国立感染症研究所

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複数の病原体が検出された旅行者下痢症の検査について―秋田県

(IASR Vol. 39 p223-224: 2018年12月号)

患者は2018年8月に約1週間, 南アジアの某国に滞在していた。滞在中から嘔吐・下痢の症状を呈しており, 帰国後に居住地の近医を受診し, 整腸剤が処方されていた。消化器症状が改善しないため, 8月末に秋田県の医療機関を受診した。医療機関の検査で, ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)が顕微鏡で確認されたため, ジアルジア症が確定したが, 同行者がコレラ疑いであるとの情報があったこと, 便培養で腸管出血性大腸菌(EHEC)の選択培地に発育があったことから, 管轄の保健所に相談があり, 当センターに精査依頼がなされた。

医療機関から提供されたEHECの選択培地上に発育した菌については, VT遺伝子を対象にしたPCRを行ったが陰性であった。しかしながら, 患者便について網羅的に病原体を検索できるFilmArrayTM(Biomérieux 社)を用いたmultiplex PCRにより病原体を確認したところ, G. lambliaの他に6種類(細菌5種類・ウイルス1種類)の病原体遺伝子が検出された。便の培養検査でも2種類の赤痢菌(S. boydii 12, S. sonnei)を含む複数の細菌が分離された()。また, ウイルスの検査項目についてreal-time PCRにより精査したところ, Sapovirusとスクリーニング検査では不検出であったNorovirusが検出された。シークエンス解析の結果, 遺伝子型はそれぞれSapovirus GI.2型およびNorovirus GII.16型と同定された。いずれの検査においても, 当初想定されたコレラ菌やEHECは検出されなかったが, コレラ菌と類似の毒素を産生する毒素原性大腸菌(ETEC)が患者から検出された。患者から赤痢菌が分離されたことから, 改めて主治医より細菌性赤痢の届出がなされ, その日から抗菌薬による治療が開始された。その後, 採取された便の培養検査からは, 赤痢菌は検出されなくなり, 陰性化が確認されている。

今回の患者からは多種の病原体が検出されたが, 一部の病原体については検査法によって判定結果が異なっており, それぞれの検査法の特徴や感度・精度については考慮する必要がある。しかしながら, 赤痢菌等の培養検査では, 典型コロニーが非常に少ない場合もあり, スクリーニング検査の結果は菌分離を行う上で非常に参考になった。特に旅行者下痢症ではしばしば複数の病原体が検出されるため, 重複感染を念頭に検査を行うことが必要であることから1), 網羅的に病原体を検出できるスクリーニング検査は, その後の検査の省力化や重点検査項目の検討を行う上で非常に有用と考えられた。

 

参考文献

 

秋田県健康環境センター・保健衛生部
 今野貴之 髙橋志保 小川千春 樫尾拓子 熊谷優子 秋野和華子 斎藤博之
秋田県・保健所
 佐々木和仁 加藤佑佳 大門洋子 高島樹子 豊島優人

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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