注目すべき感染症
◆ 手足口病
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行する疾患である。病原ウイルスは主にコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であり、その他CA6、CA9やCA10などのエンテロウイルスによっても発症する。例年4月頃から患者数が増加し始め、流行のピークは7月の中旬か下旬となり、8月に入ると減少していく、という経過を辿る。
臨床的特徴であるが、感染から3~5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが軽度であり、高熱が続くことは通常はない。本症は基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患である。しかしながら、まれではあるが髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することがある。 感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染であり、保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。本疾患は主要症状が回復した後も比較的長期間にわたって児の便などからウイルスが排泄されることがあるが、基本的には軽症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて手足口病をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。手足口病の定点当たり報告数は2012年第19週以降増加が続いており、第26週は0.58(報告数1,833)と前週(定点当たり報告数0.47)よりもさらに増加した(図1)。都道府県別では青森県(4.29)、新潟県(4.05)、福井県(3.73)、群馬県(1.48)、沖縄県(1.32)、宮城県(1.14)、長野県(1.13)の順となっており、27都道県で前週より増加がみられた(図2)。2012年第1~26週の定点当たり累積報告数は4.42(累積報告数13,916)であり、年齢群別では2~3歳38.0%、0~1歳33.9%、4~5歳18.3%の順となっている。2009年、2011年は0~1歳が最多であったが、2000年以降では、この2年を除けば本年と同様に2~3歳が最多を占めている(図3)。
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図1. 手足口病の年別・週別発生状況(2002~2012年第26週) |
図2. 手足口病の都道府県別定点当たり報告数の推移(2012年第24~26週) |
図3. 手足口病の年別・年齢群別割合(2000~2012年第26週) |
手足口病の原因ウイルスはCA16かまたはEV71が代表的であるといわれてきたが、2009年、2011年に最も多く患者から検出されたのはCA6であった。2012年は現時点(2012年7月9日現在)では総検出報告数は59検体とまだ少ないものの、CA16が44.1%と最多を占めているのは2008年以来である(図4)。
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図4. 手足口病由来ウイルス分離・検出報告割合(2008~2012年第26週) |
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2002年から昨年までの10年間で、手足口病の報告数が最多となった週は第28週が5回と最も多く、次いで第29週3回、第31週と第32週が各1回の順であった。2012年の手足口病の報告数は間もなくピークを迎えるものと予想されるため、その発生動向には引き続き注意深い観察が必要である。
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