国立感染症研究所

国内でよくみられる侵襲性真菌症

~カンジダ症~

 

2019年の「真菌症週間」について

“真菌感染症への気付き”を推進する週です。この取り組みは米国疾病予防管理センター(CDC)の呼びかけにより、各国各地域で問題となる真菌症の認知度をあげ、重症の真菌感染症の患者さんの救命につなげることを目的としています。

(https://www.cdc.gov/fungal/awareness-week.html)

 

2019年の真菌症週間は9月23日~27日で、日本ではカンジダ症を取り上げます。表在性真菌症である口腔咽頭カンジダ症は、エイズ指標疾患のなかでも国内ではニューモシスチス肺炎についで二番目に多い疾患で、エイズ診断のきっかけとしても重要です。また、深在性真菌症のカンジダ血症は国内で最も頻度の高い侵襲性真菌症で、年間1万例前後の発症と推定されています。

 


 

 

1. 症状

カンジダ属による感染症は大きく分けて表在性カンジダ症と深在性カンジダ症とがある。

表在性カンジダ症の代表的な疾患としては、口腔咽頭カンジダ症 (鷲口瘡)、外陰・膣カンジダ症、カンジダ皮膚炎などがある。口腔咽頭カンジダ症では、粘膜に白苔が認められ口腔異常感、味覚異常や疼痛など自覚される。外陰・膣カンジダ症では掻痒感、無臭の帯下、排尿痛が症状として現れる。カンジダ皮膚炎は皮膚の慢性的な浸軟によっておこるカンジダ菌体成分に対する過敏反応によるものであり、限局的に掻痒またはひりひりとした痛みを伴う紅斑を呈する1

深在性カンジダ症は、カンジダ属が深部臓器・組織に侵襲し、全身性の播種性病変として複数の臓器に病変を形成する。わが国では一般にカンジダ血症として認められ治療されるため播種性病変が顕在化することは少ないが、いずれの場合も重篤な病態を呈する。肝臓、脾臓、腎臓、心臓(内膜)、眼, 骨、中枢神経系などに播種する。カンジダ血症を発症した場合、最大80%がカンジダ眼内炎を合併するとされるが、カンジダ血症に対し速やかに抗真菌薬療法が実施されるわが国では2~9%程度が脈絡網膜炎を合併すると報告されている1

 

2. 病原体

最も頻度の高い原因菌はCandida albicansであり、ついでCandida glabrataCandida parapsilosis、Candida tropicalisなどである2。この4菌種でカンジダ症原因菌90%以上が占められるが、そのほかCandida krusei、Candida guilliermondii、Candida kefyr、Candida lusitaniaeなどによるカンジダ症も近年増加する傾向にある3C. glabrataC. kruseiは、アゾール系薬に低感受性を示す株が多く、治療の際には注意を要する。また、近年、Candida aurisによる院内アウトブレイクが相次いで報告されており、伝播のしやすさ、耐性発生率の高さなど、他のカンジダ属とは異なる特徴から、本菌種への注目が高まっている。

カンジダ属は、わが国における菌血症の主要な病原体であることが日本院内感染サーベイランス(JANIS)の成果として示されている。頻度が高いことに加え、カンジダ血症の致命率が30~50%程度と高いことと併せて、カンジダ血症は黄色ブドウ球菌等による菌血症と同様に極めて重要な血流感染症である。C. albicansは全血液分離菌の2%を占めているが、non-albicans菌種が同程度以上の割合で分離されることを考慮すれば血液培養陽性例の4~5%からカンジダ属が検出されていると推定される。

Candida albicans

 

 

3. 検査

カンジダ症の確定診断は病変部からの培養検査である。顕微鏡検査、病理組織学的検査によって真菌の存在や侵襲は確定できるので真菌症としての確定診断は可能であるが、菌属や種の同定は困難である。カンジダ属は口腔内、皮膚など人体に広範に常在するため、検出されても検体の種類によっては原因菌と断定できない場合があり注意する。補助診断として非特異的ではあるがβ-D-グルカン測定が有効である。カンジダ抗原検査もあるが、感度や特異度に問題があり使用頻度は低い。β-D-グルカン検査は多くの深在性真菌症で陽性となるため、臨床経過が疾患に適合するかの判断が必要である。カンジダ血症では血液培養が最も重要である。カンジダ血症と診断された場合、眼底検査を行い、眼内炎を確認することが推奨される。

 

4. 治療

カンジダ血症および播種性カンジダ症の治療では,カテーテルの抜去、抗真菌薬の有効性評価、真菌陰性化後の2週間以上の抗真菌薬継続などが重要である4。エキノキャンディン系やアゾール系抗真菌薬が第一選択薬となっている。C. glabrataC. kruseiのようなアゾール耐性あるいは低感受性菌にはエキノキャンディン系抗真菌薬が使用される。アムホテリシンBリポソーム製剤は、他の抗真菌薬に不耐、無効の場合や重症の場合に使用される。中心静脈カテーテルは可能であれば早期に抜去する4

 

5. Candida aurisについて  

C. aurisは本邦で耳漏より分離され、新規のカンジダ属として2009年に帝京大学の槇村・山口らにより報告された種である5。2009年の本邦からの報告以降、短期間で複数の国から報告され、血流感染症などの高い致死率を呈する感染症の報告も複数あり、現在ではemerging pathogen (新興病原微生物) の一つとして位置付けられるようになった 6-9。現在では、院内でのアウトブレイクの報告や、複数の抗真菌薬への耐性も報告されており、C. aurisの感染予防・治療戦略の確立は真菌感染症における重要な課題の一つとなっている10, 11

C. aurisのヒトへの定着は、鼻腔、鼠径部、腋窩、直腸など様々な身体部位に生じ、初回検出時より3ヵ月以上経過しても検出されうると報告される8, 10。ヒトへの定着の危険因子には、C. auris保菌者・その周囲の環境との接触が含まれ、C. auris保菌までに要する時間はわずか数時間とする研究報告もあり、ヒトへの定着は、汚染された環境などから容易に生じうると推察される 10, 12

上述のような短期間での定着、多剤耐性の可能性および侵襲性感染症発症時の高い致死率を鑑みると、院内におけるC. aurisに対する感染対策が極めて重要となる。欧米のガイドラインでは、患者の隔離 (Isolation)、手指消毒と接触予防策 (Hand hygiene and Contact precautions)、感染患者に使用した備品・環境の清掃・消毒 (Cleaning and Disinfection) の重要性が挙げられている13-16。しかしながら、現在までのところC. aurisに関するデータは不足しており、これらの対策は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) やカルバペネム耐性腸内細菌 (CRE) に準じた経験的なものとしての推奨であり、C. auris感染対策に対するデータの蓄積は今後の課題となる。

C. aurisは乾燥・湿潤環境のいずれでも長期生存が確認され、また、プラスチック表面でも14日間程度生存しうることが報告されている17, 18。この生存率はC. albicansよりも長期であり、環境汚染がより生じやすいことが示唆される。また、消毒薬に対する抵抗性も他のカンジダ属・MRSAより高いことが報告されており、酢酸、エタノール、四級アンモニウム化合物の有効性は、MRSAに対する効果よりはるかに低いと報告されている19。次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素の効果は高いことが報告されており、患者退院後の環境消毒においては、高濃度次亜塩素酸ナトリウムと蒸気化過酸化水素または紫外線の併用が高い効果を発揮すると示されている8, 10, 20。また、0.02%クロルヘキシジンや10%ポピドンヨード、2%グルコン酸クロルヘキシジン入70%イソプロピルアルコールもC. aurisに対して有効性を呈するとする報告もある21, 22。しかしながら、これらの薬剤はヒトに対して有害であるものも多く、C. aurisに対する消毒薬に関しては、今後のさらなる研究が必要な領域である。

 

 

引用文献
  1. 山口英世、病原真菌と真菌症 改訂4版、南山堂、東京、2007
  2. Pfaller M, Neofytos D, Diekema D, Azie N, Meier-Kriesche HU, Quan SP, Horn D. Epidemiology and outcomes of candidemia in 3648 patients: data from the Prospective Antifungal Therapy (PATH Alliance®) registry, 2004-2008. Diagn Microbiol Infect Dis. 2012; 74:323-31.
  3. Pfaller MA, Diekema DJ : Epidemiology of invasive candidiasis : a persistent public health problem. Clin Microbiol Rev, 20 : 133-163, 2007.
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  9. Magobo RE, Corcoran C, Seetharam S, et al. Candida auris-associated candidemia, South Africa. Emerg Infect Dis 2014; 20: 1250-1.
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  11. Chowdhary A, Sharma C, Meis JF. Candida auris: a rapidly emerging cause of hospital-acquired multidrug-resistant fungal infections globally. PLoS Pathog 2017; 13: e1006290.
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2019年9月
(国立感染症研究所真菌部  名木 稔、 阿部雅広、 宮﨑義継)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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