国立感染症研究所

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保健所等における無料匿名HIV 検査の現状とその課題

(IASR Vol. 34 p. 253-254: 2013年9月号)

 

全国の保健所等における匿名HIV検査は1987年に始まり、今年で26年目を迎えた。当時、世界中で大流行していたHIVの日本への感染拡大を防ぐため、HIV検査体制の整備が急務となり、保健所での検査受付と結果説明、地方衛生研究所での検査体制が急きょ整備された。これまでのHIV検査体制構築の変遷および現状を分析するとともに今後の課題の解決策について考えてみたい。

保健所でのHIV検査は1987年に有料のHIV-1抗体検査として始まり、1993年4月から無料化された。また、来日外国人1名のHIV-2感染が報告されたことから、同年8月からHIV-2抗体検査も加わった。当初は国民の関心が高く、またマスコミの報道等によって保健所での検査数は1992年には13万件を超えたが、その後、人々の関心が薄れるとともに検査数は減少し、1997年には46,237件まで落ち込んだ。しかし、エイズ動向委員会でのHIV/AIDS報告数は増加し続け、保健所検査においても感染者数は増加した(図1)。一方、献血血液においてもHIV抗体陽性率は年々増加し、1999年、抗体検査をすり抜け、ウインドウ期にある血液の輸血によるHIV感染が判明し、同年10月からHIV抗体陰性のすべての献血血液において核酸増幅検査(NAT)が導入された。

このような状況の中、保健所等でのHIV検査体制の強化が重要な課題となり、2000年に厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業においてHIV検査体制研究班が立ち上がり、厚生労働省や全国自治体の関連各所との協力により、保健所で平日行われている通常検査の他、夜間検査受付、土日の特設検査所の開設・増設への協力、即日検査の検討・導入等を順次行った。また、これらの検査情報を提供するホームページ「HIV検査・相談マップ http://www.hivkensa.com」を2001年に開設した。

特に2003年以降の即日検査導入の効果は大きく、検査数、陽性数は著しく増加し、2008年の検査数は177,156件、陽性数は501件で、2002年に比べそれぞれ2.9倍、2.2倍にまで増加した。しかし、2009年には新型インフルエンザ大流行の影響を受け検査数は大幅に減少し、流行の治まった2010年も 130,930件(2008年比、26%減)まで減少し、その後もほぼ同様の検査数で推移している(図1)。しかしながら、2010年の陽性数(473件)は2008年比の5.6%減に過ぎず、陽性率は0.28%から0.36%に増加していた。

エイズ動向委員会のHIV 感染者数に占める保健所等陽性者数の割合を図2に示した。保健所等の検査での陽性数は2000年以前には新規感染報告数の20%程度に過ぎなかったが、検査体制の改善・強化とともに年々増加し、2012年は47%となった。2012年は検査数が減少する中、捕捉率は上昇しており、保健所等のHIV検査は一定の効果を上げていることが示された。

保健所等の無料匿名HIV検査は、保健所の他、各自治体が開設した特設検査施設で行われている。各々の検査数の動向を見てみると、保健所での検査数は2008年のピーク時には146,880件であったが、2009年以降、新型インフルエンザの流行や東日本大震災の影響が重なり、2010年には103,007件(30%減)まで減少し、その後もわずかながら減少傾向にあり、回復の兆しは見られない。一方、特設検査施設では2008年のピーク時(30,276件)に比べ2010年には保健所検査と同様に減少(27,923件)したが、減少率は7.8%に留まり、2012年には28,723件(2008年比 5.1%減)まで回復した。

特設検査施設は平日以外に検査を実施しているところが多いため、受検者が利用しやすいものと思われ、感染者の早期発見のためには、特設検査施設の増設・充実や保健所の夜間・土日検査を広げる等、利便性を充実させるとともに、リスクの高い集団へ検査を促す施策が効果的と考えられる。

我々は、保健所等のHIV検査体制の実情を把握し、その充実を計るため、全国の保健所等の協力によりアンケート調査を毎年実施(回収率80%以上)している。2008~2012年の5年間について見てみると、保健所検査での陽性率は0.22~0.27%で、陽性例を経験したことのある保健所は23~25%、本人に陽性結果を伝えられた率は89~95%、その後医療機関への受診を把握できた率は67~75%で、陰性については毎年98%に結果が伝えられていた。感染症法に基づく届出に関しては60~80%が保健所から報告が行われており、残りは紹介先の医療機関に依頼していた。即日検査は61~67%に導入されており、年々徐々に増加していた。

特設検査施設数は2011年までは17~19か所であったが、2012年は25か所に増えた。回収率は84~100%で、陽性率 0.6~0.7%、陽性例経験施設は82~100%、医療機関への受診を把握できた率は72~82%であり、いずれも保健所より高率であった。特に陽性率は保健所検査の2.6倍高く、リスクの高い集団が利用していると考えられた。

また、HIV以外の性感染症検査については約80%の保健所が実施しているが、中でも梅毒、クラミジア検査は5年間を通して実施率が高く、約65%の施設で行われている。この他B型肝炎ウイルス検査の実施率は2010年までは26%と低かったが、2011年は60%、2012年は78%に増加しており、C型肝炎ウイルス検査は2010年までは約20%であったが、2012年は73%まで増加した。HIV対策と一緒に肝炎対策を行っている保健所が増加していることが分かった。

国のHIV検査関連予算が削減されている中で、各自治体では新たに特設検査施設を開設したり、肝炎ウイルス検査実施施設を増やしたりと工夫していることが分かった。わが国のHIV検査体制はそのつど、改良を重ね、質の高い検査機会を広く国民に提供している重要なシステムであり、個人の治療のみならず、社会全体の感染拡大を防ぐため、今後より一層の充実が求められている。

 

参考文献
1)加藤真吾,他,「HIV検査相談体制の充実と活用に関する研究」総合研究報告書(平成21~23年度)
2)加藤真吾,他,「HIV検査相談の充実と利用機会の促進に関する研究」研究報告書(平成24年度)

 

「HIV検査相談の充実と利用機会の促進に関する研究」班
近藤真規子1 佐野貴子1 今井光信2 加藤真吾3

 1. 神奈川県衛生研究所 微生物部
 2. 田園調布学園大学 人間福祉学部  
 3. 慶應大学医学部 微生物学・免疫学教室  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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