国立感染症研究所

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大阪府内における2012年の風疹患者発生状況

(IASR Vol. 34 p. 97-98: 2013年4月号)

 

大阪府内における風疹報告数は例年10~20例で推移していた。しかし、2011年は54例、2012年は全国の都道府県で2番目に多い 408例であり、先天性風疹症候群(以下CRS)も1例報告された。

患者発生状況
週別報告によると、第1週から継続して患者報告があり、第32週を頂点として春~夏に大きな流行がみられ、夏以降も完全に終息しなかった(図1)。CRSは2012年第49週に報告され(本号3ページ表1参照)、春から夏の流行の結果を反映したとみられる。性別は男性 291例(71.3%)、女性 117例(28.7%)で、年齢中央値は男性31歳(範囲0~57歳)、女性23歳(範囲O~62歳)であった。年齢群別報告数(図2)をみると、男性では30代前半、女性では20代前半が最も多く、全国集計1)と比較すると、男女ともに40~50代の患者割合は少ない傾向にあった。風疹は30~50代の男性のワクチン接種率および抗体保有率が低いとされるが2, 3) 、大阪府内では、20~30代の男性が全体の50.7%を占め、流行の中心を形成したと考えられる。

408例のうち、検査(コマーシャルラボまたは衛生研究所)によって診断確定した事例は 330例(80.9%)、臨床診断に基づいて報告された事例は78例(19.1%)であった。検査方法はIgM 抗体の検出が最も多く 235例(71.2%)、PCR 法69例(20.9%)、ペア血清による抗体上昇25例( 7.6%)の順であった。

風疹ワクチン接種歴に関しては、ワクチン歴なし91例(22.4%)、1回24例(5.9%)、2回4例(1.0%)、不明 289例(70.8%)であり、不明が大多数であった。感染経路に関しては、風疹患者との接触歴が明らかだった事例が79例(19.4%)あり、接触者として最も多かったのが職場の同僚(33例)、次いで家族(17例)、知人・友人(12例)、学校や保育園(3例)、その他(14例)であった。感染経路が不明は 241例(59.0%)、未記載は88例(21.6%)であった。青壮年の男性が多い職場でのウイルス伝播が風疹流行のハブになっている可能性が示唆される。

風疹症例の臨床症状
408例のうち風疹に特徴的とされる3徴候(発熱、発疹、リンパ節腫脹)をみたものは 243例(59.6%)、発熱と発疹が 110例(26.9%)、発熱とリンパ節腫脹26例(6.4%)、発疹のみ28例(6.9%)、発熱のみ1例(0.2%)であった。風疹の診断は麻疹との鑑別が問題となる4)。大阪府内では2012年に 101例が感染症サーベイランスシステム(NESID)に麻疹症例として登録され、97例(96.0%)が検査診断後に取り下げられた。取り下げ例97例のうち36例(37.1%)は風疹と診断された。これら36例の臨床症状は、発熱と発疹のみが大多数を占めた(88.8%)。風疹と麻疹の中でも修飾麻疹は、臨床症状に基づく鑑別が容易ではなく、IgM 抗体検査とPCR 検査を組み合わせた検査診断の重要性が指摘される。

実験室診断事例
2012年に大阪府下でPCR にて風疹ウイルスを検出した84症例についてまとめると、検体種別のウイルス検出率は咽頭ぬぐい液が最も高く(71.4%)、続いて血液(44.0%)、尿(40.5%)の順であった。ウイルス検出率は発症翌日に採取された検体がもっとも高く、発症当日の検体も検出可能であった。検出期間は咽頭ぬぐい液、尿、血液検体から発症後それぞれ最長10日、7日、6日であった。

遺伝子型別に供された54検体において、風疹ウイルスE1領域の部分配列に基づく系統樹解析を行った結果、遺伝子型2Bが28例、1Eが24例、型別不能が2例であった。大阪府内では2012年の前半は2Bが中心の流行であったが、患者数が多い30週前後から1Eの検出が増加し、流行ピーク時には1Eと2Bは混在していた。その後も徐々に1Eの検出頻度が上がる傾向にある。2012年に国内で報告された風疹ウイルスと大阪府内で流行したウイルスはそれぞれの遺伝子型で同一のクラスターを形成し、大阪府で流行したウイルスが特異であった可能性は低いと思われた。現在の状況は、世界的な風疹の流行にともない2Bおよび1Eが国内に侵入し定着しつつあり5)、2Bから徐々に1Eを中心とした流行に移行する可能性が考えられた。

今後の取り組み
2013年は第8週の時点で昨年同時期と比較して累計患者報告数が6倍を超え、今後さらなる風疹の流行やCRSの発生が危惧される。医療機関においては流行の中心と思われる青壮年期の男性で発疹と発熱をきたした患者を診察した場合、風疹を積極的に疑うことが重要と思われる。また、医療機関や行政のより積極的な啓発が必要であり、ワクチンの定期接種勧奨に加え、特に妊娠可能な年代の女性やそれらの女性と同居している等接触の機会のある成人男性への注意喚起とワクチン接種勧奨が重要であると考えられる。

 

参考文献
1)感染症発生動向調査 2012年速報データ52週
  http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/3086-rubella-sokuhou-rireki.html
2) IDWR 17.18: 15-19, 2011
3)年齢/年齢群別の風疹抗体保有状況 2011年
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/514-idsc/yosoku/1911-rubella-yosoku-serum2011.html
4) IASR 32: 255-257, 2011
5) IASR 32: 260-262, 2011

 

大阪府立公衆衛生研究所 倉田貴子 上林大起 駒野 淳 西村公志 加瀬哲男 高橋和郎
大阪府健康医療部地域保健感染症課 大平文人 松井陽子 伊達啓子 熊井優子
大阪市立環境科学研究所 久保英幸 改田 厚 後藤 薫 長谷 篤
大阪市保健所 廣川秀徹 吉田英樹
堺市衛生研究所 内野清子 三好龍也 田中智之
国立感染症研究所 森 嘉生 大槻紀之 坂田真史 駒瀬勝啓 竹田 誠

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