注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。 インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられる。主な感染経路は咳、くしゃみ、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物に触れた手指を介した接触感染もある。感染後、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続くが、いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴である。通常は1週間前後の経過で軽快する。
例年のインフルエンザの流行は、11月末から12月にかけて始まり、1月末から2月上旬にかけてピークとなることが多い〔今冬のインフルエンザについて(2015/16シーズン):http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1516.pdf〕。前シーズンである2015/2016年シーズンは流行の開始時期が1カ月程度遅く、2016年第1週であったが(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2016/idwr2016-04.pdf)、2016/2017年シーズンのインフルエンザは、定点当たり報告数の増加が例年より早く、2016年第46週に定点当たり報告数は1.38となり、初めて全国的な流行開始の指標である1.00を上回った。その後、年内の増加は比較的緩やかで、年明けより急激に増加し、2017年第4週(前週)の定点当たり報告数は39.41まで上昇した。2017年第5週(2017年1月30日〜2月5日:2017年2月8日現在)では定点当たり報告数が38.14で、前週より微減した(インフルエンザの年別・週別発生状況:http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1644-01flu.html)。都道府県別では、2016年第52週までは東日本の自治体から報告が多く、その後、西日本の自治体からの報告も多くなった。第5週の定点当たり報告数では、福岡県(55.03)、宮崎県(54.02)、愛知県(51.44)、高知県(50.60)、大分県(49.62)、山口県(49.22)、埼玉県(47.06)、千葉県(45.27)、福井県(44.47)、三重県(44.19)の順に多く報告された。第4週が全47都道府県でその前週より多い定点当たり報告数が見られていたのに対して、第5週では19道府県で前週の定点当たり報告数よりも増加が見られたが、28都府県では前週の定点当たり報告数よりも減少が見られた。
定点医療機関からの報告をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を1週間に受診した患者数を推計すると、2017年第5週は約199万人(95%信頼区間:184〜214万人)となり、前週の推計値(約201万人)よりも微減した。例年のピーク時の水準である週間200万人前後の推計受診患者数が継続している。年齢別では、5〜9歳が約36万人、10〜14歳が約30万人、0〜4歳、40代がそれぞれ約20万人、30代が約18万人、70歳以上が約17万人、15〜19歳が約16万人、20代、50代がそれぞれ約15万人、60代が約12万人となっている。なお、2016年第36週以降これまでの累積の推計受診者数は約947万人となった。また、第1週以降の直近5週間の定点医療機関の受診患者の男女比は、15歳未満の年齢群では1:0.9とやや男性に多く、30代から50代の年齢群では1:1.3と女性に多かった。
基幹定点からのインフルエンザ患者の入院報告数(インフルエンザ入院サーベイランス)は、直近の第5週が1,505例で、前週の1,610例よりも減少した。なお、現時点で、今シーズンの累積入院報告数は70歳以上の高齢者が4,621/8,017例(58%)と半数以上を占めている(インフルエンザの発生状況について:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html)。
インフルエンザウイルスの検出状況をみると、直近の5週間(2017年第1〜5週)ではAH3亜型の検出割合が最も多く92.7%、次いでB型5.6%(山形系統とビクトリア系統の割合は2:3)、AH1pdm09が1.7%であった(インフルエンザウイルス分離・検出速報:http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html、病原微生物検出情報2017年2月10日)。AH3亜型に関するHA遺伝子系統樹の解析については、2015/2016年シーズンにクレード3C.2a内に出現したサブクレード3C.2a1株が増加傾向にあり、2016/2017年シーズンに解析が実施出来た株の78.6%を占めている。残る21.4%の株はクレード3C.2aに属しており、クレード3C.3aに属する株は検出されていない(2016年12月26日現在)(http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/2382-flu/flu-antigen-phylogeny/6987-2016-12-28.html)。また2017年2月8日現在、分離・解析されたウイルス株は全てオセルタミビル、ペラミビル、ザナミビル、およびラニナミビルに対して感受性である(抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス:http://www.niid.go.jp/niid/ja/influ-resist.html)。
2017年第5週の定点当たり報告数は前週の定点当たり報告数よりも減少したが、現在も全国的に報告数が多い状況が継続している。また、例年はピークを越えてからB型の割合が増加 する為、今後の動向についても注意が必要である。
今後も飛沫感染対策としての咳エチケット(有症者自身がマスクを着用し、咳をする際にはティッシュやハンカチで口を覆う等の対応を行うこと)、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生を徹底することが重要である。高齢者における感染への警戒の観点から、医療・福祉施設へのウイルスの持ち込みを防ぐために関係者が個人で出来る予防策を徹底すると同時に、訪問者等においては、インフルエンザの症状が認められる場合の訪問を自粛してもらう等の工夫が重要である。
今後のインフルエンザの感染症発生動向調査には注意をしていただくとともに、詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
国立感染症研究所 感染症疫学センター |