについて(2014/15シーズン):http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1415.pdf〕。過去11シーズンで1月に入って流行入りの指標を超えたのは、今シーズン以外では2004/2005年シーズン、2006/2007年シーズンに観察されており、ピークが2月後半〜3月にずれ込むなどの状況は観察されたが、ピーク時の定点当たり報告数についてはそれぞれ50.07(第9週)、32.95(第11週)であり、流行が低く推移したわけではなかった(http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/813-idsc/map/130-flu-10year.html)。
インフルエンザの感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット(有症者自身がマスクを着用し、咳をする際にはティッシュやハンカチで口を覆う等の対応を行うこと)、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生を徹底することが重要である。高齢者における感染への警戒の観点から、医療・福祉施設へのウイルスの持ち込みを防ぐために、関係者が個人で出来る予防策を徹底すると同時に、訪問者等においては、インフルエンザの症状が認められる場合、訪問を自粛してもらう等の工夫が重要である。なお、65歳以上の高齢者、又は60〜64歳で心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方は、予防接種法上の定期接種の対象となっている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/influenza/)。
今後のインフルエンザの感染症発生動向調査には注意をしていただくとともに、詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●感染症発生動向調査週報(IDWR)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html
●インフルエンザの発生状況について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkakukansenshou01/houdou.html
●インフルエンザ流行レベルマップ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-map.html
●今冬のインフルエンザについて(2014/15シーズン)
http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1415.pdf
●インフルエンザQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
●インフルエンザ啓発ツール
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/keihatu.html
●平成27年度今冬のインフルエンザ総合対策について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/influenza/
●Influenza Situation Update
http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/Influenza/en/
国立感染症研究所 感染症疫学センター