注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆インフルエンザ
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられる。主な感染経路は咳、くしゃみ、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物に触れた手指を介した接触感染もある。感染後、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続くが、いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴である。通常は1週間前後の経過で軽快する。
2015/2016年シーズン〔2015年第36週(2015年8月31日〜9月6日)以降〕のインフルエンザの流行状況は、2015年第36週以降低水準で推移していたが(インフルエンザ過去10年間との比較グラフ:http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/813-idsc/map/130-flu-10year.html)、年末から定点医療機関当たりの報告数の継続的な増加が見られ、2016年第1週では定点当たり報告数は2.02となり、初めて全国的な流行開始の指標である1.00を上回った。2016年第4週(2016年1月25〜31日:2016年2月3日現在)では定点当たり報告数は22.57と前週の約2倍に増加した。また、都道府県別の定点当たりの報告数でも、全都道府県で前週よりも増加した。その推移をみると、2015年第53週までは東日本の自治体から多くの報告がなされていたが、第4週の定点当たり報告数では全国から多くの報告がなされ、新潟県(39.44)、沖縄県(34.29)、福岡県(31.88)、神奈川県(31.64)、埼玉県(30.30)、千葉県(29.16)、愛知県(28.49)、北海道(27.15)、茨城県(26.73)、東京都(25.98)、岐阜県(24.32)、山口県(23.43)、長崎県(23.13)、山梨県(22.60)の順となった。
定点医療機関からの報告をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数を推計すると、2016年第4週は約107万人(95%信頼区間:98〜116万人)となり、前週の推計値(約52万人)よりも増加した。性別では、男性が約55万人(51%)で、年齢別では、5〜9歳が約27万人、10〜14歳が約15万人、0〜4歳が約14万人、30代、40代がそれぞれ約12万人、20代、50代がそれぞれ約7万人、15〜19歳、60代がそれぞれ約5万人、70歳以上が約3万人となっており、15歳未満が約56万人(52%)であった。今シーズンのこれまでの累積の推計受診者数は約216万人となり、性別では、男性が52%、年齢別では、15歳未満が47%、30代〜40代が25%、70歳以上が3%と推計され、15歳未満が多く70歳以上の高齢者が少ない特徴がみられた。
基幹定点からのインフルエンザによる入院患者数(インフルエンザ入院サーベイランス)の状況については、2015年第36週以降20例未満で推移していたが、2015年第51週から増加し、2016年第4週は739例の報告であった。2016年第4週では、年齢別では、15歳未満が359例(49%)、70歳以上の高齢者が213例(29%)であった。今シーズンのこれまでの累積入院患者数は1,936例となり、15歳未満が835例(43%)、70歳以上の高齢者が627例(32%)となり、小児と高齢者が多い特徴がみられた。
インフルエンザウイルスの検出状況として、直近の5週間(2015年第53週〜2016年第4週:2016年2月3日現在)ではAH1pdm09の検出割合が多く、次いでB型、AH3亜型の順であった(インフルエンザウイルス分離・検出速報:http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html)。なお、AH1pdm09の検出割合が多い傾向は米国(CDC FluView:http://www.cdc.gov/flu/weekly/index.htm#S1)、欧州(ECDC Seasonal influenza:http://ecdc.europa.eu/en/healthtopics/seasonal_influenza/epidemiological_data/Pages/Latest_surveillance_data.aspx)、西太平洋地域(WPRO Influenza Situation Update:http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/influenza-20160202.pdf?ua=1)でも確認されており、今後の動向を注視する必要がある。
例年のインフルエンザ流行は、11月末から12月にかけて始まり、1月末から2月上旬にかけてピークとなることが多いが、2015/2016年シーズンは例年と比較すると、流行の開始時期が1カ月程度遅い〔今冬のインフルエンザについて(2014/15シーズン):http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1415.pdf〕。過去11シーズンで1月に入って流行入りの指標を超えたのは、今シーズン以外では2004/2005年シーズン、2006/2007年シーズンに観察されており、ピークが2月後半〜3月にずれ込むなどの状況は観察されたが、ピーク時の定点当たり報告数についてはそれぞれ50.07(第9週)、32.95(第11週)であり、流行が低く推移したわけではなかった(インフルエンザ過去10年間との比較グラフ:http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/813-idsc/map/130-flu-10year.html)。
インフルエンザの感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット(有症者自身がマスクを着用し、咳をする際にはティッシュやハンカチで口を覆う等の対応を行うこと)、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生を徹底することが重要である。高齢者における感染への警戒の観点から、医療・福祉施設へのウイルスの持ち込みを防ぐために、関係者が個人で出来る予防策を徹底すると同時に、訪問者等においては、インフルエンザの症状が認められる場合、訪問を自粛してもらう等の工夫が重要である。なお、65歳以上の高齢者、又は60〜64歳で心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方は、予防接種法上の定期接種の対象となっている(平成27年度 今冬のインフルエンザ総合対策について:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/influenza/)。
今後のインフルエンザの感染症発生動向調査には注意をしていただくとともに、詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●感染症発生動向調査週報(IDWR)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html
●インフルエンザの発生状況について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkakukansenshou01/houdou.html
●インフルエンザ流行レベルマップ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-map.html
●今冬のインフルエンザについて(2014/15シーズン)
http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1415.pdf
●インフルエンザQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
●インフルエンザ啓発ツール
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/keihatu.html
●平成27年度今冬のインフルエンザ総合対策について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/influenza/
●WPRO Influenza Situation Update
http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/Influenza/en/
●CDC FluView
http://www.cdc.gov/flu/weekly/index.htm#S1
●ECDC Seasonal influenza
http://ecdc.europa.eu/en/healthtopics/seasonal_influenza/epidemiological_data/Pages/Latest_surveillance_data.aspx
国立感染症研究所 感染症疫学センター