国立感染症研究所

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2012年度風疹予防接種状況および抗体保有状況
        -2012年度感染症流行予測調査(中間報告)

(IASR Vol. 34 p. 105-107: 2013年4月号)

 

はじめに
感染症流行予測調査における風疹感受性調査は1971年度に開始され、以降、2012年度までほぼ毎年度実施されてきた。本調査は風疹に対する感受性者を把握し、効果的な予防接種施策を図るための資料にするとともに、将来的な流行を予測することを目的として、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における抗体保有状況ならびに予防接種状況の調査を行っている。

風疹患者は2008年1月以降、従来の定点報告から全数報告に変更となり、その患者報告数は2008年に293例、2009年に147例、2010年に87例と減少傾向にあった。しかし、2011年は378例と増加し、2012年はさらに2,392例と大きく増加した。2013年に入っても流行は続いており、2013年4月10日現在で第1~14週(2012年12月31日~2013年4月7日)までの報告数は3,480例と、すでに2012年1年間の報告数の約1.5倍に達している。これらの患者の多くは20~40代の成人男性であり、この年齢層における抗体保有状況等、2012年度の調査結果について報告する。

調査対象
2012年度風疹感受性調査は宮城県、山形県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、長野県、愛知県、三重県、京都府、山口県、高知県、福岡県の14都府県で実施された。抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において、それぞれの地域で主に7~9月に採血された血清を用いて赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition:HI)試験により行われた。また、風疹に関する予防接種状況調査については上記に北海道、福島県、茨城県、富山県、大阪府、香川県、愛媛県、佐賀県、熊本県、宮崎県を加えた24都道府県で実施された。2013年3月5日現在、5,094名(男性 2,225名、女性 2,869名)の抗体価および 7,043名(男性 3,145名、女性 3,898名)の予防接種歴が報告された。

風疹含有ワクチン接種状況
図1に風疹含有ワクチン(風疹単抗原ワクチン、麻疹風疹混合ワクチン:MR、麻疹おたふくかぜ風疹混合ワクチン:MMR)の接種状況について男女別に示した。なお、本調査結果は一調査時点における接種状況であり、厚生労働省で実施している年度単位の定期の予防接種率の調査結果(厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html)とは異なることに注意が必要である。

全体の接種状況をみると、風疹含有ワクチンの1回接種者は男性26%/女性32%、2回接種者は男性13%/女性16%、接種は受けたが回数不明であった者は男性3%/女性4%、未接種者は男性10%/女性9%、接種歴不明者は男性48%/女性39%であった。年齢別にみると、男女とも0歳の1回接種者は数%であるが、1歳で約70%となり、2~4歳では約80~90%まで上昇した。5歳以上は2回接種者が増加し、20歳までの多くの年齢で40%以上を占めていた。20歳以上では接種歴不明者が多く、女性の20~24歳群を除き、男女ともすべての年齢群で半数以上が接種歴不明者であった。また、1回以上接種者(1回・2回・回数不明接種者)についてみると、20歳未満の年齢層では男女差はほとんどなく、2歳以上はおおむね90%以上であった。しかし、20歳以上の年齢層では男女差が大きく、特に20代(男性24%/女性47%)、30代(男性12%/女性35%)、40代(男性10%/女性30%)の男性は女性より20ポイント以上低かった。

風疹HI抗体保有状況
年齢別/年齢群別の風疹HI抗体保有状況について図2に示した。HI試験により抗体陽性と判定される抗体価1:8以上についてみると、20歳未満では男性と女性でほぼ同じ傾向であり、0歳で30%程度であった抗体保有率は1歳で上昇し、2歳以上ではおおむね90%以上を維持していた。一方、20歳以上についてみると、女性では50代で抗体保有率が前後の年齢群と比較して低いものの、ほとんどの年齢群は90%以上であった。しかし、男性では多くの年齢群で90%を下回り、30代(30~34歳群84%、35~39歳群73%)、40代(40~44歳群86%、45~49歳群81%)では、同年齢層の女性(97~98%)と比較して10ポイント以上(12~25ポイント)低い抗体保有率であった。また、20代(男性90%、女性95%)および50歳以上(男性88%、女性89%)では、抗体保有率に大きな男女差はみられなかった。

まとめ
2012年度調査の結果、20歳未満の年齢層においては予防接種状況および抗体保有状況に男女差は認められず、定期接種第1期対象年齢の1歳で接種率・抗体保有率は上昇し、2歳以上ではいずれも90%以上であった。一方、20歳以上の年齢層においては、1回以上接種者の割合および抗体保有率は女性と比較して男性で低く、とくに風疹の定期接種が女子中学生を対象に行われていた世代となる30~40代ではその差が顕著であった。

2006年のMRワクチンの使用ならびに2回接種の開始、および2008~2012年度の第3・4期接種の導入により、20歳未満の年齢層における風疹の予防接種状況・抗体保有状況は向上し、麻疹と同等になってきた。しかし、20歳以上の男性では接種率、抗体保有率ともに低く、それが現在も流行中の風疹患者の発生につながっていることは明らかである。2012年10月以降2013年3月までに、すでに8例の先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)の患者が報告されているが、CRSの発生を防ぐためには、定期接種対象者はもちろんのこと、任意の接種であっても妊娠を希望する女性のみならず、妊娠中の女性の家族、そして本調査で接種率・抗体保有率が低かった成人男性における風疹の予防接種が非常に重要と考えられた。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子
同 ウイルス第三部 森 嘉生
2012年度風疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県:
北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、 富山県、長野県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、愛媛県、高知県、 福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県

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