国立感染症研究所

<注 意 喚 起>

台風等の水害発生後に注意が必要な

免疫不全患者の侵襲性真菌感染症について

 

医療機関の方々へ:

台風等の水害発生後に、カビへの曝露によって病気になった患者を治療する場合は、侵襲性真菌感染症の可能性について留意してください。

 

背景

ヒト、特に免疫系が低下しているヒトは、環境中に生息する真菌に曝露後、数日から数週間で、侵襲性真菌感染症を発症する可能性があります。水害の結果、発生した屋内のカビへの曝露により、このリスクが高まる可能性があります。

これらの感染症は:

• 稀です。

• 通常はアスペルギルスが原因ですが、ムーコルなどの他のタイプのカビが原因となることもあります。

• 診断が困難です。

• しばしば致死的となります。

 

危険因子

発症リスクがあるのは次のような人です:

• 移植を受けた人(特に造血幹細胞移植)

• がん(特に白血病やリンパ腫などの血液悪性腫瘍)がある人

• がん治療(化学療法)中の人

• ステロイドおよび生物学的製剤などの、免疫系が弱くなる薬を使用中の人

 

徴候と症状

患者、カビの種類、罹患した身体の部位によって異なりますが、多くの場合以下が含まれます:

発熱、副鼻腔の症状、咳嗽、盗汗、呼吸困難、皮膚の暗色の痂皮・水疱・潰瘍、体重減少

患者がこれらの症状のいずれかおよび上記の危険因子のいずれかを持っている場合、真菌感染症の検査を検討してください。

 

診断と治療

侵襲性真菌感染症の診断には、複数の検査が必要です。これらの検査結果は、各患者の病歴等に応じて解釈する必要があります。

検査には次のものが含まれます:

• 肺感染症の検出によく使用される、患部の検体の培養(気管支肺胞洗浄[BAL]など)

• 真菌培養および病理組織の検体を得るための、感染が疑われる部位の生検

• 罹患部位の画像 (例:呼吸器症状に対する胸部CT)

• 主に免疫不全患者に用いられる血液検査(アスペルギルスガラクトマンナン抗原検査など)

早期治療の導入により死亡を防ぐことができます。 治療には抗真菌薬投与と、場合によっては緊急手術が含まれます。診断と治療の一助となりますので、感染症の専門家への相談をご検討ください。

 

予防のための情報

水害後などにカビへの曝露があった場合には、免疫不全患者にカビから身を守る方法について情報提供してください:

• カビは湿気がある場所で、通常は水害後24〜48時間以内に発生します。見えなくても、しばしば存在します。

• 免疫不全の人は、カビの生えた建物に入ったり、カビの掃除を手伝ったりしてはいけません。免疫が低下している人がカビの生えた建物に入ることを避けられない場合、患者は医師と相談し、建物内ではマスクを着用することを推奨しましょう。カビへの曝露から患者を完全に保護することはできませんが、そのリスクを減らすことはできる、ということを伝えましょう。

• 患者の家にカビが発生している場合、掃除や水の問題の解決は、健康な人に任せましょう。

• 健康な人もカビの掃除をしたり、カビの影響を受けた場所で時間を過ごしたりする時は、マスク、手袋、ブーツ、長ズボン、長袖などの完全な保護服を着用してください。マスクだけでは、カビに曝露されて病気になることを完全に防ぐことはできません。

 

 

~米国疾病管理予防センター(CDC)からの情報提供による~

参考URL:https://www.cdc.gov/mold/306718-A_FS_MoldInfectionsPostHurricaneandFlood-H.pdf

2019年11月
(国立感染症研究所真菌部  梅山 隆、 阿部雅広、 宮﨑義継)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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